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第70話 終りの無い続き①

※ヒロイン視点







 は、グラヴィス・シュヴァリエだった。






 あれから月日が経ち、あたしは再び学園にやってくる日が来た。


 領地内では前回と同じくちやほやされたがこれも全てセイレーンの魅了魔法のせいだと思うと心の底から喜べないでいる。セイレーンにも魅了魔法をあまり使わないで欲しいとお願いしたのだが断られてしまった。


 夢の話をしてもよくわからないと言う反応をされてしまったのだ。


 魅了魔法は相手の“好意”を増幅する魔法だと言うが、それが純粋な気持ちだけが対象ではない事を既にあたしは知っている。でも、セイレーンは人間の愛に興味津々であたしの気持ちなどお構い無しなのだ。精霊は気まぐれでわがままだと言うが本当だなと思った。


 つまりは自衛するしかない。後、変に自惚れて勘違いしないようにしないと……。とりあえず、もうジェスティードには関わらないようにするしかない。


 そしてジェスティードを避け続けていたある日、あたしは例の悪役令嬢……フィレンツェア・ブリュードに出会ってしまう。


「あっ」


 前回でやられた酷いイジメを思い出してしまい思わず身を竦めてしまうと、あたしの態度にフィレンツェアが眉を顰めた。当たり前だ。だって“今回”は初めて顔を合わせたのだから。どうにか誤魔化さないと。と考えていると、なんとそこにジェスティードが現れたのだ。


「おいフィレンツェア、今度はこの男爵令嬢をイジメているのか。こんなに怯えてかわいそうに。お前は自分が“加護無し”だと自覚はしているのか?彼女は素晴らしい守護精霊を持っているんだぞ」


「あら、ジェスティード殿下。その方とは初対面で……私は何もしていませんわ。と言っても、どうせ信じてはくださらないのでしょう?だって私は“加護無し”ですもの」


「ふん、そんな態度だから“悪役令嬢”などと言われるんだ。もう少し俺の婚約者らしい振る舞いをして欲しいものだな」


「……承知いたしました」


 綺麗なカーテシーで頭を下げたフィレンツェアだったが、その瞳はあたしを忌々しげに睨んでいる。どうやら────またあのイジメの日々が始まってしまうようだ。たぶん、フィレンツェアから見ればあたしはジェスティードの寵愛を狙う姑息な男爵令嬢というところだろう。


 それからあたしは学園での居心地が悪くなり、逃げるように図書館に通った。それがフィレンツェアにバレて嫌がらせの一環としてたくさんの本を集めさせられたり、せっかく届けたのに突き返されたり……それでも命を狙われるようなことは無かったので、前回の過酷なイジメよりはだいぶマシだったのが救いである。


 でも、そこでグラヴィス・シュヴァリエに出会ったのだ。


 大量の本を抱えていた時に足元が見えず躓いてしまい、それを助けてくれたのがグラヴィスだった。



「こんなにたくさんの本を読んで勉強しているなんて、君はなんて努力家なんだ」


「シュヴァリエ先生……」



 グラヴィスのライトブラウンの瞳がとても優しく見えた。その時もセイレーンが楽しそうに“歌”を歌っていたのだが……なぜかグラヴィスは大丈夫のような気がしていたのだ。きっとこの人なら悪事になんて手を染めたりしない。と。


 それからグラヴィスはあたしにいろんなことを教えてくれた。


「人間は嘘を付くが、本は真実しか語らないんだ」


 いつもそう言ってあたしのために本を選んでくれる。あたしにはそれが愛の囁きのように聞こえ、前回とは違う穏やかな時間が傷付いたあたしの心を癒してくれたのだ。フィレンツェアに嫌がらせをされていることも知られてしまったがグラヴィスは公爵令嬢であるフィレンツェアに苦言を強いてくれたと言う。あたしの味方はグラヴィスだけだった。


「俺がお前をどんな攻撃からも守ってやる」


「嬉しい……!」



 そんな時だ。なぜかジェスティードが図書館にやって来てあたしの前に現れたのだ。


 前回のジェスティードは図書館になんか行ったことなど無いはずだ。とっさに脳裏に浮かんだのは“前回”のジェスティードの姿で……あたしは恐怖のあまり言わなくていいことを叫んでしまった。



「ジェスティード様、あたしはあなたの悪事になど手を貸しません!守護精霊を奪った人を奴隷にするなんて許されないわ!犯罪者なのはあなたの方よ!」


 あたしの発言に顔を青ざめたのはジェスティードではなくグラヴィスの方だった。


「ルル・ハンダーソン嬢、第二王子に向かってなんてことを……!」


「守護精霊を奪う?奴隷?……この女は何を言っているんだ?まだフィレンツェアに嫌がらせをされているというから、俺がわざわざ話を聞きに来てやったのに……!おい、グラヴィス・シュヴァリエ!教師の言葉だからと信じてフィレンツェアに見つからないようにやって来た俺の顔によくも泥を塗ってくれたな?!お前が希少な治癒魔法を使うルル嬢を助けてやってくれと懇願してきたんじゃないのか?!」


 “前回”とは違い、“今回”のジェスティードは犯罪には手を染めていなかったのだ。グラヴィスが自分の苦言だけでは嫌がらせをやめようとしないフィレンツェアを止めるために内密で相談したいからとジェスティードを図書館に呼んでいたなんて……。


「その女を不敬罪でひっ捕らえろ!!」


 その気迫にあたしはその場から逃げ出した。そして階段で足を滑らせ────首の骨を折って死んでしまったのだ。




 遠のく意識の中で、またもやピロン!と音が聞こえた。やはり“世界”が止まったようだ。



 そしてまたもや周りの風景がセピア色に染まり、白黒が反転していく。あぁ、これも同じだ。



『うわぁ、これも死んじゃったよ!?おっかしいなぁ、バッドエンドばっかり……参考にしたやつどれだったっけ?あ、やばっ間違えてる……よし、やり直ししよ!』



〈GAMEOVER! 攻略に失敗しました。グラヴィスルートBADEND〉





 そしてあたしは、また人生をやり直すことになったのだ。




 は、ノーランド・スラングだった。




 ジェスティードにもグラヴィスにも関わりたくなかったあたしは、学園をサボって街中をうろつくようになった。そこでひったくりに遭遇してしまい困っているところをノーランドに助けられたのだ。


 ジェスティードともグラヴィスとも違うタイプのノーランドに心が惹かれそうになったがそれをぐっと堪える。だってセイレーンがまた“歌”を歌っていたからだ。あたしが常に愛されるように願ってるからこそ魅了魔法を使うのだと……。でも荒んだでしまったあたしには魅了魔法がないと誰からも愛されないと言われているように感じていた。


 あたしは最初、ノーランドを無視することにしたのだ。関わってはいけない心に決めて……でも、ノーランドの愛はまっすぐだった。あたしはだんだんそれを受け入れる気になっていたのだ。もしかしたら今度こそ幸せになれるかもしれないと……。


 しかし、やはりと言うかジェスティードがあたしに絡んでくる。そして必ずフィレンツェアに敵視されるまでがセットである。魅了魔法の事はバレていないが治癒魔法の方は有名だったので王族に目をつけられるのは仕方がないのかもしれない。それに2回目の時でジェスティードが犯罪に関わっていない場合があることを学んだので余計な事は言わずにフィレンツェアの嫌がらせも平気な顔をしてこなしてみせた。




 そして────あたしは死んだ。







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