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第78話 腐が舞い降りる時


※神様視点




「────あっれぇ?」


 目が覚めるとボクはたくさんの女の子に囲まれていた。


 え?なんで?


「ジュドー様、こちらに目線をお願いしますわ!」


「できれば右手をもう少し上に……ああぁ〜最高ですわぁ!!」


 黄色い声と共にカリカリと響く鉛筆の音にボクは首を傾げ「動かないでくださいませ!!」られなかったが傾げたくなった。


 へ?写生大会?……しかもボクがモデル?なんか変なポーズをとって薔薇なんかくわえているみたいだし、なんなのこれ……。


 んんん?ちょっと居眠りしてた間に何が起こったのかな???


 チラリと視線だけ動かすと、イベントを起こしておいたはずの無口な護衛がピシッと背筋を伸ばして……なぜか泣いていた。無表情なのに号泣してるって……君は一体なにをしてるの?


 この護衛は一定の条件を満たすとこの第二王子の味方になって革命を起こしたりなんかする裏イベント用のキャラクターなんだ。ほら、乙女ゲームだけど恋愛とは関係ないイベントもやってみたいとかなんとかで思いつきで設定したんだよね。


「……あ」


 あれ……?今思い出したけど、やたら裏設定ばっかり作り込み過ぎたせいかヒロインとの絡みに無理矢理繋げたらとんでもない事になってストーリーの収拾がつかなくなったから(面倒くさくなって)結局途中でやめてそのデータの上に他のモノに上書きしたんだったっけ?


 それならば、どれだけ強制的にイベントを始めたとしてもイベントが起こるはずがないんだよね。なぜならばその設定自体が消えてしまっているはずなんだから。じゃあイベント開始は失敗してるのか……。自分で上書きしたんだからしょうがないんだけど、今更ながらちょっと見てみたかったかも。なんて思いながら下を向いてため息を「視線は上のままでお願いしますわーっ!!」つくことも出来ないようだ。ほんとになんなのこの女の子たち。


 まぁ、つまりはジュドーの裏イベントは無かった事になってるんだから……この護衛もジュドーの味方にはならないのか……。ん、じゃあなんで泣いてるの?いや、どのみち泣いてる設定なんかしてなかったけどね。




「さすがはジュドー様です!」



「へ?」



 護衛はさらに涙をぶわっと溢れさせ、ボクに向かって敬礼をしだしたんだ。



「まさか、たった1日でこの国のご令嬢方を纏められるとは……しかも瞬時にご自身の魅力を最大限に活かしてこれだけの人数を集められるなんて感服いたしました!しかもちゃんとご令嬢方の人柄を見分けられるとは……やはりジュドー様は素晴らしいお方です!!ファンクラブの写生大会ならば人が集まっていても不審には思われませんし、この国の重要な貴族からの情報も集められます!しかも、まさかこのようなパイプ役を隠しておられたとは……さすがは王の器です!」



「へ?」



 よくわからなくてマヌケな返事をするボクの前にスッとひとりの女の子が現れたのだが……それは、ボクが見たことのないキャラクターだった。


 この世界は元はボクが作った乙女ゲームを模した世界だ。どうやらバグのせいで変なことになってるようだけど基本設定はそのままのはずだし、重要なキャラクターは全て覚えている。もちろんモブだってちゃんと作ったんだ。ジュドーボクに直に関わってくるようなキャラクターの中にこんな人物はいないはずなのだ。


 と言うか、ジュドーのイベントにこんな女の子達に囲まれて絵のモデルにされるようなモノなんて作った覚えはないのにまさかこれもバグ……まぁ、未完成だったのに急遽パラレルワールドになったからめちゃくちゃバグは起きてるんだけど。


 えーと、いや、うん。それにもしかしたら上書きして消した元のデータの方には落書き的な書き込みとかはしたかもしれないよ?ほら、アイデアのメモみたいなアレだよ。聖女にはアイデアメモはちゃんと別に残しておかないとややこしくなるんじゃないかと言われたけれど……いやほら、あの時はとにかく書き込みたいテンションだった……気がするような?あぁ、だんだん自信が無くなってきた。


 するとその女の子は金色の髪をさっと靡かせ、制服のスカートを摘んでボクに向かって頭を下げてきた。これは淑女の挨拶ってやつだよね。ボクだって乙女ゲームを作るためにちゃんと勉強をしたんだ。やっぱり世界観って大切だからさ。


 でも、この子の瞳……どこかで見たことがあるような気がしてきた。いや、色じゃない。紫がかった瞳はこの世界では普通の色のはずだし。じゃあ、なんだろうか?


「……ぐふふ♡」



 そう、この眼差しだ……。ボクを見る、なんだか意味ありげな瞳は────。



「お初にお目にかかります、ジュドー殿下。わたくしは……フランソア・ロットンと申します。異国の地にあるロットン帝国からはるばるやって来ました第三王女ですわ。ロットン帝国は別名〈腐った国〉────わたくしはジュドー殿下の手助けをする為に全世界パラレルワールドより“貴腐人”や“腐女子”を招集してやってまいりました。……そう言えばおわかりになるでしょうか?」


 そう言ってにやりと目を細めたその人物が「ぐふふ♡」と笑った。


「わたくしは───いえ拙者は、助太刀に来たのでござる。……、最後に目が合ったでござろう?実はあの後、〈時間の神〉達は浮かれていたのか隙だらけでござったので……こっそり拙者の管轄内にあるパラレルワールドの〈腐った世界〉の一部と繋げてみたのでござるよ。そこからかなりの手練である拙者の信者を連れてきて紛れ込ませているので────少しはお役に立てると思うでござるのですが……ぐふっふっふ。


やぁ、〈オタ神〉殿。お久しぶりでござるね♡」



「え、ちょっと待ってよ……まさか────く、〈腐った神〉なの?!」



 びっくりし過ぎて思わず叫んでしまったが、さすがに聞かれてはマズかったのではと護衛の方を振り向くと……やっぱり護衛は天を仰いで泣いていた。だからなんで?



「あ♡ちなみにそこの護衛は拙者が改造しておいたでござるので拙者達の事を怪しんだりはしないのでござる!〈オタ神〉殿が消し忘れていたデータをいじっていたらなんやかんやとできたでござるのですが、なぜかすぐ泣いてしまうのだけが不可解な……あ、もちろん信者の腐女子たちも全員味方でござるからご安心くだされ♡ただちょーっと、熱心に腐活動をするのだけはお許しくださいませな♡」


「えぇぇぇぇ〜っ?!」



 ボク以外の〈神〉がこの世界にやってくるなんて。確かに何かするだろうなとは思っていたけれど、まさかこんな事をするだなんて考えもしなかった。


 ボクは〈腐った神〉からさらに事情を聞こうとしたんだけど……。




「「「だから、動かないでくださいませぇぇぇ!!」」」



「はいっ!」



 剣の代わりに鉛筆を掲げた腐女子達の殺気にも似た勢いに負けてボクは再びポーズをとるのだった。


 どうやら詳しい話し合いはしばらくお預けのようだ。うーん、そう言えば……管理者のボクがいなくなった後って、この世界の管理はどうなってるんだろうね?






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