「オッドアイに関する伝承……だと?しかも間違っていたなんて……。いや、なぜそんな、聞いたこともない異国の地にアレスター国の言い伝えが……?それに、なんで見ず知らずのオレの為にわざわざ君はやって来たというんだ。そんなに詳しいのなら、オレについての事もよく知っているだろう?!」
「伝承について知っている云々は、わたくしの祖先が伝承マニアだったからだと伝え聞いておりますわ。それは最初はただの収集癖だったそうなのですが、そのうちに各伝承の謎を解き明かすのが趣味になった祖先は旅に出て調べては検証してを繰り返していたのだそうです。はるか昔に祖先はアレスター国へ調べた事を伝えようとしたそうなのですが、その頃はまだロットン帝国は国では無く小さな村だったそうで相手にされなかったのだとか……。そこから祖先は村を大きくしようと試行錯誤を繰り返し、それらの知識を後世に残してくれました。そして……わたくしの姉達の功績もあって今は帝国を名乗るまでに発展したのですわ。(本当は〈オタ神〉殿の裏設定資料集をこっそり読んでいたので知っているだけなのでござる。拙者の世界とこの世界を無理矢理繋げたから多少無理が過ぎるのは誤差範囲内でござるが、とりあえずジュドー・アレスターの関心は得られたようでござるなぁ。〈オタ神〉殿のメモの通り、コンプレックスの塊でござるからそれをくすぐれば……)それに……実はわたくしの国ではジュドー殿下はとても人気者なのです。噂はもちろん知っていますが、わたくしはそれを信じてはおりません。それに、どうしてもジュドー殿下のお役に立ちたくて……」
一瞬またもや不穏な空気を感じたものの、ポッと顔を赤らめて俯きつつ上目遣いでオレを見てくるその令嬢……いや、フランソア王女に一気に好感が持ててしまったのだ。オレに対する好意的な態度に嘘が無いと感じたせいもあるが、わざわざオレの為にこの国へやって来たと言われて悪い気はしない。それに確かにこのフランソア王女にはオレのオッドアイの瞳を嫌悪している様子は無かった。むしろ気に入っているようだ。
「あの……実はわたくしと一緒にやって来たロットン帝国の令嬢たちがすでにジュドー殿下に接触したと聞きましたわ。我が国ではジュドー殿下はまさにアイドル……憧れの方なのです。はしたなくもジュドー殿下を囲って質問攻めにしたとか。もしかしたらお怒りではないかと思いまして、ロットン帝国を代表して、ご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたしますわ」
「いや、それは別に……戸惑っただけで、怒ったりなんかは……していないが「まぁ!よかったですわ!さすがジュドー殿下は御心が広いですのね!」え、えーと」
なんだろう。フィレンツェアに感じたような気持ちではないが、悪い気はしない。たぶん、このオッドアイを受け入れてくれている希少な人物だからだろうか。それにオレを囲っていたあの令嬢たちもフランソア王女の仲間だったのかと思うとなぜか納得してしまった。あの令嬢たちはこの国ではなくロットン帝国の令嬢たちだったのだ。だからオッドアイを嫌悪していなかったのだろう。
「……とにかく、わたくしとわたくしの仲間たちはジュドー殿下の味方なのだと知っておいて欲しかったのですわ。ジュドー殿下のお兄様の悪行も裏の世界では噂になっておりまして、わたくしの耳にも入っております。それもあってなんとかアレスター国との繋がりを求めた結果……そこの護衛と繋がったのでございますわ。ジュドー殿下、どうかわたくしの集う集会に来てくださいませ……そこでなら、きっとジュドー殿下の憂いを晴らすお手伝いができるはずでこざいます。詳しくはそこで……」
深々と頭を下げられ、さすがにそれを突っぱねる事は出来なかったのだ。
「……は、話を聞くだけなら……別にいいけど」
「────んふふふふふふふ………………」
そうして承諾した途端、フランソア王女の雰囲気がまたもやガラリと変わってしまったのである。
「……………ぐふふふふ、はぁーい!言質を取ったでこざるよぉ♡それでは通称〈ジュドー殿下ファンクラブの集い〉、ビックリドッキリ写生大会にご招待するでこざるぅ〜!!」
「へ?!」
そしてフランソア王女がパチン!と指を鳴らすと護衛がバタリと倒れてしまい、どうやら意識を失っているようだった。そしてオレもいつの間にかロープでぐるぐる巻きにされていて、ゲイルに至ってはフランソア王女の手の中に捕まっている。あ、白目を剥いて……もしかして気絶してる?!
「ん、なぁ────?!」
そうしてオレは、そのまま連れ去られてしまったのだった。
その後は、なんというか……ある意味で地獄である。
もはや無礼講とばかりに例の令嬢たちに群がられ、よくわからないポーズを要求されては延々と写生大会が続けられた。ちょっとでも動くと怒られるし。この間の態度との違いに「女って怖い」とつくづく思ってしまった。
しかもフランソア王女の話をよくよく聞けば、なんと“もう一人のオレ”の知り合いなのだとか。その話を詳しく聞いてオレは愕然としていた。
さらにオッドアイの正しい伝承を教えて欲しいと言ったら「あ、オッドアイは不吉にも吉兆にもどちらにもなるってだけでござるよー。たぶん政治的に都合の良い解釈が都合良く伝承に残ったんでござろうな。だから護衛殿には吉兆のパターンの方を吹き込んだだけでこざるよ、あはははー」と、軽く言われてしまったのだ。
オレの長年の悩みの扱いが……軽い!軽すぎる!なんだよ、吉兆の方のパターンって?!
「まぁ、それは置いておいて「置くな!」それでなんと、“彼”はもう目覚められていたでござったのか。それは大変失礼したでござる。てっきり
すっかり口調の変わってしまったフランソア王女の態度にビクビクしながらも、知り合いならばと、“もう一人のオレ”との出会いを語った。なにせこんな事など他の人間には話すことなど出来ないからそれはそれで話し相手が見つかって嬉しくはあったのだ。……いや、それにしても変わり過ぎだろ。色々無視されているし。
ちなみに護衛はフランソア王女にせんのu……操られt……いやまぁ、うん。とにかく絶対にオレを裏切らない都合の良い存在になっていてオレの味方にはなっているそうなので深く突っ込むのはやめておいた。これからよく泣くらしく、それだけはどうしようもないのだとか。それに、護衛の守護精霊の事もちゃんと手は打ってあるそうなので任せることにしたのだ。