「……アルバート・エヴァンスですか」
申し訳なさそうにこくんと頷くカンナシース先生にお礼を言い、思わずため息をつきそうになった。アルバート・エヴァンスの
「アルバート・エヴァンスはジュドー・アレスターと一緒にいるんですね?では、マッカオーニ先生……」
そしてかなりやつれたように感じるマッカオーニ先生に視線を送る。見た目は厳ついが心根の優しいマッカオーニ先生も生徒指導に熱を入れるタイプだ。だが、隣国の王族がクラスに入ることになりどう対応するべきかと頭を悩ませていたと聞いていた。それでなくても彼のクラスには
「はぁ……参りました。色々と問題点はあるだろうとは思っていたのですが、まさか先に留学してきていたロットン帝国の王女を巻き込んでの騒動とは……」
「確かに厄介ですね。下手をしたら国際問題になりかねませんから……」
ロットン帝国とは歴史は浅いが厄介な国として一部では有名であった。十数年前に突如頭角を現した帝国だが、その前衛に立って国を建てたのはフランソア王女の姉たち……第一王女と第二王女だと言われている。そしてその後ろ盾にはとんでもない大物が隠れているとも。なんでも予言めいた発言をし、近隣諸国の不正や錆びついた伝承を覆しては虐げられていた下位貴族や庶民たちを助けて回ったのだとか。そして恩を感じた人間たちが次々とロットンの名の下へと集まり、いつしか勢力は拡大していった。人が集まれば国と成立し、さらには金の採れる鉱山がいくつもの発見されたことでロットンは帝国として名を挙げたのである。
そして、そんな姉たちに守られてきた第三王女。ロットン帝国と言う箱庭でぬくぬくと大切に育てられたフランソア王女の情報はずっと秘匿とされていた。そんなフランソア王女を突如この国へ留学させたいと手紙が来たのはほんの1ヶ月前の事だった。一方的な話ではあったが、ロットン帝国を敵に回すと国に厄介事が起こるとまで囁かれている中で国王はそれを受け入れてしまったのである。もちろん学園に丸投げだ。
そんなフランソア王女が今回の騒動に巻き込まれてしまったのである。しかも相手は問題児として有名なアレスター国の第二王子だ。他国の王族だからこそ簡単には解決出来ないだろう。
それに、もしも噂通りの事が本当にあったのだとしたらそれこそ国際問題だ。下手をしたら戦争になってもおかしくない。しかもこれはロットン帝国とアレスター国だけの問題ではないのだ。規律正しいはずのガイスト国の学園で起こった不祥事ならば場合によっては両方の国から攻撃されてもおかしくはない。
「とにかく、話を聞かなくては……」
そうしてアルバート・エヴァンスとジュドー・アレスターの
***
「ルルを誘惑して泣かせたのはお前らかぁぁぁぁぁ!!?よくも王子である俺の愛おしい大事な人を……!」
「だから、そんな女なんか知らねぇって言ってるだろうがぁぁぁ!!」
“男子生徒ふたり”しかいないはずのその部屋にはなぜかこの国の第二王子……ジェスティード・ガイストがいて、なんとジュドー・アレスターと取っ組み合いをしていたのだ。いや、なぜこのふたりはびしょ濡れなんだ?髪から水が滴っているぞ?
その様子を傍観していただろうアルバートが俺に向けて肩を竦めた。「この水は……どこからともなく降ってきたんですよ。
***
一方その頃、カンナシースが向かった女子生徒たちの部屋でも大問題が起こっていたのである。
グラヴィスたちから少し遅れて、カンナシースが少し離れた場所に位置するその部屋の扉を開けた。すると、なんとそこでは────。
フィレンツェアとルルによる、壮絶なカードバトルが繰り広げられていたのである。
「フィレンツェア様ったら……さすがは悪役令嬢だね!こんな刺激的なのって、あたし初めてかもしれない!」
「……ルルさんもやるわね。まさか心理戦に持ち込まれるなんて思わなかったわ……でも、これで終わりだわ!」
そしてフィレンツェアがルルの手元に握られた2枚のカードからその1枚を颯爽と抜き取ったのである。
「これで上がりよ!」
「あぁ〜ん!負けちゃったぁ!でもなんか、めっちゃ楽しかったぁ!」
偶々その部屋にあったトランプによって行われたババ抜き対決はフィレンツェアが勝ったようだった。
「ふふふ。神様仕込み……ゲフンゲフン。いえ、ゲームの師匠仕込みの私の腕前は鈍っていなかったわ!さぁ、ルルさん……セイレーンを引き渡してもらうわよ!?それに────あなたの事もね」
セイレーンがフィレンツェアを見て首を傾げたという青いオーラの事。ルルがポロッとその事を口にしてしまったのだが、それをフィレンツェアは聞き逃さなかった。そしてセイレーンからその話を詳しく聞くためにルルに勝負を挑んだようだが……。
「…なんで、ババ抜き?」
なにやら意気投合しているふたりと違って、カンナシースだけが意味が分からず取り残された気分になってていたのだった。