※クロ視点
「なんだあれは……“加護無し”のくせに精霊を選ぶつもりなのか?!あんな横柄な態度など精霊に対する冒涜だ!偉そうにしやがって……、これだから“加護無し”は!」
「これでやっと学園から“加護無し”がいなくなるのね、せいせいするわ!ふふっ、悪役令嬢に相応しい末路よ!」
「もしかして、第二王子殿下から守護精霊を奪い取ったのか?なんて恐ろしい!しかしどうやって」
「きっと第二王子殿下は悪役令嬢に呪われたんだわ!どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
「いやその前に、あの精霊は本当に第二王子殿下の守護精霊なのか?見た目はそっくりだが、悪役令嬢などに懸想するなんてあり得ないだろう。やっぱりニセモノ……」
「あら、あれはあの精霊のいたずらなのではなくて?今は機嫌をとっておいて悪役令嬢がその気になったら突き放して嘲笑うつもりなのよ。きっと第二王子殿下の守護精霊によく似た野良精霊が悪役令嬢をからかって遊んでるんだわ。面白そうだから、次はわたしの守護精霊に命令してやらせてみようかしら!」
「ははは!その前にもうここへは帰ってこないだろ!守護精霊を夢見ながら永遠に教会の下働きでもすればいいのさ。王子の婚約者だからって偉そうにしていたからざまぁみろだ!
ああ、でも……その王子も“加護無し”になったんだったな。どうせ王位継承権は剥奪されるだろうし、“加護無し”同士お似合いだ。精霊に見捨てられるなんて余程中身が酷かったんだろ?あの王子は王族に相応しくなかったんだと言われたも同然だ」
「本当は喉から手が出るくらい守護精霊が欲しいくせに強がっちゃって、なんてみっともないのでしょう。今頃、心の中では焦っているのではないかしら……いい気味だわ」
「は、早く家に帰らなくちゃ……まさかそんな……」
「もうこの国には帰ってきて欲しくないわ!“加護無し”がうつるんしゃないかって心配だったんだもの!あら、わたくしは大丈夫ですわよ。当然でしょう?」
「あらでも、もしも守護精霊の変更が出来るなら少し興味があるわね。わたくしだって本当はもっと強くて美しい精霊がいいもの……。その神に祈ればもっと相応しい精霊が手に入るのかしら?」
「あのライオン、俺がもらえないかなぁ?炎を操るなんてかっこいいじゃないか」
「おい、そんなこと言ってたら今の守護精霊が泣くぞ?(笑)」
「だってあいつ、地味だし全然役に立たないからさぁ」
「アレスター国には“加護無し”がいっぱいいるんだろ?じゃあ、きっと精霊が余ってるよな。守護精霊とは別にペットに出来たりしないのかな」
「おい、お前の守護精霊はどうしたんだ?さっきから見かけないが……まさかお前、悪役令嬢に呪われたんじゃないのか?ははっ、お前もそのうち“加護無し”になるんじゃないのか」
「失礼なことを言うな!そうゆうお前の方こそこの間、悪役令嬢とすれ違ったと言っていたじゃないか?!もしも呪われるならお前の方だろうが!」
『………………』
都合よく目の前に用意されていた質素な馬車に乗り込むまでの、ほんの十数秒ほどだった。
そのわずかな間に聞こえてきただけでも、かなり酷いものだ。あまりに醜い悪意の塊にうんざりしそうだった。あいつらはちゃんと見えているのか?自分たちの守護精霊たちがどんな顔をしていたのかを……。
精霊たちはすでに何かを感じ取っていたようだったが、これからどうするかは精霊の気持ち次第なのだ。精霊は気まぐれだ。その醜悪な姿を気に入っている精霊も確かにいるだろう。それは認よう、精霊だって色々な趣味嗜好があるのだ。だが、ほとんどの精霊はそれを不快に感じるはずである。現に俺様の気分も最悪だった。
それにしても、あの人間たちはさっきの学園長の話を聞いていなかったのか?それとも、都合よく耳の穴が塞がっているのかもしれない。さっきの発言の中にはどう聞いても守護精霊を大切にしようとしているとは思えないものがいくつもあった。一体いつから人間と守護精霊の関係は変わってしまったのか……いや、変わったのは人間だけだろう。
昔に比べたら今の精霊は気の優しい奴が多いとは思うが、自分の扱いが劣悪だと感じたらどうするかなんてすぐにわかることなのに。
誰も気付いてない。これだけ国を揺るがすような事態になっていると言われているのにも関わらず、なぜあんなにも「自分だけは大丈夫」だと思っているのだろうか?自分だけは何をしても守護精霊に見捨てられるはずがないと言わんばかりの態度で、偉そうにフィレンツェアお嬢ちゃんへ悪態をついているその姿はあまりに醜悪だ。
いや、一部の人間はそうでもなさそうだったかなぁ。目立たないように隠れているつもりのようだが、顔色を変えて狼狽えて……あれはもうすでに
だが同情する気持ちにはなれない。これまで散々“加護無し”を馬鹿にしたその身で、これから“加護無し”だと罵られる恐怖に陥ればいいのだ。フィレンツェアお嬢ちゃんの両親のように、周りの人間が“加護無し”を受け入れてくれればいいが。……なんて、そんな事を考えてしまうあたり俺様も意地が悪いのかもしれないと思った。
だいたい、フィレンツェアお嬢ちゃんはこの国の第二王子の婚約者だというのにこんな扱いばかりされていたのかと思うとなんとも酷い話だと思ってしまう。国王が認めた婚約者をなんだと思っているのだろうか。しかし、もしもあの公爵家に生まれていなければもっと悲惨だった可能性もあるのだ。不憫過ぎるじゃねぇか。
もちろん“加護無し”であることが主な原因だろうが、それでもジェス坊……いや、ジェスティードがちゃんとフィレンツェアお嬢ちゃんを婚約者として大切にしていればここまでにはならなかったかもしれない。それに、ジェスティードの人望の無さにも思わず肩を落としそうになってしまう。こんなことならあの時にもっと厳しく叱って、どんなに嫌がられてもルル嬢ちゃんと別れさせていれば……いや、今更何を言っても遅いな。俺様がジェス坊を甘やかしちまった結果がコレだなんて後味が悪すぎるってもんだ。