「────カンナシース先生。カンナシース先生は教会が送り込んだスパイですよね」
振り向いた私がそう言うと、カンナシース先生はにこりと笑った。だがその視線は私の背後1箇所に集中しており、
「……ふふ。ブリュードさんったら、冗談が好きなのね。でもわたしの質問に答えるのが先だわ。ねぇ、────あなたたち、そこで何をしているの?」
外へ出るための唯一の扉を塞いだまま、再び私たちにそう問いかけてきたその不気味な笑みに思わず背筋が寒くなる。その笑みを見てアルバートとルルは真実を確信したようだった。
「本当に来た……フィレンツェア様の言った通りだね」
「なんてことだ。僕はてっきり……」
アルバートは、たぶんアオの仕業だと考えていたのだろう。だから敢えて私に何も言わなかった。でもアオじゃない。だって、この死体からは複数の精霊の気配が混じった力を感じるのだ。なせかはわからないけれど、でも
「犯人はカンナシース先生よ」
私が人差し指をカンナシース先生に突き付けると、カンナシース先生は「質問に答えろって言ってるのに……はぁ、めんどくさ」とため息を付きガリガリと頭を掻き出した。綺麗に整えられていた髪がぐしゃりと乱れたが気にする様子はない。
「なに?令嬢のくせに探偵ごっこ?まさかさっきのが影武者だったなんてすっかり騙されたわ。でもまぁ、真面目ぶるのって肩が凝るし、もういいか。あ、もうその名前で呼ばないでね。
それで犯人だっけ?そうよ、わたしが殺したの。正確には新魔法の実験台になってもらったんだけど……それにしても、わたしってば何か失敗したかしら?これでも演技力には自信あったのよ。“加護無し”を嫌悪しながら恋する同僚の為に自分を抑えてる女教師、完璧だったでしょ?」
「ええ、完璧でしたよ。だからこれは、ただの勘です。今から思えばレフレクスィオーン先生の姿が完全に消えるまで時間稼ぎしていたんですよね。さっきの教会の人達が私について妙に知っていたのもあなたが情報を流していたから……。あなたがスパイだったらしっくりきます。あの時のジェスティード王子の登場には驚いていたみたいでしたが」
「ああ、あの馬鹿王子?そうね、予定外だったわ。もし王子が何か見てて変な証言されると厄介だからどうやって身柄を確保しようかと焦っちゃった。ちょうど良く“加護無し”になってくれて助かったわ。王家に潜り込んでる仲間に頼んで他の人間との接触も無くしたし、“加護無し”になったってわかった途端に
ケラケラと不快な声が部屋に響いていた。
「あなたの目的はなんなの?カンナシース先生……いえ、ハイジ」
「ふん……“加護無し”のくせに偉そうに。でもまぁ、せっかくだから教えてあげる。確かにわたしはスパイよ。任務はこの学園に関わる守護精霊や“加護無し”の情報を教会に流して、裏切り者のあのハゲを始末する事。あいつは熱心な信者だったからこの任務に選ばれたんだけど、どうやら独断で“加護無し”を始末しようとしていたのよね。でも、それはルール違反よ。全ては
崩した姿勢で扉にもたれ掛かりながら毛先をもて遊ぶその姿はすっかり別人だ。そしてふいに左手を上に伸ばすと、その手にはドロリとした“何か”が這うように纏わりついていた。
「それは……」
「この子はわたしの守護精霊よ。
「……あれって、猿?でもなんか変な感じがする」
ルルの呟きに、私はゾワッとした恐怖に襲われる。だってそれは、
なぜなら、私が見た守護精霊だと言われた“それ”は何の形もしていなかったのだ。自由で気まぐれなはずの“精霊の意思”もどこにも感じられない。そう、そこにいるのは……聖女時代に嫌と言うほど目にしてきた闇落ちしたオーラを纏う“何か”だったのだ。
転生して聖女で無くなった私に、なぜまたこのオーラが見えるのか。だってこれが見えるのということは……。
「ふふ。ハンダーソンさんの事はこれでも気に入ってたのに、残念だわぁ!」
「きゃあっ!」
「くっ……!ハンダーソン嬢、危ない!」
ハイジがその精霊だった“何か”をルルたちに向かって振り上げた。ルルを庇うようにアルバートが手を伸ばしたが、ニョロやセイレーンではダメだ。止める事は出来ても、