※アオ視点
ずっと考えてたんだ。
せっかく出会えた聖女とこんな形で離れ離れになってしまった。それもこれも全部、僕がちゃんと出来なかった罰なのかもしれないって。
僕は聖女とずっと一緒にいたくて、側で守ってあげたくて転生に付いてきたっていうのに、こんな結末を迎えるだなんて最低だよ。転生後の聖女が幸せになってくれるならそれで良かったはずだったのに。
でも、いつの間にか僕の心は真っ黒に染まっていたんだ。まるで前世で闇落ちした時みたいなドス黒い感情が溢れてきて、聖女を……フィレンツェアを独り占めしたいって思ってしまったんだ。
それを認めたくなくて屋敷から飛び出したら今度はこんな奴らに捕まっちゃうなんてドジにもほどがあるよね。しかも勝手にライバルだって思って威嚇していたあいつにフィレンツェアを託すなんて惨めだ。それでもやっぱりフィレンツェアの近くに行きたくて囚われた体から心を切り離したけれど、他の精霊を助けたせいで力が尽きてしまった。僕って馬鹿だなぁって思うけど……でも、きっとフィレンツェアがその場にいたなら同じ事をしただろうから……僕はフィレンツェアの守護精霊だから、それていいんだとも思った。
それからずっと眠ってる。時々体に痛みが走って力を吸い取られてるけど、どうしても起きる事が出来ないんだ。フィレンツェアはどうしてるかな?僕がいなくなったらフィレンツェアの中にある聖女の力が目覚めちゃうかもしれない。あの力は魂を削るから、無闇に使うとフィレンツェアの寿命が減っちゃうよ。
ねぇ、神様。フィレンツェアの友達だって言ってた神様。神様が変な踊りをしている時に黙って転生してごめんなさい。聖女の特別になりたいなんて思ってごめんなさい。フィレンツェアの事を大好きになってごめんなさい。謝るから、どうかフィレンツェアを助けて。
でも、羨ましかったんだ。フィレンツェアの心に大切な人として存在する神様が。僕と似ているようで違う気配をさせながらフィレンツェアの隣に立つアルバートが。僕はフィレンツェアの1番になりたいって欲が出てしまった。だから罰を受けるんだよね。
ねぇ、フィレンツェア。あの大きな精霊に託した伝言はもう聞いてくれたかな。こいつらはとっても強いしフィレンツェアを狙ってるんだ。フィレンツェアを守る為に残した力ももうすぐ無くなっちゃから、だから早く逃げて。
僕がフィレンツェアを守りたかった。フィレンツェアの守護精霊になれて嬉しかったはずなのに、本当は人間の姿になりたかったんだって後から気付いたんだ。
そろそろ限界かな。これ以上に力を吸い取られたらドラゴンだって耐えられないかもしれない。さっきもね、力を吸い取られすぎた精霊が眠ったまま消えてしまったんだ。ああなったらもう生まれ変わることも出来ないと思う。僕もああやって消えていくんだろうね。
僕が消えたら、きっと新しい精霊がフィレンツェアの守護精霊になるよね。あの王子とはちゃんと婚約破棄出来るかな。フィレンツェアの夢だったスローライフ生活を叶えられるかな。
……やっぱり、一緒に居たかったなぁ。
フィレンツェア、フィレンツェア、フィレンツェア……!
『フィレンツェア、大好きだよ……っ』
最後の言葉のつもりだった。彼女にこの言葉が届かなくてもいいから、何かを残したかったんだ。
でもその時、体の真ん中を
「────私も、アオが大好きよ」
『……フィレンツェア!』
聖女だけが使える、聖なる力の剣。闇を切り裂き浄化する力だ。フィレンツェアがその剣を舞うように振り切ると、周りからは宝石たちの砕ける音が鳴り続いた。そして、僕を捕らえていた宝石が砂のようにサラサラと落ちていったのだ。
「……迎えに来たわよ、アオ。私の守護精霊はアオしかいないの、いなくなるなんて許さな……」
『フィレンツェア────!』
よく見ると、フィレンツェアは上から下へと落下している最中だった。するとフィレンツェアは聖なる力を使いすぎたのか笑みを浮かべたまま気絶してしまったのだ。その途端に落下速度はスピードを増した。
「──魔法の効果が──!このま──危な──!!」
さらに上から誰かが叫んでる声が聞こえたが、そんな事なんかどうでもよかった。目は覚めた。体が動く。早く羽を広げて、フィレンツェアを受け止めなくちゃ!体を大きくすればいいのに目覚めたばかりの体は上手く動かない。ダメだ、届かない!
ダメだ、ダメだ、ダメだ!フィレンツェアぁぁぁ!!
パリーン!と、体の中で分厚いガラスに徐々にひびが入り、それが砕けて飛び散るような音がした。
僕の中にある分厚いガラスの壁に亀裂が入っていくイメージが広がり……それは粉々に砕け散って、そして僕の中から力が溢れ出してきた気がした。
そして、青く透き通るような眩い光が僕とフィレンツェアを包み込んだんだ。
時間が止まっているように感じたその光の中で、僕はフィレンツェアを抱き締めていた。僕の腕の中でフィレンツェアがゆっくりと目を開けたのを見て、安堵のせいか目頭が熱くなった。
「フィレンツェア……」
「……その瞳は、アオなのね」
そう呟いたフィレンツェアの瞳には、黒い髪と青い瞳をした人間が映り込んでいた。今フィレンツェアを抱き締めている腕も確かに人間の腕だ。
「僕が人間の姿に……?」
長い足があるし、尻尾が無い。身につけているのはフィレンツェアたちが着ている制服という物によく似ている服だった。
どんな奇跡なのかはわからないけれど、どうやら僕は人間の姿に変身出来るようになっていたのだ。