※神様視点
ボクの目の前で聖女の奇跡を見てしまった。なんて綺麗なんだろうかと、思わず目を細めてしまう。聖女にはもうボクより大切な誰かが出来たんだと思ったら、嬉しい反面ちょっと寂しく感じてしまったのは友達を取られたみたいな気分になったからかな。
それにしても、まさかあのドラゴンが
とにかく、どうりで封印されてるはずなのにあんなに魔法を使うわけだよね。古代竜って規格外の力を持ってるって聞いたことあるからさ。だって転生が出来たとしても本当ならフィレンツェアが聖女の記憶を思い出してからやっとドラゴンの記憶が戻るはずなのに、封印されながら周りを威嚇して精霊たちを寄せ付けさせないとか意味わかんないよ。まぁ、偶然とは言え悪役令嬢を呪っていた奴の力の弱体化も出来ていたから今となっては良かったんだろうけどさ。
でもさぁ……賢者ってムカつくなぁ。もう滅んだ人間のくせに、本来の意識も無くて本能だけで彷徨ってるくせに、精霊魔法を乗っ取って無意識に聖女の魂に惹かれて呪ってたってどうゆうつもりなんだろうね?そして、それを〈腐った神〉経由で知っちゃったボクの気持ちも考えて欲しいよ。もしフィレンツェアにボクがそんな設定を作ってたなんて誤解されてたらどうしてくれるのさ。嫌われちゃうじゃないか。これってフィレンツェアに伝えた方がいいよね?公爵家の人間も探っていたみたいだけど、今はそれどころじゃないだろうし、なにより誤解だけはされたくない!
うーん。なんかなぁ、二重に力を封じた伝説の古代竜が紛れ込んでいた事にも真偽はわからないけど誰かの裏工作の気配を感じるんだよね。もしかしたら他の神のいたずらかもしれないけど、ボクを困らせようとしてるのをヒシヒシと感じるんだ。まさかとは思うけど、ボクをからかって楽しんでた神って言えば……うん。考えるのよそう。
まぁそうだとしても、まさか他のパラレルワールドに転生して精霊になってから聖女の奇跡で最後の封印が解かれるなんてそいつも思ってなかっただろうけどさ。今頃ブラックホールで元気にしてるかなぁ。
というか……もしも元の世界でそうなっていたら、そして古代竜が聖女に敵対心を持っていたら……今頃あの世界はどうなっていたんだろうか。とりあえず、ボクが困って残業する羽目になってたのは確定かな。
「これもまた運命か……」
まぁ、先の事はまだいいか。ボクは今を考えられる神様だからね。
それにしても、さっきはボクの正体を知って驚いてたなぁ。本当に気付いてなかったなんてこっちがびっくりなんだけど。マジなの?
ボクは、アオと喜び合うフィレンツェアを見つめながら、さっきまでのやりとりを思い出して苦笑いしていた。
***
ボクはこの世界の事について考えていた。
あれから〈腐った神〉から詳しい話を聞き、さらに腐女子たちに集めてもらった情報と照らし合わせて神様として考え出した結果だ。
やっぱり……この世界の管理は放棄されているってね。だからこんなに荒れ放題なんだ。いくらなんでも酷すぎる。
〈時間の神〉共め、ボクを追い出して満足したら後は知らないってことか。もしかしてボクがいなくなった事ってまだバレてないのかな?他の神たちは何してんの?職務怠慢って言葉知ってる?いくらボクが万能だったからって、定期確認はちゃんとやってよ!
「想定より早いでござるが、この世界の容量を考えたら間違ってはいないと思うでござるよ」
「まぁ、聖女の魂が転生したせいでパラレルワールドになっちゃった世界だからね。しかもこの世界自体が勝手に設定を作り出したみたいで最早ボクの知らない世界になってるようなんだ。それでも世界の容量は変わらないはず……賢者に精霊の怨念、さらにそれを利用して“加護無し”の量産に未知の魔法なんてとっくにキャパオーバーだよ。このままじゃ耐えきれなくなった世界はどかーんと破裂して、ボクらを含めたこの世界の生き物は全部輪廻転生に回されるね。……あいつらがちゃんと仕事してたらの話だけど」
「そのまま放置された場合は……消滅するしかないでござるな。パラレルワールドの重要性を深く考えていない若い神が多いでござるからなぁ」
それにしても〈腐った神〉の
「結界のせいで中には入れなかったそうでござるが、だからこそ怪しいのではないかと報告があったでござる。たぶんそこに捕まった精霊たちが集められているのではないでござろうか。ただ……かなり強力な結界であると」