黒の城の、多分それぞれの分野の偉い者が集まって、
会議が再開された。
大病院の患者などは回復に向かっているらしい。
もともと黒の国自体が医療大国ということもあり、
医療の技術は他の国に比べて進んでいた。
それでも今回の寒波は相当な打撃ではあったらしい。
耳かきの勇者の耳かきがなければ大変だったと言われた。
俺の耳かきは特殊な能力も持っているが、
やはりこの国の医療技術が、
患者の生きようとする力を、
ちゃんととらえていったのだと思う。
耳かきの勇者だけの力ではないと返しておいた。
謙遜をと笑われたが、
耳かきは多分、耳をかかれたものに宿る力を増すものかと思う。
多分、すべての存在に、
すごい力が宿っているのを、
俺が耳をかいて引き出しているのかもしれないと思う。
耳にはすごい力があるものだ。
その耳に魅せられて、俺は耳かき職人になったのだから。
黒の国の各地の情報が大体届いたらしい。
かなり積もった雪が溶け始めていて、
ぬかるんでいる街道があったり、
また、雪解けで川の増水などが見込まれるため、
近づかないようにとの注意喚起や、
山の方では雪崩の可能性もあるらしい。
寒邪が邪な力を失って、
黒の国はあたたかくなってきていて、
過ごしやすくなっているけれど、
急にあたたかくなったものだから、
氷が溶ける、雪が溶けることで、
影響はあちこちに出ているらしい。
黒の国の地方各地の軍みたいなものがあって、
俺の感覚で言うところの、
災害時の自衛隊らしいものかもしれないが、
それらの兵士らしい者たちが各地で対策をしてくれているらしい。
黒の国は医療大国ということもあり、
積極的に軍隊の増強などはしないらしい。
赤の国などは騎馬兵などもいたが、
そういったところとも、お国柄というものが違うのかもしれない。
黒の王から、黒の国の耳の呪いについて、
確認を兼ねて説明がなされた。
この世界各地に耳の呪いがはびこった後、
黒の国では耳の呪いを、
医療分野からどうにかできないかと試行錯誤してきた。
かなり効果があったのは、これだと言って、
従者に何やら持ってこさせた。
小さな耳かきに似たものが二つある。
俺は持ってこられたそれらを手に取り、鑑定する。
片方は俺の世界で言う綿棒だ。
確か異世界に入ってすぐの頃、
雲を作っている素材で作った覚えがある。
黒の国のそれは俺の世界の綿とほぼ同じ素材だ。
ただ、綿棒製作の技術が俺の世界ほど発達していないのか、
少し巻きが弱いようだ。
これでは耳に残る可能性もある。
俺は、黒の王に、この素材をたくさんもらえれば、
耳かき錬成という能力で、
もっといいものを作れると言った。
それはありがたいと黒の王は言った。
俺はもう一つの耳かきらしいものを鑑定する。
驚いたことに、それはシリコンに似た素材だった。
この世界にこんな素材があるなんてと思った。
驚きが顔に出たらしく、黒の王から説明があった。
この特殊素材は、陰の国から輸入されたものであるらしい。
陰の国のこの特殊素材は、
医療に関してかなり役立つものであるそうだ。
耳の呪いがはびこった際も、
医療につかえる素材として、陰の国の素材を使って、
耳をきれいにできないかと試行錯誤したものらしい。
耳かき職人の俺から見ると、
素人のシリコン耳かきではあるのだが、
耳の呪いをどうにかするためにがんばった痕跡はありありと見える。
耳かき職人でないのに、よくここまで形にしたものだと思う。
医療の技術でどうにかしようとしたというのは、
並大抵の努力ではなかったのだろうなと思う。
俺は、この特殊素材でも耳かきが作れると言ったが、
特殊素材は黒の国では、できれば医療に回したいらしい。
なるほど、希少な素材であるのならば、
医療の方にできれば回したいのだなと理解する。
特殊素材については、これから多分陰の国に行くこともあるだろうし、
その際にどんなものかを手に入れられればいいかと思いなおす。
俺は、黒の王やその場にいる者に、
素材があればどんなものでも耳かきにすることが可能である旨を告げる。
黒の国にどんな素材があるのかを聞きたいことや、
黒の国の特殊な素材があるのならば、
その特殊な素材で特別な耳かきができるかもしれない、
また、たくさんある素材があれば、
その素材でたくさん耳かきを作って、
黒の国にいきわたらせることができること。
そんなことを話した。
黒の国の特殊な素材ということで、
会議でいろいろな素材が話に上がった。
そんな中、氷晶という素材が上がって、
なるほど、それは黒の国の素材だと皆が納得していた。
俺が聞き返すと、
黒の城を作っている透明な結晶の素材であるらしい。
黒の国では氷晶と呼ばれ、
寒さを吸収する効果があるらしい。
黒の国は山がちであるため、
季節によっては寒さが厳しいらしい。
外の寒さを中に入らないように吸収してとめる素材が、
氷晶と呼ばれる透明な結晶であるらしい。
氷晶の採掘できる山には、
その奥深くに永久氷晶という塊があり、
永久氷晶を核として、氷晶ができているらしい。
永久氷晶は核とは言えども相当な大きさであるらしい。
その永久氷晶の一部を耳かきにしてくれるのならば、
永久氷晶を使うことを許された。
また、永久氷晶がある限り、
黒の国の採掘現場には氷晶ができるらしい。
氷晶は黒の城にあれだけ使ってもまだまだあるというので、
氷晶の耳かきをたくさん作って欲しいとの依頼があった。
俺は素材を譲ってくれることを感謝を述べた。
俺の技術で黒の国の皆に確かな耳かきを作る旨を約束した。
氷晶の採掘現場へ入る手続きがあるというので、
誰かが伝言を頼んだらしい。
誰でも入れるのはやっぱりよくないのだろうなと思う。
俺は他にどんな素材があるのかを尋ねる。
耳かきの素材にはならないものとして、
黒の国では塩の結晶がよくとれると聞いた。
俺の感覚で言うところの岩塩かもしれない。
調べたものはまだいないけれど、
永久氷晶があるように、
塩の結晶が取れるのも、その核の塩の塊があるのかもしれないとのことだ。
黒の国ではその豊富な塩の資源から、
たくさんの保存食品が作られているらしい。
黒の国は、ほかの国に比べて寒い時はとても寒いらしい。
今回の寒波は特別としても、
他の国と比べるともともとが寒いらしい。
白の国のように作物が取れるわけでもないし、
赤の国のように畜産が盛んな訳でもない。
他の国から運ばれてきた食材を保存するため、
黒の国の塩で保存をすると言う技術が発達したらしい。
このあたりは俺も何となく理解ができる。
いわゆる、北国の保存技術ということかもしれない。
だとしたら、黄の国の海産物みたいなものも、
塩を使って保存しているのかもしれない。
感覚として理解できるなと俺は思う。
俺の世界とは違う歴史があるのかもしれないけれど、
存在するもの、素材、食材が似ていれば、
自然と理解できるような技術が発展していくのだろうなと思った。
塩はさすがに耳かきにはできないけれど、
いい話を聞けたと思った。
そういえば、黄の国で、
黒の国は特性の少ないアーシーズに何らかの技術で、
特別な能力を持たせると聞いたのを思い出した。
話を聞いたものは、黄の国で記録官か何かをしていた気がする。
そのことも尋ねていいものだろうか。
もし差し支えなければ教えて欲しいと前置きして、
俺は黒の王に尋ねた。
黒の王はうなずいて答えてくれた。
「あの技術は、眠る特性を表に出すものなのだ」
黒の王は、黒の国の技術について話しだした。