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第50話 とくせいの物語 技術で特性を持たせることができるようだ

医療大国の黒の国では、

特性のあまりないアーシーズや、

他の国の様々な種族に対して、

医療の技術をもって特性を与えることをしているらしい。

耳がよく聞こえるようになる特性や、

味覚が鋭くなる特性、

記憶力がよくなる特性や、

成長や老化が遅くなる特性、

筋力が上がる特性や、

移動スピードが速くなる特性、

そして、魔法に関する特性などもあるらしい。

魔法に関する特性の付与については、

集中力をあげる、イメージを具体的にするなど、

そちらの方からのアプローチであるらしい。

魔力の底上げなどは難しいらしい。

魔法は基本、国の王族などが使うのが一般的のようだ。

俺の感覚が正しければ、選ばれた血筋の持つ力ということかもしれない。

魔法が王の使うような特別な能力だとすれば、

特性の付与は技術でいろいろな能力を持つということなのだろう。

黒の王曰く、

特性を付与されても、その特性を伸ばさないと、

付与された特性が定着しないらしい。

そのあたりは俺の感覚で言うところの努力や鍛錬になるのかもしれない。

俺の世界で、家庭環境と恵まれた体格があっても、

スポーツの練習をしないとスポーツ選手になれないように、

この異世界において、技術で特性を持ったとしても、

その特性をしっかり定着させないと特性が生きないのかもしれない。

なるほど、技術だけで何でもできるわけではないようだ。


ふと、俺は思い出すことがあった。

魔王の手足となってあちこちで邪なものを暴走させているリュウ。

あれも魔法らしいものを使っていたように思うが。

魔法が、王の血筋の者が使うものだとしたら、

あのリュウもその血が流れているのだろうか。

一番考えやすいのは魔王の血筋に連なるものかもしれない。

魔王の子と考えるとしっくりくる。

手足となって動き回るのも納得いく。

ただ、邪なものを暴走させたとして、

耳かきの勇者の俺が止めないとは考えないのだろうか。

耳かきの勇者としてあちこちの国を落ち着かせてから、

黄の国に入ったところでリュウがやってきた。

耳かきの勇者の能力は伝わっていたかもしれないと思う。

いや、耳の呪いを解く存在として、

間違いなくリュウはわかっていたはずだ。

俺を煽るように邪なものを暴走させていたが、

俺が耳かきの能力で城や国を鎮めて、

リラが邪なものの核を従魔にする。

それらの流れを見越しているように思える。

リュウは何が目的なのだろうか。

邪なものの核を集めさせることが目的なのだろうか。

リラが邪なものの核から、邪な力は取り払っているけれど、

その核自体に何かがあるのかもしれない。

そして、邪なものだった従魔とも会話ができるリラ。

黒の王妃が言っていた。

リラ自体を邪なものにする意図があったとしたらと。

今のところ、従魔は、

湿邪だったペトペトさん

暑邪だったショージィさん

燥邪だったカラカラさん

風邪だったヒューイさん

そして、寒邪だったユキさん

リラが言っていたが、邪なものは6つあるらしい。

確か残りは火邪だったか。

そろえてはいけないものか、

しかし、その邪なもので困っているならば、助けずにはいられない。

俺は考え込んだ。

耳かきバカだから、難しいことを考えるのは性に合わないが、

邪なものをそろえると悪いことが起きる可能性を考えると、

リラがひどい目に合いそうな気がしてしまう。

俺は心身ともに鍛えているけれど、

リラは違う。

神語を扱える巫女だ。

ある程度、俺についてきてはくれるけれど、

リラに無理をさせてはいけないと思う。

ひどい目に合わせるなどもってのほかだ。


俺は、黒の王に魔法を使うもののことについてまず尋ねた。

やはり、王族などが使えるらしい。

続けて、リュウの話をした。

魔王の手足となって動き回るもの。

そいつが魔法を使っていたこと。

それと、さっき考え込んでいる間に、

魔王の子ではないかと考えていたことを話した。

魔王の子であれば魔法が使えてもおかしくはないという答えが返ってきた。

また、医療大国の技術では、

魔法を使えるようにする特性は持たせられないため、

やはり、そういった血が流れているのだろうという話だった。

それから、邪なものがそろったら何かが起きてしまうのではないかという、

可能性について、黒の王妃が指摘していたことを話した。

リラが邪な力に引き込まれる可能性を、

黒の王妃は話していた。

俺は、他の邪なものが暴走させられるように、

リラがひどい目にあわされたら嫌だと思う。

邪な力に引っ張られたら、俺が全力で戻すけれど、

リラが苦しむのは嫌だと言った。

黒の王は少し考えて、

その心もまた、力かもしれないと言った。

守りたいと思う心、それも邪な力に対抗できる力だと。

大きな意味で愛と呼ばれるものだろうと言った。

愛という言葉は少し気恥しいが、

愛と言われれば腑に落ちることもある。

なるほど、守りたいと思うのも愛か。

俺は一人でうなずいた。


黒の王が、何か思い出したらしい。

最近、陽の国で特性付与の施術を求めるものが増えているらしい。

陽の国はある種の宗教の中心的な国で、

聖職者がたくさんいるらしい。

その国において、特性付与を求めるものが増えているらしい。

特性が役に立って生きやすくなり、

仕事などが上手くいくのであれば、

黒の国の大病院は特性付与をしていくけれど、

陽の国の特性付与を求めるものはあまりにも多いらしい。

耳の呪いがはびこりだしたあたりから、

特別な能力を求めるものが、

陽の国で爆発的に増えているらしいとのことだ。

陽の国からおかしな情報などは届いていないけれど、

この数は気がかりだと黒の王は言った。

聖職者の国の陽の国。

そこで何が起きているのだろうか。

そう言えば、巫女というのも聖職者かもしれないなと俺は思う。

リラの方をちらりと見ると、リラは顔をこわばらせていた。

陽の国とリラに何かがあると俺は思ったが、

とりあえず今は知らないふりをしようと思った。

邪なものがそろったらどうなるかの不安もあるのに、

陽の国のことまで抱え込ませるものじゃない。

「陽の国は、旅していくうちに俺たちが何とかしよう」

俺はリラにそう声をかける。

リラはこわばっていた表情を隠すと、

「勇者様ならばなんとかできます」

と言った。

半分は俺を信じているし、

もう半分は自分に言い聞かせているんじゃないかと俺はなんとなく思う。

なんとかできると信じたい、

なんとかできないほどのものが陽の国にあるのかもしれない。

魔王もそうだが、陽の国もリラを縛っているのかもしれない。

耳かきひとつで解決できるならば俺の出番だが、

難しいことはあまり考えられないので、

腹の探り合いとなったら俺は弱いだろうなと思う。


邪なもののことや陽の国の話をしていたら、

部屋に誰かが入ってきた。

氷晶の採掘現場に入る許可が、現場の方から出たらしい。

あとは黒の王のサインがあれば俺たちを案内できるとのことだ。

黒の王はサインをして、

ひとまず俺たちは氷晶の採掘現場に向かうことになった。

不安なことはいくつもあるけれど、

ひとまずは黒の国のみんなへ耳かきを作ることが先決だ。

氷晶がどれほどあるかはわからないが、

黒の国の皆の耳の呪いを解くほど作れればと思う。

俺は生粋の耳かきバカだ。

難しいことをぐるぐる考えるのは性に合わない。

とにかく耳かきを作って、耳をかいて解決できればそれがいい。

耳かきですべてを守って、笑顔にできればそれがいい。

耳にはそれだけの力があると信じている。

俺の耳かきはそれができると信じている。

俺なら、できる。

俺は俺を信じたい。


俺は気持ちを切り替えて、黒の城をあとにして採掘現場に向かった。

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