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第53話 くろのおうひの物語 黒の王妃は気脈の異変を感じていた

俺は永久氷晶の意識の助けを得て、

永久氷晶から耳かきを錬成する。

透明な光に満ちた耳かきが出来上がった。

永久氷晶の意識が、

俺のために同じものをもう一つ作るように促してくれた。

その程度では気脈の要としての働きは損なわれない、と。

俺は永久氷晶の好意をありがたく受け取り、

永久氷晶の耳かきは二つ錬成した。

ひとつは黒の城の、黒の王に献上しよう。

氷晶からも耳かきができたし、永久氷晶からも耳かきができた。

特殊な効果があるかもしれないと、

俺は耳かきを鑑定する。


氷晶の耳かきに関しては、

過剰な熱を取り除く効果があるそうだ。

暑い場所にいすぎた場合や、

病気の発熱などにいいかもしれない。

また、過剰な熱とのことなので、

心地いい温度の状態でそれ以上に冷えるということはなさそうだ。

黒の国は聞いている話では他の国より寒いらしい。

ここからさらに冷えるという効果ではないようだ。


永久氷晶の耳かきも鑑定する。

永久氷晶の耳かきは、ある種の狂気を落ち着ける効果があるらしい。

鑑定をさらに細かくしてみたところ、

頭に血が上るような怒りを静めたり、

熱狂を静めたり、

眠れないくらいの興奮を静めたり、

ひとつの答えしか見えないくらい視野が狭くなっている状態を静めたり、

そういった、興奮状態に近いような狂気を静めるらしい。

どれほどの狂気も正気に戻すことができるらしい。

これもすごい耳かきだなと俺は思う。

神速の耳かきと永久氷晶の耳かきを組み合わせれば、

ものすごい興奮状態の、

暴動なども落ち着けることができるかもしれない。

あくまで今思いついた使い方だが、

耳かきは使いようだ。

特殊な耳かきであればなおさらだ。

何かの役に立てることができるのは、

耳かきの勇者の使い方次第ということだ。


俺たちはたくさん作った氷晶の耳かきと、

二つ作った永久氷晶の耳かきを持って、

採掘現場をあとにして黒の城に向かった。

採掘現場の皆には、出来立ての氷晶の耳かきを渡して、

耳のかき方を教えておいた。

オオトガリの者がほとんどだったので、

オオトガリの耳のかき方のコツなども教えておいた。

耳かきバカだからこんなことしかできないが、

採掘現場の皆は耳かきを喜んでしてくれた。

耳かきの心地よさが伝わったのならば幸いだ。


黒の城に俺たちは戻ってきて、

黒の王のもとに取り次いでもらう。

どうやら採掘現場の方から早い連絡が来ていたらしく、

俺たちはすぐに黒の王たちのいる部屋に通された。

早い連絡は何らかの通信みたいなものだろうか。

黄の国では気脈解析班があって気脈を見ていたし、

黒の国は医療の技術が発達していることだし、

あるわけないと思っていたシリコンのような素材もあることだし、

この異世界は俺が思う以上に、

いろいろな技術があるのかもしれない。

王族が魔法を使うということを抜いても、

魔法を使えないものが、

いろいろな技術で能力をカバーしているようだし、

また、耳かきバカの俺では思いつかないような技術が、

この異世界では独自に発達しているのかもしれない。

まぁ、俺がわからないだけで通信の技術もいろいろあるのだろうと思う。

ただ単に足の速い誰かが連絡していた可能性もある。

その場合においても、

足の速さの能力をあげている可能性もある。

この異世界はまだまだ分からないことがある。


黒の王や、いろいろの部門のトップらしいものが集まっている。

俺はその前に出て、

氷晶の耳かきを時空の箱から取り出す。

氷晶は耳かきに錬成する時に硬度を上げておいたので、

ちょっとやそっとでは変形しないし壊れない旨を伝えておく。

また、過剰な熱を取り除く効果も伝えておく。

大病院で発熱の患者にも使えるかもしれないと誰かが言う。

炎症を起こしている患者にも使えるかもしれないと誰かが言う。

もしかしたら皮膚の炎症にも使えるかもしれないと誰かが言う。

それではかゆみも抑えられるかもしれないと誰かが言う。

さすが医療大国、考えることが俺とは違うなと思う。

いろいろな部門の者たちで、

氷晶の耳かきの使い道を話し合う。

俺は、黒の国の皆にいきわたらせてほしい旨を話す。

その上で、大病院でも使ってほしいと伝える。

黒の王が了承して、氷晶の耳かきは黒の国で買い取ることが決まった。

たくさんの氷晶の耳かきは、

従者らしい者たちの手で運ばれて行った。

俺はそれを見送った後、

黒の王に永久氷晶の耳かきを献上した。

興奮や狂気を静める効果があると、効果についても説明した。

頭を冷やすということだなと黒の王は理解した。

俺は、黒の王の許可を得て、永久氷晶の耳かきの、

もうひとつを持たせてもらった。

黒の国の気脈の要から作った耳かきだ。

黒の国の国宝にもなりかねないほどの耳かきだ。

それを持たせてもらえるのだから、

ありがたく大事に使わせてもらおう。

黒の王は、永久氷晶が選んだ耳かきの勇者だからなと言っていた。

黒の王でも永久氷晶の意識と話すことはできなかったらしい。

その意識と会話ができて、

耳かきを二つ作っていいと永久氷晶が許可したのだから、

ひとつは耳かきの勇者が持つべきだと黒の王は笑った。

すごいものを作ったのだなと改めて俺は思った。


耳かきを黒の国に納品という形で、

俺は黒の国が一件落着した気がした。

おそらく耳かきは黒の国にいきわたり、

耳の呪いもどんどん解かれていくだろう。

俺は部屋をあとにしようとした。

そこに、そっと入ってきた女性がいた。

寒波がすごい時に見た女性だ。

確か、黒の王妃だ。

黒の王妃は、黒の国の役職持ちのものが集う中に進み出て、

陰の国と陽の国で、気脈が乱れています。

と、告げた。

部屋の中で動揺が走る。

黒の王妃は続ける。

また、地の果ての国で気脈とは違う力の流れが生じています。

そんなことを言った。

部屋にいる者は口々に言う。

地の果ての国ということは、魔王かと。

魔王が動き出しているのかと。

部屋にいる者が部屋を走って出て行く。

いろいろな国に連絡を取りに行くのかもしれない。

また、陰の国と陽の国の状況を確認しに行ったのかもしれない。


部屋には、黒の王と、俺たちと、黒の王妃が残った。

黒の王妃は、控えめな笑みを浮かべながら俺に話しかけた。

出しゃばった真似をしましたが、

耳かきの勇者様の助けになりたかったのです、と。

聞けば、黒の王は永久氷晶の意識と会話できなかったが、

黒の王妃は永久氷晶と会話ができて、

そこから気脈の流れも感じられるらしい。

永久氷晶が気脈の一部ということは感じられて、

どこかの気脈がおかしければ、それを感じることができるそうだ。

さすがは寒波から皆を守った黒の王妃だ。

すごい能力を持っていたのだなと俺は感心する。

俺が手放しで黒の王妃を褒めると、

黒の王妃は、すごいのは耳かきの勇者のあなたですと言う。

あなたは耳かきを通して、

この世界のすべてとつながろうとしています。

そして、この世界を平和に導こうとしています。

全ての耳はやがてあなたとつながりましょう。

あなたはすべての声を聞き、素晴らしい力を手に入れましょう。

俺はただの耳かきバカなんだがなと言うと、

あなたの耳かきが世界を癒していきます。

困難があるかもしれませんが、あなたならば越えられます。

そう、黒の王妃は言う。

言ったあとで、

邪なものの力に気を付けられてくださいと言う。

勇者様ならば対抗できると思いますが、

邪なものを使うものが、どれほどのことを考えているかはわかりません。

気脈も乱れている箇所があります。

どうか、気を付けられてくださいと黒の王妃は言う。

俺は黒の王妃の言葉を心に刻んだ。

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