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第54話 たにまのみちの物語 陰の国へは谷の間の道を行く

黒の王妃から、陰の国と陽の国の気脈が乱れているという報告があり、

また、地の果ての国でも気脈とは違う力の流れがあるという。

魔王ではないかと、部屋がにわかに騒がしくなって、

部屋に集っていた各部門の偉い者が走って出て行った。


俺が耳かきを用いて、いろいろな国の皆の耳をかいたり、

邪なものの力を無害なものに変えてきたりしたことで、

いくつかの国の気脈がおさまったらしいとは聞いた。

しかし、まだまだ気脈がおかしくなる国はあるのだろうし、

俺が訪れていない国では耳の呪いがあるのだろう。

そして、魔王らしいものの存在。

確か、魔王を封印をしたときは、

この世界の皆の力を合わせて封印したと聞いた。

二度と力を合わせることがないよう、

魔王が耳の呪いをかけたとも。

俺が耳の呪いを解いて回っているけれど、

魔王にとってはそれが邪魔であろうとは思う。

封印されているとはいえ、

耳の呪いをさらに強くする可能性もあるし、

また、俺に対して何か罠をかけてくる可能性もある。

その他に、邪なものを繰り出してくる可能性。

俺だけならばともかく、リラが狙われる可能性。

多分これからの耳かきの旅は、

何かしらの危害が及ぶ可能性があるかもしれない。

今までのようにいかないかもしれない。


部屋は静かになった。

黒の王と、黒の王妃、俺とリラと従魔たちがいる。

俺は黒の王に、陰の国と陽の国ではどちらが近いかを尋ねた。

黒の王は、黒の国からならば、陰の国が近いと話してくれた。

黒の国から山の中の谷になっている場所を越えて、

細い谷底の道を行った先に陰の国があるらしい。

黒の国から陰の国へと通じる道は、その谷底の道しかなく、

また、陰の国は白の国とも道があるけれど、

その道はとても険しいものであるらしい。

比較的行きかいがしやすい黒の国と陰の国は交流があり、

陰の国の特産物や黒の国の医療技術が交わされているらしい。

その中には、俺が驚いたシリコンなどもあるらしい。

なるほど、黒の国から次に行くとすれば陰の国か。

気脈も乱れているというし、

早めに行った方がいいだろう。

俺は黒の王に、陰の国に向かう旨を告げる。

黒の王はうなずいて、

陰の国も助けてやって欲しいと言った。

俺はうなずき返した。


会議をしていた部屋を出て、

俺たちは黒の城を出た。

門番が、陰の国への道をざっと説明してくれた。

氷晶を採掘していた場所の近くの道を通るらしい。

採掘現場よりも、下の方に向かう道があるそうだ。

山の間、谷を行く道があって、

その道が陰の国に向かう道であるらしい。

関所があるけれど、

黒の国と陰の国の間では、滅多なことでは関所で足止めはないらしい。

また、足の速さをあげている伝令の者が、

黒の王からの命令ですでに関所に向かっているという。

耳かきの勇者一行ということであれば、

すぐにも通してもらえるだろうとのことだ。

足の速さをあげているのは、

黒の国の医療技術による、

能力をあげる技術のたまものなのかもしれない。

いろいろなところに応用ができるのだなと思う。

俺たちは門番に礼を言うと、

谷の道を目指した。


黒の城を出て、山道をしばらく歩き、

採掘現場の近くの道を行くと、

確かに分かれ道があり、下に向かうような道がある。

やはり谷の下を行くような道のようだ。

俺たちはそちらの道をまた歩く。

山の道は木々があり、

寒波も去ったので山らしい過ごしやすさであったけれど、

谷の道は岩肌がごつごつしたところの下を通っていて、

植物はほとんどなく、

また、日当たりもほとんどない。

少し日が傾いたら明かりがないと歩きにくいほどだ。

今は谷に差し込む日の光で十分歩ける。

陰の国がどんな国かはわからないけれど、

谷の道を行くことから、

山の上の方の国ではないのかもしれないと思う。

このあたりは俺の憶測でしかない。


谷の道を歩くことしばらく。

こぢんまりとした建物が見えてきた。

谷の道をふさぐようにある建物が、

どうやら関所であるらしい。

歩いて近づいていくと、

関所に誰かがいるのが見えた。

複数いる。

みんな、俺たちに向けて歓迎を表すように手を振っている。


俺たちが関所までたどり着くと、

黒の国側の関所の兵士と、

陰の国側の関所の兵士がまとめて俺たちを出迎えてくれた。

陰の国側の関所の兵士たちは、

垂れた耳をしている。

ウサギの耳が垂れているようにも見えるし、

長い犬の耳が垂れているようにも見える。

これが陰の国の種族の外見的特徴なのかもしれない。

ロップイヤーなどと言うウサギがこんな感じではなかっただろうか。

俺は、陰の国側の兵士に、

その耳では耳の呪いがこもらないかと尋ねた。

兵士が言うのには、

耳が垂れていて軽く耳をふさいでいるので、

強い耳の呪いはないのだという。

また、耳の呪いが出始めた頃から、

黒の国の協力もあって、

陰の国は黒の国くらい耳の呪いが抑えられていたらしい。

黒の国の技術の支えとして、

陰の国から特殊素材を持って行ったりして、

互いの国で耳の呪いに対して対策をしてきたという。

陰の国のこの垂れた耳の種族は、

アンダーズと言うらしい。

また、陽の国は長い耳が高くピンととがっていて、

ハイヤーズというらしい。

オオトガリよりも長く上に伸びているらしい。

俺の感覚で言うところの、

ウサギの耳が上へと伸びているような感じなのかもしれない。

そのあたりは、いずれ陽の国に行ったときにわかるだろう。


関所では、耳かきの勇者という連絡がすでに来ていて、

兵士たちから、耳かきとはどんなものなのか、

アンダーズでも問題はないのだろうかという質問が飛んだ。

俺は一般的な竹の耳かきを時空の箱から出すと、

アンダーズの兵士をひとり呼んで、

試しに耳かきをしてみる。

垂れた耳をあげると、そこにはちゃんと耳穴があり、

あまり特殊な耳穴の形でもないようなので、

俺は今までの経験から耳かきをする。

兵士は心地よさそうに耳をかかれている。

俺は説明を交えながら、

耳かきというものを教えていく。

関所では、黒の国の兵士と、陰の国の兵士たちで、

耳かき勉強会になった。


一通り関所の兵士たちの耳をかくと、

耳の呪いが強くは出ないとはいえ、

やはり耳がすっきりしたらしく、

皆一様に笑顔になった。

俺はそれに満足した後、

陰の国について尋ねた。

どんな国であるのかを知りたいと思った。


陰の国は、たくさんの洞窟のある国であるという。

日の光の届きにくい国であるらしい。

陰の国の名が示すように、暗い国ではあるようだが、

陰の国の民は、陰の国で取れる素材を加工することに長けていて、

それらの素材の中に、俺がこの世界で目にかかれないと思っていた、

シリコンのようなものもあるらしい。

陰の国の民は、繊細な技術と、

洞窟を整える屈強な力と、

底抜けの明るい性格が特徴らしい。

陰とは言うけれど、

技術に裏打ちされた強さと明るさがあるのだなと俺は思う。

また、聞いている限り、

陰の国の技術は、

俺の世界で言うところの、

工業技術と、化学の技術があるのかもしれないと思う。

俺の思い描くほどの工場ができる程かどうかはわからないけれど、

陰の国にはそれなりの施設があるのだろうなと思う。


関所で陰の国の話を一通り聞いた後、

俺たちは形ばかりの手続きをして、

関所を抜けて陰の国に入った。

黒の国で気脈が乱れていると聞いたこともある。

まだ黒の国に近い関所などは無事かもしれないけれど、

陰の国の中がどうなっているかはわからない。

俺たちは陰の国の道を歩き出した。

何が待ち受けているだろうか。

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