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【閑話】メイドの人生、その独白

 小さい頃から一緒だった、赤い髪の女の子。

 いつの頃から「おじょうさま」と呼ぶようになった。

 これはメイドという仕事をしているおかあさんから言いつけられたことだった。


 今日も私はおかあさんと一緒にお屋敷へ。

 私としてはおじょうさまと遊びに来ただけだったけど。


 おじょうさまは手先が器用で、よく遊びながら紙を折ってくれた。

 ただの紙が鳥になったり、ドレスになったりするのは不思議だ。

 今日は「めりんだにあげるっ」ってちょうちょの形に折られた紙をもらった。

 かわいい。帰ったら宝物箱にしまおう。


 少し大きくなると、お嬢様は編み物やお洋服を作るようになった。

 まだ小さかった私だけど、特別にお嬢様専属メイドという仕事を頂けることになったのがこの頃だ。

 お嬢様の側に控えて、色々なことをお手伝いするって仕事。

 けれど、お嬢様はあまりを必要としなかった。

 なにしろ自分のことは自分で全てやってしまうのだ。

 それにちょっと不満を感じていたこともあった。

 折角メイドというお仕事を頂けたのに、何もしてあげられなくて。

 それでいて給金を貰うのが心苦しくもあった、のかな。


 そんなお嬢様だったけど、は必要としてくれた。

 いつだってメリンダ、メリンダと甘えてくれて。

 だからいつも側にいて、話を聞いてあげた。

 たまに私の愚痴もいって聞かせたら楽しそうに笑っていた。

 って笑い事じゃないんですけどねー。


 今日は夜会が嫌だと泣いていた。

 どうやら昨日のパーティで酷く嫌なことをされたらしい。

 その"嫌なこと"の跡は、桃色の華やかなドレスにはっきりと残っていた。

 相手は伯爵家の令嬢だという。

 それは困りましたねー、男爵家のメイド程度ではちょっと手が出せません。

 旦那様にそれとなくお嬢様が嫌がっていることを伝えるくらいが精一杯です。

 不出来なメイドでごめんなさい。


 段々と夜会に行くのも慣れてきたお嬢様。

 愚痴もいわなくなってきた。

 けれどいつから一緒にいると思ってるんですか?

 表情を見れば分かるってもんですー。

 きっと私を心配させないようにしているんでしょう。

 だから今日の夜会には目立たないような赤黒いドレスを用意してみた。

 きっとお嬢様は可愛らしくて目立つからやっかまれるのです。

 そういって地味なドレスを着せてあげた。


 どうやら効果はあったようで、今日は足を蹴られただけで済んだと喜んでいた。

 うーん、普段はどんな酷いことをされているんでしょう。

 でもお嬢様が喜んでくれたなら良かった……かな?


 それから赤黒い目立たないドレスを好んで着るようになったお嬢様。

 どうやら巷でこう呼ばれているようです。

 ”壁の花”って。

 私のお嬢様になんて失礼な。

 言いはじめた人にメイドキックをお見舞いしてやらなければですねー。

 え、それも伯爵令嬢が言い出したって?

 ……キックはやめてここはメイドのひと睨みくらいで勘弁してやるとしますか。


 今日は辺境伯様の夜会にお呼ばれしたらしい。

 旦那様から特別な夜会だから華やかなドレスを用意せよと厳命された。

 うーん、これは困りました。

 きっとお嬢様はいつものドレスを選ぶのだろうから。

 まあ私が怒られるだけで済むならそれでいいか。

 一応用意はしましたよー?って言い訳出来るようにだけはしておこうっと。


 夜会から戻ってきたお嬢様はいつもとは違っていて。

 辺境伯様と婚約した?私は耳を疑いました。

 けれどお嬢様の可愛さならそれも当然かもしれませんねー。

 専属のメイドとしては鼻が高いってもんです。

 これでお嬢様は嫁いでいって、私の専属メイドとしての物語は終わり。

 さー次はメイド長になったお母さんの後釜でも狙うとしますか。

 それか結婚しちゃうのもいいかもしれないですねー。


 え、ついてきてって何を言い出すんですかお嬢様。

 こんなメイドがついてきたら相手だって迷惑に決まってるじゃないですか。

 お嬢様がメリンダ離れしないと私の結婚はどうなるんですー?……相手なんていないんですけどね。

 ま、考えておきますよっていったけど、期待はしないでおこう。

 お嬢様のその気持ちだけで十分嬉しいですからねー。


 嫁ぐ際にメイドをひとり連れていっても、いいでしょうか?

 って辺境伯様に何を聞いているんですかお嬢様。

 そして当たり前のように許可する辺境伯様も辺境伯様ですって。

 あー、うん……私の結婚はまだ先みたいですねー。


 今日は神殿に行くってきかないお嬢様。

 なんかすごく嫌な予感がするんですけど?

 ほら、天気も曇りだしやめときましょ。明日にしましょ。

 はぁ分かりました、じゃあ私もついていきます。

 そこは絶対に譲れないですから。

 ついでに終わったらあそこの喫茶店に行くっていうのは……いい?やったー。


 あーあ、嫌な予感って当たるんだなぁって。

 きらりと光るナイフを持って女の子が走ってきた時にそう思った。

 狙いは……お嬢様?

 だから私は咄嗟にお嬢様を突き飛ばした。


 衝撃と共に鋭い痛みがあって。

 それからとんでもない熱さにお腹の中を蹂躙された。

 命がなくなる時ってこういう感じなんだなー。

 でもお嬢様を守れたことは私の誇りだった。

 ま、その誇りがあればあの世もへっちゃらなんでー。

 だから私のことなんて放っておいてお嬢様は逃げて……。

 私はここまで、だから。



 あれ、私……生きてるんですか。

 目が覚めた時に、はじめに感じたのはそれだった。

 なんだろう?

 一度死んだと思ったからか生まれ変わったような変な気分。

 まあなんにせよ生きていて良かったですー。

 死んでいたらお嬢様が悲しんだだろうから。


 おっと、そんなことを考えてると何やら遠くから聞こえてくる。

 うん、この足音はお嬢様だろう。

 飽きずに今日も見舞いにやってきたんですねー。


 まったく……。

 メイド一人に気を揉むなんて困ったお嬢様ですねっ!

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