そして第二回戦、第七試合。
「西側から入場‼ 疾風迅雷の瞬殺劇っ! 最強王者は今宵も矛盾を解くことが出来るのか‼ 瞬殺王者! シロォォオオオウ・クロオオォォォォオ――――――スッ‼」
俺は第三騎兵団の音楽隊ディアール隊長のご息女のアナウンスで入場する。
ちなみにこれも【ワンスモア】対策である。アルコ・ディアールさんは特殊任務攻略隊の一員である。
「東側から入場‼ 金城鉄壁の封殺劇っ! 今宵は絶対防御が矛盾を覆すのか‼ 鉄壁天使! ライラアァ――――――――――ッ・バッッッルウゥゥウウゥゥ――――~~ンンッ‼」
アナウンスと共にライラ・バルーンが入場する。
ふてぶてしく笑みを浮かべて、腕を組んで俺の前に立つ。
「……今日は全部捌いて、私が勝つ――――ってちょっとあんた首、キスマークついてるわよ」
「――――ッ!」
ライラ・バルーンの指摘で俺は咄嗟に首筋を押さえてしまう。
「嘘だよマヌケ。何あんた、全帝前に女連れ込んでんの? ……まあ王者様は私みたいな可愛いすぎるだけの小娘なんて余裕ってことですよねぇ、すごーい尊敬しちゃーう」
ニヤニヤしながら謙虚なのか傲慢なのかわからない煽りをライラ・バルーンは捲し立てる。
こいつ……っ、マジで畳む。
当たり前だが俺は試合前にはしっかり禁欲に徹する。
パンドラはセクシャルなジョークが好きだが、軍医だ。その辺りの配慮はある。試合に向けての体調管理の為に、試合前は一緒にいるだけで遊んでいるわけじゃあない。
ただあいつは寝る時、服を着ないという癖を持っているだけだ。
子供の頃、自由に動く身体が嬉しくて毎日朝起きて手足があることを確認していたのが起きて服を脱ぐのが面倒になり寝る前から服を着るのを辞めたらしい。
でも割りとあいつなら寝てる間に、こういう悪戯をしなくもないので思わず首を押さえてしまっただけだ。
それを…………っ、いや、落ち着け。
これは俺を苛立たせて、攻めを雑にする意味が込められている。
トーナメント発表会でも、伝言まで使って徹底して挑発してきたのはその為だ。
ブライさん曰く、ライラ・バルーンの両親もまた父に鍛えられた凄腕の冒険者だったという。
特にバリィ・バルーンは目的遂行のためなら手段を選ばない、異常な分析と攻略を行う狂人だったらしい。
彼女の脅威は防御力だけではない。
手段の選ばない攻略も同じくらい脅威だ。
だから落ち着いて、心を乱すな。
この挑発は裏を返せば。
怒りに任せて雑な動きにならなければ捌ききれないと言っているのと同義だ。
今日こそは、勝つ。
「それでは! 第二回戦第七試合………………、試合開始イィィィ――――――~~っっ‼」
さあ、俺をまた一つ世界最強に近づけてくれ。
ライラ・バルーンの戦法は、待ち。
徹底的に捌いて、相手を無効化し続けての封殺を得意とする。
防御性能は間違いなく帝国トップ、無闇に攻めても逆に遠回りだ。今まではそれで、攻めあぐねて時間を稼がれた。
挑発には乗らない。
まずは冷静に観察を――――。
なんて、開幕は落ち着いて距離を取ろうとしたところで。
奇襲。
ライラ・バルーンは盾を展開して凄まじい勢いで、突っ込んできた。
速すぎる……! なんだこの機動力は……っ。
そうか盾……、高速で操作した浮遊する『四枚羽根』に掴まって機動力を得ているのか。
俺は身体強化と防御魔法を同時に展開して、運足にて回避行動をとる。
後手に回らされた……っ、予想してなかった。
ライラ・バルーンが先手奇襲なんて……、こいつ今までの試合や試合前の挑発も含めて冷静にさせて観察させることを狙ってやがったんだ。
想像以上に高機動でピタリとついてくる、こんなに動けたのかこの女……。
面は食らった。だが、この距離は俺の距離だ。
空間魔法から剣を射出して取り出す。
予め空間領域にぶん投げて入れて、慣性ごと保存しておいた。
勢いの流れのまま剣を振り、迎撃をする。
ライラは剣に臆することなく、盾で上手く遮蔽を作りながらさらに入身で距離を潰してくる。
ちっか、おまえこの距離で戦うやつじゃねぇだろ……っ、格闘戦で俺に挑むのは無謀過ぎる。
好都合、ここで終わらす。
一回剣を手放して、徒手格闘に切り替える。
前手のリードジャブ、避けた先への肘打ち、飛び膝蹴りから身体を反転させながら手を着いてセンチャイキック。
ライラは器用に避けたりブロッキングで捌きながら距離を保つ。
甘くねえ、流石の防御性能だ。
だが俺も甘くないぞ、超えさせてもらう。
センチャイキック後の逆立ち状態から、その場目視転移で身体を正位置に戻しながら踏み込んでスマッシュ気味の右フックを振り抜く。
それに合わせてライラは、合気的な理合で右フックを引っ掛けるように背負い投げをする。
うっめぇ……っ、こんなこと出来たのか。
見事に投げ飛ばされながら目視転移の着地点を探すが、滞空する盾をいい位置に配置してやがる。
だがこの盾は俺にも利用できてしまうのさ。
一番近い盾に手を着いて、吸着魔法で勢いを止める。
そのまま盾を腕力で投げつけてやろうとした時に気付く。
あれ……? 視界に盾が四枚ある。
五枚目を出し――――。
爆発。
吸着魔法で吸い付けていた五枚目の盾が、爆発して巻き込まれる。
くっそ…………。
防御魔法で致命的な負傷は防げたがそれでも『纒着結界装置』が相当削られた。
爆風の勢いのまま、上手く距離をとって立て直す。
まさかこんな至近距離で爆裂系魔法を使うとは……、ライラ自身も巻き込まれただろ。
体勢を立て直し爆煙を見ると。
煙の中から、盾を展開して構えつつ人差し指をくいくいと曲げて無傷で俺を煽る。
鉄壁天使、ライラ・バルーンの姿があった。
「――――ッ!」
完全にやられたことを悟り、心が燃え上がって目から炎が噴き出す。
あいつはここから守りきって、このダメージ差で勝利する気だ。
今までは僅差のダメージ量で、試合としては俺が勝利してきた。
だから初手の様子見を狙った奇襲で得たアドバンテージを、制限時間いっぱい守りきるつもりなんだ。
勝ちに徹してきやがった……、防衛行動に十割振った人間を切り崩して倒すのはかなり難しい。
攻略の差が出た。
舐めていたわけでもない、ただあいつの方が勝ちに対して貪欲だっただけだ。
「……ふ――――――っ」
鼻から息を吸って口から吐いて、身体の不要な緊張を抜く。
実戦でも俺はこの爆発では死んでいない。
回復魔法で治療可能な範囲だ。
つまり、根本的に俺にとって最初から状況は変わっていない。
盾を引っぺがして、畳む。
どちらにしろ俺の勝ちはそれしかない。
判定には持ち込ませない。
武具召喚で手元に剣を握り直し、連続目視転移で立体的に翻弄しながら隙間を狙う。
もちろん隙なんかない。
ああなったライラ・バルーンは、鋼鉄の真球の中心部に埋まっているのと同じだ。
与えられても熱や爆発による副次的なダメージしか通すことが出来ない。
念の為にやってみたが無理だ。
「……もういい、荒っぽく行くぞ」
俺はライラから目視転移で助走距離をとって、クラウチングスタートの体勢からそう言う。