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01本質的に間違ってなくても悪行は悪行でしかない

 僕、チャコール・ポートマンはサウシス魔法学校の生徒で今は戦闘部に所属している。


 なんだかんだあって、愛を試されるべく僕は全帝国総合戦闘競技者選手権大会に出場しベスト4入りを目指している。


 第二回戦。

 人形遣いのソフィアさんとの戦い。


 あの『赤』と呼ばれた、人にしか思えない強すぎる人形に辛勝した。

 こんなことなら三十秒なんて待たなきゃ良かった……もしこれで負けていたらめちゃくちゃかっこ悪かったぞマジに。


 なんとかギリギリ僕は準々決勝へと進んだわけだけど。


 まあそんな、僕の話は今はいい。


 今、論ずるべきはこれだ。


「あのガキ殺すともれなくクロウがキレるのが厄介だが……、最悪それも辞さない覚悟であのガキを殺すか?」


 物騒なことを口にしながら魔力を練り上げるバリィさんに対して。


「落ち着いてくれ兄貴! クロウさんがそんな簡単に家族を狙わせるわけないだろ!」


 慌ててそう言ってバリィさんを抑えるうちの親父と。


「そうよ。それにクロウ相手なら私たち手伝わないからね。この歳になって、あんな怪物相手に大立ち回りなんて出来ないわよ」


 呆れるように奥さんのリコーさんがそう言う。


 第二回戦で、ライラちゃんが負けた。


 相手はシロウ・クロス。

 二連覇中の全帝チャンピオンで親父やバリィさんたちが昔世話になった世界最強のクロウ・クロスさんの息子だ。


 クロウさんとは赤ん坊の頃に一度あったことがあるらしいけど、おふくろはクロウさんと因縁がある為交流はほとんどない。その時もおふくろが居ない隙を狙って出産祝いを届けに来たという。


 まあそんなバリィさんの親友の息子が愛娘に試合で三連勝をかまして。

 試合が終わってからブチキレ散らかして手に負えないということで、なだめるために長距離転移で実家に跳んでうちの親父を連れてきた。


「……いやバリィさん落ち着こうよ。僕も腹立つし悔しいけどいい試合だったよ? ライラちゃんのモチベーションも下がってないし次やったらぺしゃんこに畳むと思うよ」


 僕は試合で疲れてぐっすり眠るライラちゃんをおんぶしながら、荒ぶるバリィさんへと言う。


「そういう話じゃねえ、別に俺は競技の勝敗にイチャモンつける気はねえさ。別にこんな模擬戦モドキでライラが怪我したりとかはしねえからな……、だが今回あのガキはを使いやがった」


 禁煙の会場前の広場で思いっきり煙草に火をつけながら、バリィさんは語る。


 いやあんた禁煙を教育者が……、いや風魔法で煙が散らないように操作しているのか。なんだその無駄に卓越した魔力操作、まあ思ったより冷静さを取り戻してるってことか。


「あの野郎、最後の最後で疑似加速を使いやがったんだよ」


 鼻と口から煙を漏らしながら、ぶっきらぼうにバリィさんはそう言った。


「あれは軍事機密っていうか、めちゃくちゃ秘匿されてる。メリッサに付けられてる行動規制の半分以上は疑似加速を使えるってことに起因しているレベルだ。なんせクロウの『加速』や『超加速』とほとんど遜色ねえくらいまでスキルを再現した魔法だからな、スキル再現は禁止されている帝国における超禁術魔法だ」


 吐いた煙を風魔法で器用に上空へと流しながら、疑似加速についてつらつらと語る。


 確かにあの最後の動きは異常だった。

 トーナメント発表会の時はまだすっげえ速いだけだと思ったけど、あのライラちゃんのカウンターを避けた時の動きはほとんど見えなかった……。


 生きている時間というか、世界が違った。


「クロウの息子でクロウに鍛えられたジャンポールなんちゃらだとかに鍛えられてんなら別に使えてもおかしかねえが……、問題はそれを競技の中で使ったことだ」


 煙草から長く伸びた灰も風魔法で巻き込んで粉々に上空に散らしながら、平らな声で淡々と語りは続く。


「別に俺は反則はバレなきゃ反則じゃねえと思ってるし、そういうのも技術だと思っている……程度はあるが本質からズレてないなら競技でもそうだと思っている。つーか勝負に汚ねえもなにもない。使えるもんは何でも使うべきだし、それこそが全力で勝負に挑むってことだとも思っている」


 バリィさんらしい考えを述べる。


 それは僕も同意するというか、僕も親父もおふくろもバリィさんの戦闘理論に影響を受けているので根っこのところで同じなのだから当然だ。


「だが疑似加速はダメだ。存在していることすら隠さなきゃならないもんだからな……、だからメリッサは未だに帝国軍の監視下に置かれている。そんなもんを使ってくるのは流石に競技の本質から外れている」


 どっぷりと煙を吐きながら、やや眉をひそめて語る。


「だったらライラもバレねえように毒酸素やら、消滅魔法やら、ハニトラスキャンダル砲とか、競技の本質から外れた勝利方法なんていくらでもある」


 とんでもない反則行為を羅列しながら、バリィさんは煙草の回りだけ無酸素状態にして火を消す。


「疑似加速を使われなきゃライラはあのまま勝っていた……。あーマジに腹立つあのガキ、うちの生徒なら生徒指導室に吊るして説教してやるところだ」


 そう言って、中指と親指に挟んだ吸い殻を弾いて僕に向けて飛ばして、僕は当たる寸前で消滅魔法にて吸い殻を消し去る。


「よしチャコ、おまえ今からトーンに跳べ」


「…………え?」


 僕はバリィさんから突然の指名に間抜けな声を上げる。


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