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02本質的に間違ってなくても悪行は悪行でしかない

「今頃メリッサとダイル君はトーンに到着しているはずだ。メリッサに疑似加速と加速した世界での戦い方習ってこい」


 バリィさんはそう言いながら僕が背負っていたぐっすり眠るライラちゃんを持ち上げて背負い直す。


 つーかバリィさん、非力な感じ出してるけどライラちゃんかなり肉付きいいし背も低くはないから多分六十キロ近くあるのに当たり前のように持ち上げるのな……。やっぱこの人相当鍛えてる。


「メリッサは……というか。おまえの母親も含む勇者パーティは、世界で唯一クロウを本気にさせるほど追い詰めた対クロウにおけるスペシャリストたちだからな」


 淡々とバリィさんは話を進める。


「いや……、あのその魔法って知っちゃダメな軍事機密的なやつなんですよね? それを学んで来いって流石に僕は法を破るのはちょっと……」


 流石に僕は割り込む。


 そんな重要機密を僕みたいな奴が覚えるのは良くないし、メリッサさんもその魔法を人に教えないように監視されているのに無茶苦茶だ。

 メリッサさんの立場も僕の立場も悪くなる。リスクしかない。


「あー大丈夫だ。まず疑似加速は秘匿されすぎていて法規制すらされていない、法規制する為にはその存在を一度国会で周知して検証をしなくちゃならないからな。魔法によるスキル再現の成功例なんてもんは存在してないことにしてこのまま知るものが口を噤んだまま死ぬのを待ってる状態だ。だから法には触れない、まあ勝手に広めたら洒落にならんくらいめちゃくちゃ怒られるが……知る分には問題はない」


 さらりと、ライラちゃんを背負いながらバリィさんは語る。


「それにメリッサは今、ちょっと野暮用でトーンに呼び出されていて監視が弱まっている。トーンにぞろぞろ余所者が集まると不自然だし足でまといだからな、最低限の人員……下手したら監視らしい監視はいないかもしれねえ。バレねえように習っちまえば問題はない、バレなきゃ反則は反則じゃねぇ」


 メリッサさんの近況と、バリィさんの持論が展開され。


「んで、チャコが使えるようになっても問題はない。誰に習ったとか、何処で知ったといわれたらシロウ・クロスが全帝で使ってたのを真似したと言えばいい。実際人前で疑似加速を使ったのはシロウだし、チャコはそれがスキル再現魔法だなんてことすら知らないはずなんだからな。シロウが悪いっていうか、シロウに継承したジャンポールが悪いことになるだけだ」


 淡々と責任逃れの方法を語り。


「あくまでも法規制ではなく、疑似加速を広める行為が咎められることであってたまたま真似したら出来ちゃった魔法が疑似加速なだけだったら咎めようがねえんだよ。だから大丈夫だ」


 そう言ってバリィさんは締めくくった。


 いやぁ……確かに、それはそう。


 実際僕は既にシロウ・クロスの使った疑似加速とやらを見て、ちょっと解析出来てるしやろうと思えば似たようなことは出来そうだとも思っている。多分、スズならもう完全再現出来てるくらいの難しいけどなんとかなりそうな魔法だ。


 そんな真似出来ちゃう重要機密を全帝なんて大舞台で見せたシロウ・クロスが間抜けなのは間違いない。


 でもなあ……。


「うーん……別に僕の目標ベスト4だから、次勝てればいいし。シロウ・クロス対策は一旦いいかなって」


 僕はあっさりと、バリィさんの提案を断る。


 うん。

 なんかおふくろとかはクロウ・クロスさんと因縁あるのかもだけど僕はなんにもない。

 シロウ・クロスにちょっと思うところはないわけじゃないけどライラちゃんに怪我させたわけでもないし、競技の中での勝敗でしかない。


「いやおまえここはノリ的にライラの仇討つとこだろ! つーかベスト4ってのもどっかでライラと当たるかもしれねえことを配慮した成績だ。ライラいねーんならてめーが優勝しろ馬鹿、ライラ守りてえんならシロウくらい畳めよ! 条件変更だ! 優勝しろ!」


 僕の淡白さにバリィさんは声を荒げて無茶を言う。


「ええ……、そんな無茶な。ベスト4もギリギリっぽいのに。ソフィアさんの人形みたいなのがいたら勝てないですよ」


 僕はへきへきしながら返すと。


「あれはイレギュラーだ。あんなのそうそう出てこねえ、つーかあれ疑似加速なしならシロウ・クロスより強いまであるしな。あれに制限時間がなくてもうちょい頑丈だったとしたら勝てる見込みがあるのはライラだけだ、あれは巨乳じゃなきゃ倒せねえ」


 モチベーション不足に僕に対して、冷静にバリィさんが食い下がりを見せたところで。


「チャコ、ごめん。決勝でチャコが吠え面かかせるって啖呵切っちゃったから……畳んどいて」


 バリィさんの背中で目を覚ましたライラちゃんが、ウインクをしながらそう言う。


「…………はあ、わかったよ。吠え面かかせてやる」


 そう言って僕は、バルーン一家を長距離転移でサウシスに跳ばした。


 仕方ない、頼まれちゃったのなら頼られちゃったのなら仕方ない。


 応えなきゃならない、俺はライラちゃんが好きだから。


「ああ俺はポピーさんの筋肉召喚で帰るから、一人で跳ぶといい。一回戦見たぞ、流石ポピーさんから魔法を習っただけのことはあるな……二回戦は兄貴が言うにはどうにも放映されないみたいだけど頑張ったみたいじゃないか。なかなかポピーさんのあれであんまり帝都に長くは居られないけど、決勝は会場に来れるように相談してみるから。頑張れよ、応援してる」


 親父はそう言って、馬鹿でかい手のひらで僕の頭をわしわしと撫でた。


「ありがとう、じゃあ行ってくるよ」


「あ、――――」


 僕は笑顔でそう言って親父の言葉を聞き終えずに、トーンへと跳んだ。


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