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02仕事が早いやつはそのうち暇になる

「……ふーっ、ちょっと疲れた」


 僕はそう言って、消し飛ばした拠点跡地に腰掛けて一休みする。


 流石に魔力が切れてきたし集中力も切れてきた。

 肉体的には脈動回復を打ってあるのでそこまで疲れないけど、魔力消費が著しい。


 スキルの『超加速』がなくなったからとかじゃなくて単純に老いた。

 魔法使いとしてのピークはとっくに過ぎている。魔力との親和率や筋量は維持しているけれど、単純に魔力回復がしづらくなったし魔力の最大量も減ったし体力も衰えたので回復に回す魔力消費は増えた。


 もうすぐ五十という年齢を考えれば当然だし、世のおじさんの中ではかなり頑張っている方だとも思う。


 さて『予備魔力結晶』での魔力回復は出来た。

 共有された拠点はあと一つ、もうひと頑張りして帰って晩御飯の支度をせねば。


 僕は長距離転移で、セブン地域へと跳んだ。


 ここはセブン地域の旧公都よりも北側、ブラキスの家よりは南寄りに位置する森林。この森の地下に拠点があるらしい。


 地下施設……なかなか凝ったことをするな。まあ土魔法やらで掘り抜いて固めた感じか。

 まあ、そんなに大きな規模でもない。多くて二十数名が、隠れ家にしているくらいだろう。


 基本的に【ワンスモア】は満二十歳以上、つまりスキルを持っていたことのある人間を狙って拉致を行う。


 特に強力なスキルを持っていた人間を攫っている。

 これは再現スキルを造るのに必要な情報を集めたり……まあ色々ある。


 それ以外のスキルを持っていたことのないティーンエイジャーや強力とされていないスキルを持っていなかった人は問答無用で殺害されていたりする。

 他にも優秀な技術者や特異体質の人間も攫ったりしている。


 拠点内に攫われた人がいないかは必ず確認して、居たら近くの帝国軍拠点に跳ばしておくけど。

 今のところ救出できたのは数人程度、そもそも拠点内に拉致した人間を幽閉したりする部屋すらないことが多い。


 どうにも拉致被害者は本拠地に特殊な『転移結晶』で跳ばされているらしく末端の構成員は本拠地の場所を知らないらしい。


 さっさと本拠地を叩いてしまいたいが、なかなかどうして小賢しい。

 まあ地道に拠点潰して情報を集めていればそのうち特定出来るだろう。


 なんて考えながら地下拠点の入口を発見し、侵入して疑似加速を発動。


 最速でかっぱらえるもんはかっぱらって、攫えるやつは攫おうと動いていると。


 一人、若い女性……シロウと同じ年頃のお嬢さんが拠点内で拘束から抜け出して暴れ散らかそうとしている現場に出くわした。


 疑似加速を発動しているのでほとんど止まって見えるのだが、若干動いているところを見るに相当素早く動こうとしているようだ。


 拉致被害者と判断。

 とりあえず【ワンスモア】の連中の顎と腕と脚を砕いて畳み、ダウンに跳ばす。


 拉致されるには若い気もするけど、まあギリギリ満二十歳を超えているのかな。

 とりあえずこのお嬢さんはこのまま近場の帝国軍のとこ跳ばし――――。


「――――――⁉」


 転移する為にお嬢さんの腕を掴んだ所で感電し、音が歪む加速した世界に僕の歪んだ叫びが響き渡る。


 や、べえ、モロ通った。

 な、魔、法拳……っか。

 ふざっ、なん、て渋い技、術を……っ。


 何とか空間魔法から射出した棒ヤスリを地面に突き刺し左手で握りしめ、電撃を地面に逃がして回復魔法をかけながら手を離す。


 あぶねえ……、意識が飛ぶところだった。


 接触式の魔法発動を拳で行う魔法拳を……しかも電撃魔法を宿してるって、疑似加速対策とするなら百点のやり口だぞ。

 電気が流れる速度はほぼ光と同速だ。加速した世界の中でも感電はする。

 メリッサが昔使った消滅魔法を纏うのと同じだ。まあ消滅魔法よりも殺意は高くないけど油断してた分かなり効いた。


 いつもなら接触時に魔法融解を使ったり接触を避けたり、色々と警戒するけど完全に油断していたし魔法拳なんてニッチな上に難しい技は知ってはいたけどすぐには開けない頭の中の引き出しに入った知識だ。これは無理、事故も事故だ。


 二十年……いや三十年でも効かないぞ、魔法の直撃なんてひっさしぶりだ。


 焦ったぁ……、次からは拉致被害者に触れる時も魔法融解とか『魔法抵抗材外装』を使ったグローブを――――。


「なっ……! なんですのあなたは‼ 突然現れて…………、あれ? 不届き者たちは……?」


 僕が心を落ち着かせていたところで、お嬢さんが驚きながら僕に問う。


 ああミスった。

 感電した焦りで疑似加速を解除してしまっていたのと感電の効果で光学迷彩が解けていたんだ。


 ……僕も焼きが回ったか。

 こんな立て続けにマヌケを晒すなんて。


 まあ仮面で顔は隠しているし、正体はバレないけど。


「落ち着いてくれ、僕は怪しい者ではあるが君に危害を加えるつもりはない。現に今君を助けたのは僕だ、近くの帝国軍拠点に転移するから安心してくれ」


 僕は慌てず穏やかに、お嬢さんへと返すが。


「……そんな真っ黒な格好の方を信用は出来ませんが、救われたのは事実なようですね。ありがとうございます。しかし、私はここに不法滞在する不届き者たちを撃退しなくてはならないのですわ――――」


 と、お嬢さんは語り出す。


 どうやらこのお嬢さん、リーシャ・ハッピーデイ女史はこの森林を管理するハッピーデイ家のご息女ということらしい。


 自分の家の土地である森の中で一人【総合戦闘競技】の特訓をしていたところ、不審な入口を発見して侵入したところで謎の不届き者たちに拘束された。


 拘束後に魔法拳を用いて暴れたら拘束が外れ、さらに暴れてやろうとしたところで僕が現れたと。


 勝手に自分の土地にアジトを造られた挙句に不法滞在され、さらには襲われたということで大変おかんむりらしい。


 というか【総合戦闘競技】か……そういやこの子見たことあるぞ。確か何回か全帝出てなかったっけ、シロウとは当たってないから詳しく覚えてなかったけど見覚えがある。今年は出てなかったかな。


 そしてハッピーデイ家にも聞き覚えがある。

 旧公国貴族、たしか爵位は伯爵家とかだったと思う。

 関わり自体は多分ないけど、僕も十二歳くらいまで公国貴族だったから聞いたことがあった。


 旧公国貴族は二十年前の段階で基本的に解体されたが、一部帝国統治に協力的だった家はセブン地域の統括や管理に携わることになった。多分ハッピーデイ家もその一つなんだろう。


 なるほど、事情はわかった。


 なら僕がかけるべき言葉は一つだ。


「うんダメだね。警察か軍に任せなさい、とりあえずここは僕が潰しておくから君は帰るといい」


 リーシャ嬢の話を聞き終えたところで、即座に帰宅を促す。


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