「や、や……っぱ! アカカゲだったんじゃねーか……! なんだ⁉ 無様にくたばったんじゃねーのか⁉」
一連の流れを見ていたブライ氏が、驚愕の声を上げる。
「いや気づきなさいよ。流石にアカカゲ過ぎたけど多分あんたがダルくて隠そうとしたのよ」
呆れながらセツナ氏はブライ氏に言う。
「ブライさん流石に今馬鹿を出すのは野暮だって……俺も死ぬほど驚いたけど空気読んで黙ってたんだから」
推定チャコール氏の父は若干引きながら、ブライ氏へと述べると。
「ほっとけブラキス、ブライの馬鹿は不治だ」
ライラさんのパパが手で溢れる涙を拭いながら、そう言って奥さんにハンカチを手渡し。
「ぐ……ぶふ……やっばい……、ちょっと戦えないくらい感動しちゃってるかも……」
ライラさんのママは手渡されたハンカチで顔を拭い、ぐずぐずになりながら漏らす。
お、温度差が……。
まあかつての仲間たちの反応としては、こんなものなんだろうけども……。
緊張感がなさすぎるでしょ。
アカカゲやあのメリッサさんの昔の仲間とはいえ、全員全盛期ではないはず。
セツナ氏もキャミィさんもライラさんの両親もチャコール氏の父も実戦からは離れて長いはずだ。
なるほど、だからメリッサさんに私たちはここへ跳ばされたんだ。
私とアカカゲで、みんなを守る。
なんてやってるところに。
三体の大型魔物が出現、私たちに襲いかかる。
「あぶっ――――」
私が反応した時にはもう、
アカカゲが土竜叩きを発動し、一体の魔物モドキをバグらせて釘付けにし。
リコーさんの大盾によるパリィで、一体の魔物モドキの攻撃を弾いて崩し。
ブライ氏の双剣による受け流しで、一体の魔物モドキを無力化。
さらに間発入れずキャミィさんの身体強化を用いた鋭い連打と、アカカゲの終端速度棒手裏剣で一匹目を討伐。
ほぼ同時にバリィさんのハンドシグナルでブラキスさんが大斧で一撃必殺、二匹目を討伐。
セツナ氏が呼び出した魔動兵器による光線照射で、三匹目を討伐。
全員、即切り替えて完全な連携で見事に魔物モドキを蹴散らした。
つ、強すぎ…………っ。
なにこの練度……連携の練度もそうだけど、個々の反応も判断も速すぎる。
【大変革】より前の人は、魔力との親和率の関係で魔法が得意じゃないはず。
スキルを失い戦う術がなくなっているはずなのに、特にスキル至上主義の旧公国民が【大変革】より後の世でこれほどまでに戦闘能力を維持しているなんて。
これは昔の人が意外と強かったとかじゃない。
トーンの町の冒険者が異常なんだ。
あの町ってなんなの? お米と川魚の燻製が美味しい水が綺麗なだけの田舎町じゃないの?
山脈には強力な魔物が出て、それと戦っていたから……いやそれだけな感じがしない。
なんか慢性的に判断や決断を急いでいたというか……なんかめちゃくちゃ速いものを想定して訓練を積んできた。なんか速いものに影響を受けてきたみたいな……。
「あー痛ってぇ、だから魔物相手は嫌いなんだよ! 人とやらせろ!」
呆気にとられる私をよそに、ブライ氏が腕を押さえて怒鳴り散らす。
「左腕の尺骨にヒビと炎症ね、治すから動くな馬鹿! ぶん殴るぞ!」
キャミィさんがブライ氏の腕を掴みながら、さらに怒鳴り返す。
「リコーの盾は……うん損傷なし。一応道具持ってきてるし簡単補修とかなら出来るから装備は私に回して」
セツナ氏がリコーさんの大盾を見てそう言うと。
「私の盾よりブラキスの斧を見てやって、昔のと違うから壊れやすくなってるかも」
リコーさんが肩を回して胸を揺らしながら、そう返す。
「あ、俺のも今んとこ大丈夫かな。ありがとう」
ブラキスさんは大斧を軽々振りながら言う。
「それポピー嬢が改造したんなら昔より強度上がってんじゃねえか?」
バリィさんは煙草に火をつけて悠々と述べる。
「おいおいマジで二十年経ってんのか? やっぱ変わんなすぎだぞおまえら」
アカカゲはバリィさんから煙草を一本貰いながら、呆れるようにそう言った。
ああそうか、緊張感なんかもつわけがない。
この人たちにとって今の状況は日常だったんだ。
生まれた時から二十代までっていう、人間として完成するまでの期間ずっとこうだったんだから当然だ。
メリッサさんの意図もわかった。
私はここに合流した方が安全だ。
もし【ワンスモア】が私を狙いに来ても、勇者パーティだと全員もれなく拉致対象だけど。
ここはスキルとか関係なしの、単なる怪物しかいない。
こんな調子で。
トーンの町の冒険者たちは当然のように、どんどん魔物モドキを蹴散らしていく。
特にバリィさんは一瞬で魔物モドキの特性を把握して、討伐しながらも攻略方法を組み立てて反映させていた。
やっぱりライラさんのパパだ……、この分析と攻略と容赦のなさはライラさんの思想にかなり近い。
ライラさんはママ似なのかと思っていたけどめちゃくちゃパパ似だったんだ……。
かなりの数の魔物モドキを蹂躙し、殲滅していき。
「なあ……もう帰っていいか?」
かなりの魔物モドキを討伐して、余裕が出てきたところでブライ氏がやる気なさそうに問いかける。
「帰ってもやることないでしょあんた。まだ油断しないの」
『融合装着型魔動兵装』から身を乗り出したセツナ氏が答える。
「でも結構減ったから、わりと終わりっぽいけどね」
それを聞いていたリコーさんが伸びをしながら言うと。
「うん、数は多かったけどそんなに強力な魔物はいなかったね」
ブラキスさんも大斧を肩に担いで辺りを見回しながらいう。
「確かに、これじゃあ俺は死ねねーな」
煙草をくゆらせながらアカカゲは冗談じゃないことを言うと。
「あんた……それホント二度と言わないで」
アカカゲから煙草を一本貰いながらキャミィさんがちょっと怒りながら反応する。
「…………確かに弱すぎる。クロウを本気で動かすほどに【ワンスモア】がやべえ集団なら、これで終わるわけがねえ」
眉をひそめ、バリィさんがそう漏らすと。
その場に、緊張感が伝わる。
え、なにどゆこと?
「クロウ……ってそういやあいつ何やってんだ? あいつ居たらもう終わってんだろこれ、どうせ今も怪物なんだろ?」
アカカゲは煙草をブーツのかかとで消しながら尋ねる。
「クロウ君は私と結婚して主夫してる。今は【ワンスモア】の本拠地に殴り込み中」
セツナ氏があっけらかんと答える。
セツナ氏のご主人……ってことはシロウ・クロスの父か。え? 本拠地に殴り込み……? 何者なの?
「ああ⁉ あいつ……自分だけっ、俺もスキル持ち畳みてえんだけど!」
話を聞いたブライ氏が大声で反応すると。
「私らが第三騎兵団本部襲撃してた時ブライどっか行ってたでしょ。その流れでクロウはチャコと宇宙に行ったから」
リコーさんはブライ氏にとんでもないことをあっけらかんと言う。
「ほ、本部襲撃……? 宇宙……?」
私はあまりに荒唐無稽な話に、マヌケな声を出してしまう。
軍施設の襲撃……え? なにやってんの? というか宇宙ってあの宇宙空間? 行けるの? 宇宙って。
私がトーンの町の冒険者の凶行に慄いていた、その時。
とんでもない量の凄まじい魔力反応。
直後、目視距離に確認。
地面が動いて見えるほど、大きな魔物モドキの大群が地平線いっぱいに進行。