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13そして無様に蘇る

「っ‼ 引けええぇぇ――――ぇえええ‼ 転移が使えるやつは跳べええッ‼」


 拡声魔法で、バリィさんが周囲の討伐参加者たちへと周知する。


「これ分断間に合うのか? 西と違って街が近えぞ……こりゃ流石に死ねるぞ」


 苦笑いを浮かべてアカカゲがそう漏らす。


「二度と死なせないわよ。でも流石に近すぎる……、戦略級の発動は?」


 キャミィさんが目に決意の炎を揺らして尋ねると。


「ダメね。これ西方も同じ状況で今勇者パーティが戦略級消滅魔法を使うために避難誘導中らしい。南方はグリオン君率いる魔族部隊で戦術級連打でなんとかするみたい、北方は帝国第一学園首席の子を呼んで戦略級を撃ってもらうみたい。ここに充てられる戦略級撃てる人員はいない」


 セツナ氏が『携帯通信結晶』得た情報を共有する。


「撤退だな……、避難が間に合うかはわからんが現状どうにも出来ない。今、帝国には個人で戦略級を撃てる人間はポピー嬢やスズランくらいだ。だがその二人も戦略級は撃てて一発だ、単純に枚数が足らない」


 冷静に、いや冷酷にバリィさんが現実を口にする。


 距離と進行速度を見るに、接敵まで約五分……。

 街に到達するまでは十分、避難は間に合わない。

 被害は想像するまでもなく、甚大。


 絶望的すぎる。

 国防とか、ただの研究員の私にそんな意識はない。

 でも……、アカカゲと繋がった私の心はこの状況に心が動かされる。


 ただただ燃え盛る、

 舐めんじゃねーぞ畜生共が、何度も殺されてたまるかよ。


「……っ、使ッ‼」


 私はそう叫んで『収納箱』を喚び出す。

 まあこの期に及んで『自動人形』一体増やすだけでは焼け石に水にもならない。


 でも、この『黒』は起動シーケンスに必要な魔力量が膨大過ぎるのだ。


 起動に必要な魔力量は残留思念が記憶した生前の魔力量に比例する。

 アカカゲの場合は、それほど魔力量があったわけじゃないから私の五十分の一程度の魔力を送り込むだけなので三十秒もあれば起動できる。


 でも『黒』は以前テスト起動しようとした際に、三分以上魔力を送り込んでも起動はしなかった。


 もしかすると、古の大魔法使いだったのかもしれない。


 何かしら強力なスキルを持ち、戦略級魔法も放てる可能性がある。

 流石に怖くなって起動は断念し、倫理的にも凍結することにしたけど。


 こうなったら話は別。

 ごめんなさい、蘇らせてごめんなさい。

 それでもどうか、私を、私たちを助けて。


 私はそんな思いと共に魔力を送り続けるが。


「嘘……全然魔力が足らない、どんだけ魔力量があったのよ……っ」


 あまりの魔力必要量に、心から声が漏れる。


「ソフィアちゃん、もうギリギリよ! 無理ならすぐに全員『転移結晶』で跳ばす!」


 セツナ氏が『小型範囲転移結晶』を取り出して私に言う。


 本当にギリギリ……、でもここで後悔したくない。

 こんなわけのわからないことで、人が死んでいいわけがない。


 魔力……誰かないの? セツナ氏は転移の為に魔力は無駄遣いできないし、バリィさんの魔力量はそんなに高くない。


 誰でもいい、魔力を……魔力を分けてくれれば……っ。


「……ぐぅぅぅ……やべえぇぇ……っ‼ あんの魔族のおっさん……っ! 上手く使ってくれるやつって誰だか教えとけよおぉぉぉ……もうマジで適当に光線魔法撃つしかねえぞ……っ!」


 大量の脂汗を滲ませて、具合悪そうに近くで一人の男性がのたうち回りながら声を上げる。


 あれ……え? この人ってファイブ・セブンティーン選手……? 全帝でライラさんと戦っていた特殊体質の…………特殊体質?


 私は手首の時計に目を向ける。


 時刻は……、


「ファイブさん‼ 魔力こっちにちょうだい‼ 早くっ‼」


 私はファイブさんに助力を要請する。


「うおぉ……吸われるうぅ……危ねぇ……宇宙居たから時間感覚狂って事前に魔力減らしたりの調整出来てなかったんよな。いやー久々に焦ったぁ」


 『収納箱』に手を当てて、過剰な魔力を送り込みながらファイブさんはしみじみと述べる。


 なんて魔力量……、こんなの常人だったら過剰過ぎて毒だ。これ特殊体質ってよりかなり病気寄りのものだったのね……。


「あーおまえライラに負けてた極太ビームマンか、いい試合だったぞ。おまえはライラより弱いから応援してやる」


 バリィさんがファイブさんを見てそんなことを言う。


「ああー! クリアちゃんが『強化予備魔力結晶』のテスターにした子ね。あなたのデータはデイドリームでかなり重宝されてるわよ」


 セツナ氏もファイブさんを見て思い出したかのように語りかける。


「あ〜なにあんたデイドリームの人? いやどーもどーも、こちらこそ本当に助かってます。あ、でもあれってもうちょい小型化って出来たりします?」


「いいから集中して‼」


 緊急事態なのに全く緊張感のない雑談を始めたファイブさんを私は一喝する。


 本当にギリギリ……というかそもそも『黒』が起動できたところで打破出来るとは限らない。

 でもアカカゲという実証実験を経たのものあるけど、私はトーンの町の冒険者たちの実力を目の当たりにしている。

 『黒』の残留思念はトーン滞在中に、ダイルさん同伴で山脈にハイキングをした際に発見した。

 すなわち、トーンの町の関係者である可能性がある。


 どこの誰かは知らない、でもこれだけの魔力量を有していた個人。


 期待……いや希望。

 単なる都合の良い幻想でしかない、でも縋るに足る可能性だ。


 私も微力ながらそんな思いと魔力を流し込み。


 十秒後、起動シーケンスが完了した。


 『収納箱』を開いて、ゆっくりと現れたのは。


 魔力で染まった真っ黒な髪。

 黒のコート。

 黒のスーツ。

 黒のネクタイ。

 白のシャツ。

 黒の革靴。

 残留思念から読み取った、動きやすい服を纏わせている。


 少しくたびれた表情の、男性。


 これが、奥の手。

 残留思念魔力変換機構搭載型半自立行動戦闘用『自動人形』の。


 『黒』


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