「…………ああ? なんだ、どこだここ……飲みすぎたか? 何で俺が討伐戦なんかに……」
起動した『黒』は、辺りを見渡して気だるそうに呟く。
いきなり完全な自立行動を……魔力量の影響?
正直、見た目は二日酔いの中年男性にしか見えない。
でも、今は。
「
私は咄嗟に『黒』へとそう言った。
それを聞いた『黒』は接近する大型魔物モドキの大群を見て、面倒くさそうな嫌な顔をしてから。
「…………はあ、まあ若い女の子から言われたらやるしかねえわな」
ため息をついて、やる気なさそうに『黒』は返した。
同時、『黒』は片手を魔物モドキの大群へ伸ばし。
上空を軽くかき混ぜるように手で空を撫でる。
すると、大群の上空に黒い玉が一つ出現。
遠いから分かりにくいけど目測、直径三メーターほどの球体。
その黒い球体に向けて、『黒』は握りつぶすように手を閉じた。
すると、黒い玉へと魔物モドキが引き寄せられて宙に浮かびどんどんと魔物モドキが張り付いていく。
視界に映る全てのとてつもない量の魔物モドキが宙に浮かび、黒い玉に円運動で引き寄せられて一ヶ所に集めていく。
まるで天変地異……、言葉が出ない。
なんだこれ……なにが起こって……。
重力魔法なの? でも私たちにはなんの影響がない。
まるで魔物だけが新たに追加された物理現象の影響を受けているというか、世界の理そのものが書き換わったような。
魔力を用いて何かの現象を再現しているんじゃない。
思念を伝達して、そのまま反映させたような不条理で理不尽で自由。
これが、本当の魔法。
私が思っている以上に、この魔法という現象は深いのかもしれない。
「ほら後はおまえらで畳め。俺はあんまり干渉する気ねーんだ、これは若い女の子にかっこつける為だけの手助けだからな。まだモテていたいんだ、俺は」
呆気にとられる私たちに向けて、気だるそうに『黒』がそう言って空間魔法で煙草を取り出す。
「……っ、総員‼ 最大火力でぶっぱなせええええぇぇぇえぇええええッ‼」
瞬間的に切り替えて、バリィさんが拡声魔法で周知を行なって風魔法で纏めた酸素を撃ち出して火を点けて爆発させる。
その爆発を皮切りに、一ヶ所に纏められた魔物モドキへ討伐参加者たちから凄まじい量の魔法が放たれる。
私もなけなしの魔力で三指光線を放ち。
ファイブさんも、両手で光線魔法を射出。
セツナ氏も『融合装着型魔動兵装』から凄まじい量の他属性光線魔法を連射。
ブラキスさんはその辺の岩を担いで、思いっきり投げつけて。
アカカゲも空間魔法を用いた無限回廊で終端速度まで落下加速させた岩や槍を飛ばす。
「おらもっとがんばれ魔法使い共、撃て撃て」
寝そべりながらダイル氏が適当な声援を贈ると。
「いや確かに暇だけど態度を考えなさいよ……」
ドン引きしながらキャミィさんが返して。
「バリィーっ! もっと気合い入れなさーい!」
リコーさんは旦那さんへと応援の言葉を向ける。
まあ確かに今は魔法使いの時間だ。
このまま、魔物モドキは殲滅する。
やがて、討伐参加者たちの一斉掃射により球体状に纏められた魔物モドキは真っ黒に焦げて崩れるように落ちる。
「……生命反応なし、討伐完了ね……」
セツナ氏が『魔力スコープ』で確認して、そう呟いたところで。
参加者たちが勝利の雄叫びを上げる。
まさかこんな……ここまでとは思わなかった。
何者なの? 『黒』はどう考えても現存する何者よりも魔法に対する理解が深い……。
そもそもこんな人物がいたのならもっと今の魔法理論は発展しているはず。
全く理解が出来ない、まるで世界の外から現れたみたいな。そんな理不尽な存在だ。
「おーおー、思ったより派手にやるな。……つーかどういう状況なんだ? なんか全員親和率たけーし無詠唱だし…………いや俺死んだはずだよな?」
討伐の様子を眺めていた『黒』が、そんな感想を述べて改めて状況に混乱し始める。
混乱したいのはこっちだけど……どうしよう。これからこの人をどう扱えばいいんだろう。
「あの、もしかして……あんたは……」
と、心当たりがありそうなバリィさんが『黒』へと聞こうとするが。
「あ? 野郎に名乗る名前なんかねーよ馬鹿、まずてめーが名乗れタコ。畳むぞ」
かなり辛辣に『黒』から一蹴される。
き、気難しい……ええ? 怖い人なの?
「……何者なの?」
威圧する『黒』に気圧されずキャミィさんが問いかける。
「うおお、おねえちゃん美女が過ぎるな……ビックリした。後で飯でも行こう、もちろん奢るぜ。俺はしがない家庭教師をやっているジョージ・ク――――…………」
あからさまに嬉々として『黒』が饒舌に語り出しそうなところで。
機能停止。
ええ……、あの魔力量でこれだけしか動けないの……? いや確かに私も魔力操糸でアカカゲにしか魔力を送れてなかったけど……燃費悪すぎるでしょ。
まあ、とにかく『黒』については一旦考えるのはよそう。
とりあえず【ワンスモア】による魔物モドキの氾濫テロは終息したようだけど。
一方その頃。
ライト帝国から上空四十万メートルでは。
奇しくも、これまた黒い二人が瞬きにも満たない加速した時の中で。
この世界の外からやってきた歪みと激戦を繰り広げていたらしいけど。
それは私の知らないことです。
というか知ったこっちゃない。
いやー……マジにどうしよ。
やっぱりもう一回起動して、ちゃんと事情を説明しなくちゃダメだよね。
私はそんな知らない物語の決着より、私が始めてしまった物語の続きに頭がいっぱいなのでした。