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02顧みないことは力ではない

 ライラ奪還の為に僕は、ブラキスの子チャコールと特殊任務攻略隊の精鋭たちと共に【ワンスモア】の宇宙拠点へとセツナというかデイドリームで造った『魔動ロケット』に乗って上空四十万メートルの衛生軌道まで飛んできた。


 いやー流石に絶景だな。


 青い、とてつもなく巨大な球体。

 美しいだけでなく、質量というか存在感がある。


 音のない真っ黒な世界で、ただそこに存在している。


 凄まじいな……『0G対応型強化纏着結界装置』がなければものの数秒で死んでしまうほぼ真空の中で様々な生命を載せた巨大な球体が浮かんでるのは感慨深いが今はそれどころじゃあない。


 さあ見えてきた。


 視界に映るのは、巨大な円盤。

 疑似加速発動中でもしっかり動いて見える。

 そりゃあ秒速七キロメートルの速さで星の周りを周回しているのだから、超高速だ。


 僕は同じく宇宙空間で疑似加速を使ったチャコールや特殊任務攻略隊の面々に光魔法で合図を送る。


 このまま重力魔法と吸着魔法で取り付いて、侵入する。


 非常にシンプル。

 ただ何よりも速く、正確に、完遂する。

 ずっと僕がやってきたことだ。


 疑似加速出相対速度を揃える。

 間違えたら秒速七キロメートルで動く巨大建造物に轢かれるようなものだ。まず死ぬ。


 相対速度を合わし疑似魔法発動加速を用いて、範囲重力魔法を発動。

 全員で巨大円盤に取り付いて、吸着魔法で安定させて疑似加速を解除。


 ……よし、全員問題ない。流石の技量だね、今の若い人は優秀だ。


 さて、目を凝らして外壁に扉がないかを確認する。


 タヌーの推測では船外活動用ハッチなどが存在しているはずということだった。ハッチをこじ開けて侵入する。


 外壁はかなりツルっとしていて凹凸は見られない……まさか転移想定でハッチは作ってないのか? それならそれで消滅魔法を使うが……与圧室を使えないのは面倒…………いや見つけた。


 光魔法で合図を送り、身体強化を用いてハッチをひっぺがす。


 ほぼ同時にチャコールが飛び込み、順次特殊任務攻略隊の面々が飛び込む。


 おーおー迅速、まあ魔力感知はしてるだろうし別に大丈夫か。

 僕も飛び込んで、ハッチを電熱魔法で溶着して固定する。


 飛び込んだ先を光魔法で照らして確認すると、三メートル四方の部屋。

 扉が一枚、壁の上部と下部に空気を送るダクトのある目論見通り与圧室だった。


 操作は外から行うように出来ている。

 なので、ダクトに手を伸ばして『0G対応型強化纏着結界装置』内の空気を風魔法で細い糸のように送り込む。


 ほぼ真空の中で無参させないように、魔力操作を行なってダクトの向こうから微かに漏れ出る空気と繋げる。


 そこからさらに魔力を通して与圧室に、ゆっくりと空気を引き込む。

 一気に空気で満たすと気圧の変化で大変なことになるので、ゆっくりと与圧室内の気圧と扉の向こうの気圧を合わせていく。


 十分程度かけて、与圧室を空気で満たすことに成功。

 試しに魔法で火花を散らしてみると燃焼したので、問題はなさそうだ。


 外装解除で『0G対応型強化纏着結界装置』をパージすると、続けて他の面々も外装解除を行う。


「ふ――――――……っ」


 やや緊張がほぐれたようで、全員一息つく。


 よし、休んだね。


 僕はそのまま、船内に続く扉を開いて船内に侵入する。


「っ!」


 扉を潜ったところで、僕は思わず声を上げそうになる。


 船内には重力があったので、落下して驚いてしまった。

 重力魔法か……、魔力回路で仕込んでいたのか。


 1G環境下か、じゃあなんか特に変わったことする必要もないな。


「よし、隠密行動はしないでいくよ。こそこそすると時間かかるし、出会った奴は即畳もう。まあ別に殺してしまっても構わないが、とりあえず最優先はライラだ」


 僕はチャコールたちに伝える。


 光学迷彩やら気配隠匿やらを使ってもいいし、多分彼らなら使えるんだろうけど……。


 これは個人的な思想だし、多分作戦行動的には間違っているけど。

 今まで色々なことをしてきた中で、真正面からの殴り込みが一番手っ取り早かった。


 結局追われたのを返り討ちにしたり探して後から殺したりとかするんなら、初手から数を減らしてったほうが早く帰れる。


「だからあんまこの拠点を壊すような魔法や攻撃はなしだ。特にチャコール、おまえは何してもぶっ壊しそうだから気をつけろ。怒りを燃やしたまま行動は冷静を保て」


 僕は怒りで爆発寸前のチャコールに注意する。


 こいつずっと目が真っ黒に燃えてんだよな。

 殺意と怒りが目から魔力を燃やして噴き出している。


「はい。わかってますよ」


 チャコールは落ち着いた声色とは対照的に目と口から真っ黒な炎を漏らしながら返す。


 危なかっかし過ぎるだろ……、僕も昔はこんな風に見られてたのか? よくセツナとか着いてきてくれたな……。


 まあバリィやブラキスやメリッサがぬるい鍛え方するわけないから大丈夫だとは思うけど……この歳になると、こういう若者の不安定さは心配になってしまう。


「よし、行こうか」


 僕は笑顔でそういって、歩みを進めた。


「こんにちはー! 馬鹿共はいますかー!」


「こんにちはー! 殴り込みに来ましたー!」


「こんにちはー! 僕がスキルを消した張本人だよー! ついでにステータスウインドウも消したよー! しかも大した思想もないけど消したよー!」


 なんて、適当に大声で挑発しながら扉を開いて行くと。


 少し開けた場所に出たところで、けたたましく警報が鳴り響いて目の前にぞろぞろと【ワンスモア】の連中が出てきて僕たちを取り囲む。


 さらっと見る感じ二十……いや、見えてないのもいるからもうちょいいるかな。


「おー結構いるね……二、三人残してくれりゃあ記憶を読み取って情報抜けるから。それ以外は皆殺しでもいいかな」


 僕は囲まれながら共有する。


「とりあえずざっと見た感じで左から『重戦士』『剣豪』『奇術師』『拳闘士』『魔力操作』『身体向上』『変化』『反応強化』『怪力』『対話者』『使役者』『簿記二級』『税理士』、気配消してるところに『狩人』『盗賊』『暗殺者』あたりがいるっぽいね。大体スキル効果は名前の通りだ」


 そのまま鑑定結果も伝える。


 うーん、この数と同じだけ攫って脳みそ引っこ抜いてんのかこいつら……。救えないほどの馬鹿だな。


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