ほぼ全部自分の努力次第で同じ効果を得られるスキルだ。身体を鍛えれば『重戦士』のように重武器を操ることも出来るし、行動補正も結局訓練量でどうにでもなるし、ステータス補正も強化魔法で何とでもなる。
魔力量回復速度補正くらいかな、自力で再現が難しいのは。親和率上げても限界はある、乾いたものより濡れたスポンジの方が水を馴染ませやすいみたいな話程度だ。満たされていたら星から魔力は吸えないからね。
正直『勇者』や『大魔道士』やら『完全復元』やら『第〇種管理者権限』とか『無効化』みたいな、サポートシステムそのものが設定した特殊な役割やら効果を持つスキル以外はどうにでもなる。
わざわざ他人の脳みそ使ってなんとかするようなものじゃあない。
サポートシステムやエネミーシステムが凄かったのは千年単位で全人類に新生児から天寿をまっとうするまで例外なくスキル付与してとステータス値を見れるように管理し続けていたことだ。
世界そのものに万有引力や光速度不変の原理みたいな絶対的な物理現象のように新たな理を追加したことが凄まじいのであって、スキル自体の効果は大したことじゃあないのさ。
こんなものはそのうち、魔法技術の中で辿り着く。
こいつらはそんなしょうもないことで、ライラを攫いバリィがぶちギレさせた。
はしゃぎすぎた馬鹿は危険だ。
影響の連鎖は思いもよらない結果を生み出すことがある。
かつて超ブラックギルドのワンオペ職員が、辞めただけの話の結果……世界からスキルや魔物が消え去ったように。
影響の連鎖と伝播というのは、馬鹿にできない。
なんて物思いにふけっていたところで、戦闘が始まる。
チャコールが光の玉を八つ展開し、操作して螺旋光線魔法を掃射。
同時に、ステリアが高速で接近して格闘戦を仕掛け。
ゾーラが剣を抜き、光の屈折や水蒸気への投影を利用して分身……おお丁寧に魔力分身を重ねている。
さらにいつの間にかテナーが消えていた、気配隠匿と光学迷彩……認識阻害も使ってるかな。
うーん、やることないな。見てよ。
ステリアは義手の出力を直感的に調整しながら、卓越した身体操作で格闘を行っている。
おお……なんて練度だ。身近なところでいうとブライ……ではないな。キャミィを彷彿とさせる才能だ。やや殺意が滲みすぎているけれど、悪くない。独身だったら口説いていた。
ゾーラは……単純にこりゃあ天才だな。
ジャンポールを彷彿とさせる、二十年に一人の逸材だ。魔力操作も身体操作も思った通りに出来るからやってる感じがする、分身体で撹乱しながら的確に剣と魔法で落としていく……器用貧乏や中途半端になりがちになりそうなところをしっかりと万能へと押し上げている。僕とは違って才能があって羨ましい限りだ。
テナーは面白い。
気配を消して浮遊魔法を使い、魔力感知に反応させない質量弾を放つスナイパーライフルを使って狙撃をして目視転移で移動してまた狙撃。発砲音は消音魔法で消している。この徹底したやり口は好感が持てる。
たしか特殊任務攻略隊はディアールが仕切ってんだよな……、あいつ部下に恵まれすぎだろ。帝国軍は安泰だな。
そして、チャコール。
こいつは特別だな……天才とかの括りでもなく、特別だ。
人類最高水準であるブラキスの身体に賢者由来の魔力量と親和率ってだけでカタログスペックは人類最強だ。
さらに賢者から魔法技術を詰め込まれて、さらにバリィやリコーやメリッサからも鍛えられている。しかもクリアの夫から医学や回復魔法まで仕込まれてるんだよな……。
前衛火力、前衛盾役、後衛火力、後衛サポート、回復役……全部一人でこなせる。
実質、勇者……
異世界転生者ジョージ・クロス先生の影響を受けた僕の影響を受けた冒険者たちの影響を受けて。
チャコール・ポートマンは造られた。
光線魔法を駆使しつつ、接近してきた奴には徒手格闘で迎え撃つ。大斧だとこの拠点を壊す確率が高い、冷静だ。
おいおい格闘で使ってる部分硬化ってジスタが使ってた……、しかも動きに躰道の運足やアカカゲの匂いもある。くっそ……おじさん泣かしにくるんじゃねえよ。
なんて感動してる間に【ワンスモア】は蹴散らされ……いや待て皆殺しにしてないか? 記憶読取用に何人か――――……。
なんて思ったところで、さらに『魔神』『剣聖』『拳帝』持ちが現れて背後から僕に襲いかかる。
ほぼ同時に、空間魔法から疑似加速付与で速度を与えた棒ヤスリを射出。
『剣聖』の大腿部と『拳帝』の腹部に突き刺さって、動きを止めたのでそのまま手足に棒ヤスリを突き刺して壁に磔にするのと同時に回復魔法で最低限の止血を行う。
『魔神』持ちは完全硬化で耐えたので、そのまま頭を鷲掴みにして疑似消費加速で魔力消費を加速。
強制的に魔力を枯渇させて完全硬化を解除させて、膝蹴り入れてそのまま疑似加速を用いて記憶読取を行う。
丁度良かった。
これでこの拠点の全容とか、どのくらいの戦力がいるかわかる。
何よりこれで拉致被害者の場所もわかる……ふーん、なるほどね。こいつの人生まあまあしんどいな。
まあ同情はしないし、共感もしないけど。
僕にはクロス先生が現れた。
おまえらにはナナシ・ムキメイとやらが現れた。
それだけの差でしかない、結局救われた後の方が人生は長くて重いって話だ。
スキルや魔物やステータスウインドウの有無は、多分おまえらの幸せにはあまり関係がないだろう。
壁に磔にした二人の記憶も読み取っておく。
「よし、場所がわかったよ。いやはやみんな頼りになるね、僕抜きでも全然問題なさそうだ」
拠点の全容を把握して、殲滅を終えたみんなに伝える。
「いや……謙遜なのか? ほぼ嫌味だろそれ」
磔になった『拳帝』の隣から気配を現してテナーが眉をひそめて返す。
そんなとこにいたのか……凄い隠密性能だな。
「事実だよ。まあ僕も老いたからね、頼りにしているよ」
僕はテナーに笑顔でちゃんと訂正する。
実際老いた。
昔なら一人でもう、終わっていた。
それでも僕はまだ一応世界最強ではあるからね、さっさと畳んでバリィを止める。
そのまま何回か戦ったりしつつ足を進めた。