私、ライラ・バルーンは普段はサウシス魔法図書館の司書をしながら魔法学校戦闘部の外部コーチをしつつ現役で【総合戦闘競技】の選手でもある。
色々やってる。
ママ譲りの体力があるから、いっぱい動けるし色々やらなきゃ勿体ない。
司書の仕事はとても向いている。
分類や目録作成だったり、本棚の場所や本の場所を覚えたり内容に関しても記憶しておくことは得意だ。
選手として有名になっても仕事中に騒がれたりもしないし。図書館内はお静かに、だからね。
閉館時間がきっちりとしているし勤務時間や休みに関してもかなり融通が効く。
魔法図書館管理は魔法学校の卒業生が多い、だから魔法学校戦闘部の外部コーチが名目だとかなり融通を効かせてくれる。サウシス魔法学校のOBやOGは、母校愛がなかなかに強い。
戦闘部のコーチは二束三文、ほとんどボランティアだけど私は選手としてどこにも所属してないフリーというか個人事業主だから決まった練習施設がない。
だから戦闘部の部室や魔法学校の訓練場を使っている。
パパが教員だし私もOGだしほぼ無償のコーチングで練習場を確保出来ている。
装備に関しても魔法学校の研究室には私の同級生や後輩がいたりするので、しれっと相談して直してもらったり面白そうなものは実験がてら使わせてもらったりしてる。こないだのシロウとの試合で使った『追加魔動義手』とかも魔法学校の研究室から提供されたものだったりする。
色々やってるわりには、全てがちゃんと噛み合うようにしてある。
パパ譲りの打算、色々やるんなら全部使わなきゃ勿体ない。
とりあえず仕事面では順風満帆。
強いていうんなら全帝優勝したいところではあるけど、まあ出来る気しかしてないしそれはそのうちするから良いとして。
プライベートに関しては……、やや停滞気味ではある。
幼馴染のチャコと再開して、再燃。
ちょいちょいデートしたり、マジに人様には言えないくらい丸一日爛れっぱなしとかも珍しくはないくらいにはアツアツ。
でも、障害というか……面倒なのが
パパは超親バカ……というか超家族を愛してる。
まあよそで女作って遊び呆けたり暴力をふるったりとかそんなのよりはかなり良いとは思うけど、いやそんなことしたら私とママで畳むけど。パパ弱いし。
そんなパパは、私とチャコの交際に難色を示している。
いや冷静に考えてチャコ以上の婿はこの世界に居ないことくらいパパだってわかってるはずなのに……、両親共に旧友でチャコも生まれた時から知ってて変なやつじゃないことは十二分に理解している。
まあ……チャコは私より三つ年下で、冒険者目指してなんかギルド職員になって辞めて今は一応学生って身分だから社会的地位がないのは確か。
でもチャコは何でも出来るんだから何でもお金稼げるし、そもそも私が公務員でトッププロ選手なんだから収入に関しちゃ心配なんてないでしょ。
まあその程度だった。
私の中のトラブルといえばそのくらいだった。
私の街に魔物モドキが押し寄せて、さらに私が【ワンスモア】に攫われるまでは。
魔物モドキからのサウシス防衛のどさくさに紛れて、【ワンスモア】のリーダーを自称するナナシ・ムキメイに跳ばされた。
最悪……、心当たりとしては私が可愛いとかおっぱいが大きいとか色々あるけど。
どうにも私が『無効化』ってスキルを持っていたことが理由みたいだ。
全帝のインタビューやナナシの話やらから推測するに、やつらはスキルを持っていた人間からスキルを再現させる方法を有している。
つまりナナシは私を使って『無効化』を再現しようとしている……んだろうけど『無効化』って対スキル用のスキルでしょ? 【ワンスモア】は帝国側がスキル再現を行ってくる可能性に備えているのか、念の為に『無効化』持ちを消しておく意味もあるのか……?
まあまだ私が可愛くておっぱいが大きいので攫われたって可能性も捨てきれないけど。
これ……微妙だな。
もし【ワンスモア】が『無効化』を再現をするつもりなんだったら具体的にどんな方法かわからないけど、それまで私は生かされるはず。
私の死体からスキルを再現できるなら、もう私は死んでいる。殺されてないということは、最低限スキル再現には私の生存が条件ということだろう。
しかし『無効化』を消すことが視野に入っているなら、私の命は軽い。
ついでに再現……まああわよくば再現くらいで私が生かされていた場合はここから私が暴れたり適当に何人か畳んだりしたら拘束や制圧ではなく、さっさと殺しにかかるだろう。
うーん……、殺人か……。
まあ私はバリィ・バルーンの娘だから、その辺の倫理観や道徳を消し去ることが出来ないわけじゃあない。
昔、子供の頃にパパが私とチャコを虐めてきた子供たちとその親たちを容赦なく過剰なほどに畳んだのを見て「あ、こういうのアリなんだ」ってなった。
つまり私は殺人行為を、バレた時の社会的なデメリットが大きいからやりたくないものだと心の根っこでそう捉えてしまっている。
社会的なデメリットを負わず、緊急性が高い状況下であれば私はそれを厭わないように出来ていると思う。
問題は『四枚羽根』はまだ修理中、あるのはママのお下がりである三枚目の大盾と短剣。魔力は余裕がある、でも温存はしておかないと。
私はナナシに跳ばされた先の牢の中で、格子を見つめながら冷静に考える。
いや、考えることで冷静さを保つ。
正直怖いしめちゃくちゃ泣き出したいけど、理屈で押し込める。
考え続けろ、私は必ず生きて帰る。
「お――――い! 誰か来たのかあ⁉ 返事しろ‼」
思考中に、聞き覚えのある男性の声が聞こえる。
「え…………、だ、ダイルさん……⁉」
私は声の主に返す。