「な…………っ、ライラかあ⁉」
壁を斬り崩して驚愕しながら現れたのは旧公国最強の勇者パーティの戦士、ダイル・アルターさんだ。
現在は旧公都で警察官をしている。チャコをスカウトする前に一回お世話になったことがある。
なぜ……いや珍しくて強力なスキルを持つ勇者パーティの戦士なら狙われるのは当然なんだけど。
ダイルさんの技量で攫われるなんて、いやまあ私もまんまと攫われているから人のこと言えないけど。
どんだけマヌケ晒してんのよ……。
「ら、ライラ・バルーン……? え‼ 鉄壁天使のライラ・バルーンかあっ⁉」
ダイルさんの後ろからこれまた見覚えのある男が私の名前やわ呼ぶ。
「ええ……? 光線魔法のファイブ? なんの組み合わせ……?」
私は男の姿に動揺してマヌケな声を漏らす。
ファイブ・セブンティーン。
全帝一回戦で試合をした選手。
なんか午後五時十七分に近づけば近づくほど魔力量や親和率が上がって、遠ければ遠いほど枯渇するみたいな体質。
試合の時は、ちょうど一番強い時だったからとんでもない出力の光線魔法をぶっぱなしてきた。
余裕綽々で防いだ風で勝ったけど、実際は超ギリギリだった。
チャコのママとかスズちゃんっていう超弩級魔法使いの存在を知らなかったら対応出来なかった。
螺旋光線とは言わないけど、もしうちのパパくらいに魔力操作が出来ていたら盾を貫かれていた。
あの膨大な魔力を光線魔法として照射するのに必死って感じだったから何とかなったっけど、もう少し技量があったら普通に消し飛ばされていた。
ファイブは若いしスキル持ちではない、じゃあ体質に目をつけられたのか?
まあ一旦話を聞こう。
情報は多いに越したことはない。
「――――なるほどね……ソフィアや勇者パーティも狙われてる……こうなるとパンドラちゃんとかクライスさんの奥さんとかも狙われてるね」
私はダイルさんの話を咀嚼して、推測を述べる。
私の知る『無効化』はパンドラちゃんとパンドラちゃんのママであるクリアさんの二人。
他にもいるっぽいけど、他の『無効化』の人は帝国軍に属しているだろうから非戦闘員の『無効化』を狙うなら医者二人はかなり美味しく見えるだろう。
まあでもクライスさんもいるし、パンドラちゃんの祖父は帝国軍の超お偉方だ。後から気づいたけどこないだ全帝の控え室で会ったガクラ氏がそうだ。
だからまあ大丈夫か……これ知ってたら私も帝国軍に保護されてたんだけど。
「ただ【ワンスモア】の狙いがレアなスキルを持ってた人なんだったら、一旦トーンの町の冒険者たちとチャコはノーマークのはず」
私は思考を伸ばして推測を続ける。
「私が攫われてパパが動かないはずがない。恐らく最低でもチャコを私の救出に動かすはずよ」
私の中の確信を述べる。
「チャコールか……確かにあいつは実質勇者と同等だし遂行能力は折り紙付きだが、動けんのか? あいつ別にただの学生だろ」
ダイルさんは私の言葉に不安そうに漏らすが。
「パパとチャコを舐めてるの? 絶対に助けに来る、むしろ来れない方が何をするかわからない。パパもチャコも、無茶を通す力で世界を動かせるからね」
私はダイルさんの不安に対して返す。
「確かに……ライラに手え出すって……バリィさんが世界を滅ぼすんじゃねえか……?」
想像を巡らしたダイルさんは慄きながらそう言った。
「まあよくわかんねーけど助けが来るなら助かるな。このおっさん格子壊せねーんだよ」
緊張感なくファイブがそう述べる。
「いやあんた試合でやってた出力を収束させた光線魔法とか消滅魔法とか使えば脱出できるでしょ? なんだかんだ夕方五時近いわよ」
私はファイブの特殊な体質を理解した上で問いかける。
「それが……なんかあんま魔力吸わねえんだよな。いやめちゃくちゃ吸ってはいるけどこの時間の魔力量じゃねえ、昼過ぎくらいの魔力量からあんまり増えてない。なんなら人生の中で一番魔力が安定してる日だ」
軽々肩を回しながらファイブが述べて。
「体調はいいんだが試合で使った極大光線はまだ撃てないし、そもそも五時十七分の魔力は俺じゃ扱いきれないからぶっぱなす以外の魔力操作は出来ないし、そもそも消滅魔法なんて競技で使えねえもんも使えねえ」
つらつらと続けてファイブは答える。
へえ……、まあファイブの体質に対してはファイブが一番わかってることだからその辺は私にはわからないけど。
かなり珍しいことが起こっているようだ。
既にテロ組織に拉致されているというかなり珍しいことが起こっているから、見逃しそうになるけどそれとこれは切り離し……いや関連しているのか?
星からの魔力を吸えていないということは……ここはかなり地上から離れた場所に位置している……?
地上から……というか星から離れた場所にある可能性が出てきた。
山の上……だったら別に星との距離自体は変わらない、飛行船か何かに載せられている……? その割には揺れとかを感じないけど。
まあ色々と考えを巡らせつつも。
他の拉致被害者の牢の壁を斬り崩して、二名と合流したり。
色々と脱出のために試してみたけど、一番端の壁も格子と同じくかなり堅牢な造りで脱出は困難だった。
それでも私は焦らない。
絶対にチャコが助けに来る。
私は知ってる。
チャコがどれだけ鍛えてきたのかを。
そしてその鍛えてきた理由の中に、私が好きってことが含まれていることも知っている。
チャコは昔から冒険者に憧れていた。
パパやママ、チャコのパパが楽しそうに昔話を語った。
そこからまんまとチャコは冒険者に憧れた。
私も興味はあったけど何となく冒険者ってものがなんか良くない職業ってのは子供ながらにわかってたし。
私は賢しい子供だったから公務員しながら趣味とか出来たらいいし盾術や魔法や戦闘理論は競技に活かすのが現実的だと思ってた。
だから私は冒険者には憧れず、公務員で戦闘競技選手になった。
でもチャコは冒険者にこだわった。
より強く、より実戦向けに、より過剰に、チャコは鍛え抜いた。
チャコの冒険者像はトーンの町の冒険者たちと勇者パーティをベースにしている。
つまり。
近接火力は一撃必殺のチャコのパパを。
後衛火力は賢者であるチャコのママを。
前衛盾術は大盾使いであるうちのママを。
戦略思考は魔法学校教師であるうちのパパを。
回復治療は世界最高峰の医師であるクライスさんを。
さらには勇者のメリッサさんやダイルさんから対人戦闘を学び。
パパが想定する
これはパパがチャコを私のお婿さん候補として、何があっても私を幸せにできるように鍛えたというのもある。
本当に親馬鹿、私がチャコのこと好きにならなかったらどうする気だったんだろ。
まあ全然余裕でチャコのこと好きになったし、幸いなことにチャコも私のことが好きになってくれたけど。
ちょっと好きになるのが早すぎた感はある。
思春期の私たちはこそこそと結構がっつりエッチなことをしていて、それがバレた。
まあそれがパパブチ切れからのチャコがパパを殺しかけることに繋がるんだけど……うーん、これに関しては私たちが悪いからね。
まだ私も学生で社会的地位もない子供が妊娠を伴うような行為をしていたら、その無責任さを親は糾弾して然りだ。
だからチャコは、誰にも文句言わせない為に事実として何が起きても私を幸せにするための力を手に入れる必要があった。
昔いた元ギルド職員の影響を受けた親馬鹿教師が設定した目標値を目指した、結果。
チャコは