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05人生の半分は打算だけどもう半分は結局は愛

 一応これでも魔法学校の卒業生、ある程度は魔動機械についての知識はある。

 多分『置型長距離転移結晶』の発展型だと思うけど……そうかなるほど、転移先の座標設定の自由度や転移距離が段違いだ。

 個人の魔力を記憶させて、個人の場所にまで跳べるように出来るんだ……。へー便利、魔力感知いらずじゃん。


 そもそもこれ転移魔法がベースじゃないっぽい……? 多分なんか別の理論で組まれてる。


 なんかとんでもないものっぽい。

 チャコのママとかスズちゃんとかソフィアが見たらこの装置の凄さとかヤバさとかがわかるんだろうけど……、正直私にはこの凄さはわからない。


 ただ【ワンスモア】がマヌケ揃いってことだけはわかる。


 ユーザーインターフェースが使いやす過ぎるでしょ……、モニターに説明付きのボタン……、敵勢力に鹵獲された時のことを考えたらもっと癖のあるように作らなきゃダメでしょうに。

 私の『四枚羽根』も、かなり独特な操作感でわざと訓練なしでは操作できないように作った。試合中に魔力で干渉されて奪われないようにしている。


 まあおかげで転送先の設定は出来た。

 これでこのまま転送開始すれば、帝国軍の第三騎兵団本部に跳べるはずだけど……。


 転送カウントダウンタイマーって……これ使っても即時反映されないっぽい。最低でも一分か……。


 流石にこのサイズの機械を動かしたら、確実にバレる。


 優先順位は非戦闘員の拉致被害者二人の脱出……一旦この二人を転送させるまでの時間を三人で稼ぐ。


 まあ警察官のダイルさんはともかく、ただの司書の私とただの競技選手のファイブも全然脱出するべきなんだけど成功率や生存率を上げる為には戦闘要員は多い方がいい。


 私はまあ自分のことだからあれだけど、全然勝手にファイブも頭数に入れる。使えるもんは何でも使う、これは戦略の基本だ。


 ただ、今は隠密行動中なので共有が行えない。


 …………いや、行ける。

 ダイルさんは当然として、ファイブもかなり臨機応変に動けるはず。つーか動け。


 一気に、善は急げ。


 私は風魔法の空気操作で私たちとは反対側の位置に、酸素を圧縮して雷魔法で着火し起爆。


 同時に転送開始ボタンを押して。


「二人を中に一分稼ぐ私が盾役ダイルさんが火力ファイブは後衛一旦畳む‼」


 一息で一気に共有を行いながら、大盾を武具召喚して構える。


 その共有でファイブが逃がす二人以外の光学迷彩を解除して、姿を見せることでヘイトを戦闘要員に集中させ。


 ほぼ同時にダイルさんが私の隣で剣を構える。


 流石、いやファイブに関しては出来すぎてる。こいつやっぱ才能がある。


「なあ……っ⁉ 転送は止めるな! おまえらは人造魔物を送り続けろ‼ 侵入者は俺が対処する……っ!」


 四人のうちの一人が、驚愕しながら指示を出したのと同時に。


 とんでもない数に、


 目測三十……三十二。

 ほとんど同時に一気に動いて本体を見失った。


 幻影魔法? ここまで解像度が高く……しかもこの船内でデカい魔法は打てないから殲滅が出来ない。効果的……面倒だ。


「見ての通り! 俺は『分身』のスキルを持つ……! ここは邪魔させん‼ さっさと捕らえて貴様らもスキル再現に回してやる‼」


 三十二人の同じ顔がそう言って一斉に襲いかかってくる。


 私は風槍を撃って三人を止めながら、盾で捌いて蹴り飛ばしたところをダイルさんが斬る。


 すると斬られた奴は霧散するように消える。


「よし……大体わかった! 増えたのは実体も質量もある! でも一定以上のダメージで霧散する! 恐らく分身体の数だけ魔力量を等分してる、だから魔力感知では本体が判断出来ない!」


 私は分析結果を共有しながら、盾で捌いていく。


「分析が早いのなんの……バリィさんの娘すぎんだろ」


 ダイルさんが分身体を斬り崩しながら漏らす。


 まあこのくらいは流石にね。

 でも基礎知識が足らない。パパなら『分身』だとわかった段階で勝利まで組めている。


「じゃあどうすりゃいいんだ!」


 壁や『転送装置』に影響がでない威力の光線魔法を撃ちながらファイブが尋ねる。


「魔力を等分にしている以上、大きい魔法は使えない! 基本的に接近戦しか出来ないはず、つまり本体は接近してこない! 公国最強勇者パーティの戦士ダイル・アルターに近接挑める技量があったらスキルなんてもん欲しがらない!」


 私は分析結果から導き出した攻略を伝えていく。


 当然これは敵にも聞こえている、もちろんこれも使う。


「でも今こうやって指摘したから、マヌケは前に出ようとするのよね」


 そう言って不敵に笑ってみせたところで。


「しゃあっ! 見つけたァ‼」


 ファイブが光線魔法に当たっても霧散しないやつを発見して声を上げる。


「――ッ⁉ 舐めんなガキ共があぁぁあああああ‼」


 『分身』の男は『予備魔力結晶』を使いながら叫び。


 先程とは比べものにならない数の分身体を生み出す。


 目測……百二十八。

 分身体の数は魔力量依存か『予備魔力結晶』で等分する魔力量を増やしたんだ。


 でも通さない、もう少しで転送も終わる。


 それに……どうにも敵さんは侵入者迎撃用の人員じゃあない。

 話から察するに、どうにもこいつらは魔物モドキを生み出して帝国へと転送しているようだ。

 あの各地で起きた魔物モドキの氾濫や、恐らく現在進行形で帝国を襲っている魔物モドキはここが発生源だ。


 多分、こいつらの優先度は私たちより魔物モドキの発生作業。

 つまりお互いに時間稼ぎをしたいということだ。


 非戦闘員二名の脱出自体は行える……が、私たちが脱出するにはこいつら畳まないと邪魔される。


 しかし、こいつらは魔物モドキ発生を止めたくないから私たちに全力で抵抗してくる。


 あー、面倒臭い。

 段々と私の中で、脅威の排除に対する倫理観や道徳という不純物が濾過されていくのがわかる。

 どんどん具体的になっていく。


 こいつら殺すのが一番簡単で確実だ。


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