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06人生の半分は打算だけどもう半分は結局は愛

「……舐めてんのはてめーらだ、俺は勇者パーティの戦士だぞ」


 百二十八人に増えた相手に対して、静かに目を燃やしながらそう言って。


 流れるように突っ込んで次々と斬り伏せていく。


 止め処なく、居着くことなく、流れるように全ての動作が次の動作へと繋がっている。

 力まず柔らかく、しかして鈍くも遅くもない。

 鋭く流れの中で、通り過ぎたら斬り伏せているような。


 攻守が完全に一体になった動き。

 これが勇者パーティの戦士……、もはや芸術の域にある。


 私とファイブはすぐにダイルさんはほっといて良いと察し、私が弾いてファイブが撃ち落とす連携に切り替える。


 やべえファイブの状況判断能力が高すぎる……、これ【総合戦闘競技】にパーティ戦やタッグ戦が出来たらコイツ超活躍するんじゃないの?


「この程度なら後一万は斬れる! そろそろ後ろの三人も――――」


 と、ダイルさんが状況を共有し次の段階へと進もうと指したところで。


 魔力感知に反応。


「――ッ⁉ 離れて‼ が混ざってる!」


 私がダイルさんへ注意を促す。


 分身体による核熱自爆……っ、分身体の運用としては正解だ。私が分身できるんなら絶対にやる。


 でもここは宇宙空間に浮かぶ移動拠点。

 流石に高威力の自爆技はやってこないと踏んでいたが、等分した魔力ならいくら核熱自爆といえどそこまでの威力は出ない。

 だが殺傷能力は十分な威力はある。


 これは効果的……つーかかなりやばい。

 私が間に入って盾で防御……いや、物理障壁で最低限のダメージに抑え――――。


「俺が居て良かったな、マジで」


 私の思考をよそに、ファイブはそう言いながら駆け出して。


 核熱自爆を行おうとした分身体にタックルを決めて組み付く。


「ば……ッ⁉ なにやって――――」


 私が声を上げた瞬間。


 分身体は霧散して、消えた。


「おお……消えるのか、スキルってなんか結局魔法みたいなもんなんだな」


 即離脱して、私の後ろに戻って構えながらファイブは言う。


 マジで何したんだこいつ……、思ったより底が深い……。


、緊急時専用の魔法だ。試合じゃ『纒着結界装置』あるから使えねえけどな」


 たっぷりとドヤ顔で、疑問符を浮かべる私にファイブは説明してみせる。


 相手の魔力を吸収……? いやまあ存在するのは知ってるけど医療的な運用が主とされているものだ。


 しかも魔力を使って魔力に干渉して吸収するので、魔力吸収の効率はすこぶる悪い。

 というか魔力革命で親和率の上がった現在、そもそも余程の無茶をしなければ魔力が枯渇することもないので誰も使わない。


 多分チャコのママやスズちゃんも出来るけどやったことないんじゃないのかな……。あの二人は魔力に底があるってことを知識としてしか知らないかもしれないくらいにとんでもないし。


 特殊な体質だからこその技術か……、私もなんかないかな。おっぱいからビームでも出すか……?


「おま……ビジィてめえ! ちゃんと強いじゃねーか‼ 言えよ!」


 ダイルさんがファイブの活躍ぶりに驚愕して声を荒らげる。


「言っただろ‼ 俺は全帝出場選手だって! 一回戦でライラ・バルーンみてえな上澄みと当たってなきゃベスト8は固かったんだよ‼」


 ファイブも声を荒らげて返す。


 これは……確かに間違いない。

 流石にチャコやシロウや八極令嬢は無理かもだけど、多分ケソ・イカミリン=ポテトとかカゲツキ・ハネムーンとかになら余裕で勝ってたと思う。


 まあそんなことより。


「無駄話すんな! 戦闘状況下っ‼」


 私は二人に喝を飛ばす。


 思った以上にこの仮パーティが機能して良い流れなのは認めるけど、この手の流れは必ず油断が生まれる。


 私たちは基本的に油断でここにいるんだから、流石に余裕は見せていられない。


 と、一気に全身へ緊張感を巡らせたところで。


 非戦闘員たちの転送が完了する。


「よし……次は私たちが帰る! 私とダイルさんで押さえるからその間にファイブが転送設定!」


 私は即座に指示を出す。


「ああ⁉ 俺がやんのか⁉ 俺こういう機械全然明るくねーぞ! 郵便屋なんだよ、俺‼」


 指示に対してファイブが驚愕する。


「いいからやれ! 私も司書だけど出来たから!」


 私はそう返しながら前に出て、水槍に風槍を混ぜて撃つ。


「俺もお巡りさんだからわからん! そういうんは若い方が出来るだろ!」


 ダイルさんは分身体を斬り伏せながらファイブに檄を飛ばす。


 というか司書に警察に郵政……なんか公務員多いな。


「……あーもーやるよ! 時間稼げよ‼」


 ファイブが諦めたように下がって『転送装置』の操作を始める。


 ほぼ同時。


「よし! 『具現化』から『複製』と『増殖』は完了‼ 大氾濫第一ウェーブまでは転送準備が出来た! 第二ウェーブまでにこいつらどうにかするぞ‼」


 後ろで魔物モドキ発生作業を続けていたやつが声を上げる。


 向こうの時間稼ぎも完了しちゃったか……、やはり全然余裕がない。


「俺が『分身』の物量で固める! そのまま戦士を狙え‼」


 『分身』の男が再び『予備魔力結晶』を使いながら三名に指示を出す。


 まだ増えるのか……、しかも聞いた感じ『具現化』『複製』『増殖』ってまためっちゃ増やしそうなスキルだ。


 技量としてはこの公務員パーティがこいつらに負けているとは思わないけど……、物量による制圧はかなりキツい。


「……っ、ファイブ! まだか、急げ‼」


 ダイルさんも察してファイブを急がせる。


「おいこの転送先座標ってなんだ! 数字しか入らねえ上に郵便番号だとエラーになるぞ‼」


 ファイブは操作盤に悪戦苦闘しながら返す。


「マニュアル座標設定から地図上をタッチ! 場所は帝国の真ん中らへんならどこでもいい‼」


 私は盾で物量攻撃を捌きながら操作方法を説明する。


 ユーザーインターフェースがよく出来すぎてるからね、説明も簡単だ。


「よし……よし! できた! 出来たぞ! 転送開始まであと……七十秒だ‼」


 ファイブが嬉々として共有する。


 七十秒……、まあ何とかなる。

 残り五秒、いや三秒で飛び込めば問題ない。


 時間稼ぎに徹する……!


 目から炎が噴き出す。

 ここを耐えれば勝ちだ。


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