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07人生の半分は打算だけどもう半分は結局は愛

 私は空気弾を発射し、相手前線を押し返す。


 ほぼ同時に足を止めたところから流れるようにダイルさんが斬り伏せて通り抜ける。


 こちらの前衛ラインを超えて来そうなところにファイブが光線魔法を撃ち込む。


 残り五十八秒。


 相手は大型機関銃にて、乱射。

 即座に多重物理障壁を展開し、防御。


 防御の裏からファイブの丸のこ光線が大型機関銃を破壊。


 銃撃が止んだところで、ダイルさんが分身体の八割を処理。


 残り三十一秒。


 敵側に大型機関銃が五丁並ぶ。

 風と水魔法で酸素濃度と湿度を調整し、火薬の炸裂を阻止。


 ほぼ同時に並ぶ機関銃の銃身を、直角に曲がるファイブの光線魔法が貫いて溶かす。


 ここで分身体が新たに三十二体増えるも、増えたところからダイルさんが八体切り伏せる。


 残り二十五秒。


 分身体の内十二体から核熱自爆の反応を検知。


 私は風魔法でダイルさんを引き寄せて、ダイルさんとその流れに任せて私の後ろに回る。


 入れ替わるようにファイブが飛び出し、徒手格闘で接触と同時に魔力吸収を行い核熱自爆を阻止して下がり際の置き土産になぎ払いの光線魔法を放つ。


 分身体消滅、光線魔法で思った以上にダメージが通った。


 残り十秒、というところで。


「ライラ先に入れ! 殿しんがりは俺が務める‼」


 ダイルさんがそう言って前に出る。


「はあ? 殿は盾役の私に決まってるでしょ! 盾役舐めないで‼ ダイルさんはさっさと郵便屋を連れてって! 最悪私はチャコとクロウさんを頼るから‼」


 私は捲し立てるように返して、さらに前に出る。


 そう、実はもうこの三人の危険度は入れ替わっている。


 当初は『無効化』の私は二人より命が軽いと思われていたが、今この拠点にはチャコとクロウさんがいる。


 チャコはともかく、クロウさんは私の命以外守る気はない。


 つまりここでダイルさんが殿として残っても、クロウさんは無視をするし多分ダイルさん自身も助けを呼ばない。しかも『転送装置』の操作もおぼつかないので残ったところで帰れない。


 私には現在、がある。


 使えるものは何でも使う、私の命に価値があるのなら有効に使う。


 さあ、残り五秒。


「……ちっ、先に行く‼」


 ダイルさんは私の意図を察して返しギリギリで『分身』の男の首を跳ねて、ファイブの首根っこを掴んで『転送装置』に飛び込む。


 最大限の働きをしてくれた。

 あの『分身』のやつはかなり厄介だった。

 これで三対一、しかも相手は全員手負い。

 どうにでもなる。


 ここで『転送装置』内の二人に投げナイフが飛び、飛んでる間に増殖するように十二本に増える。


 咄嗟に盾で弾いたところで。


 ダイルさんとファイブが、転送完了。


 よし、後はこいつら畳んで私も跳べば――――。


 なんて考える暇も与えず、相手は火球を放つ。


 そしてその火球は、先程のナイフと同じく増殖しながら飛んで一気に視界が火球で埋まる。


 多重魔力導線を発動し、防御。

 しかし同時に、この対処が失敗だと悟る。


 私に着弾した火球は魔力導線で散らせたが、私に着弾せず外れた火球群が私の背後にある壁に着弾した。


 しかも着弾時に爆裂。

 爆発自体は物理障壁で防御が出来たが。

 壁には『転送装置』がずらりと並んでいる。


 つまり『転送装置』を壊された。


 ……っ、油断だ。

 ここまでマヌケを晒しておいて、まだこんなしょうもないミスを……っ。


 いや切り替えろ。

 思考を濁らせるな。

 まだ使用可能な『転送装置』があるかもしれない。


 不純物を濾過して、純粋に遂行と達成のためだけを考える。


 倫理や道徳は捨てる。

 今はこいつら殺して使える『転送装置』を探すことだけに全てのリソースを使う。


 それだけのために、他のものは溶かして消す。


「よし! これで逃げられん‼」


 推定『増殖』の男が声を上げる。


「第一ウェーブ分の人造魔物は転送完了している! さっさととっ捕まえて第二ウェーブの準備に入るぞ!」


 推定『具現化』の男が続けて言って。


「あいつは『無効化』だったはずだ! 最悪殺しても構わん!」


 推定『複製』の男も続く。


 戦力分析。


 『増殖』はその名の通り、対象物を起点に増殖させるスキル。

 増殖数は倍々で、魔法や投げナイフなどの動きがあるものもそのまま増やすことが出来るが増殖させればさせるほど強度や威力は劣化する。

 投擲や中遠距離魔法に併せて使う戦法を主に用いる。


 『複製』はその名の通り、対象物をそのまま同じものを複製するスキル。

 『増殖』との違いは、増やす上限数はあるものの劣化しないこと。

 銃や魔力を用いない兵装を増やすことで、火力を倍増させる。全員に装備を行き渡らせるサポートも担っている。


 『具現化』は対象物を無から生み出すスキル。

 ナイフや機関銃を生み出したのがこれだ。武具召喚や空間魔法は使った様子がなかったので、これで生み出されたと考えられる。

 何でも生み出せるのであれば何でもありだが、恐らく完全に構造を理解して把握出来ているものに限られる。つまり使用にはかなりの知識量が要求される。

 こいつは戦闘員というより技術者の畑の人間。


 魔物モドキの氾濫についても、こいつらのスキルに依存したものだ。


 『具現化』で魔物モドキを生み出し。

 『複製』で劣化なしで増やし。

 『増殖』で劣化コピーさせて数を増やす。


 これらの工程を部屋の中央にある装置の中で完結させ、帝国中に魔物モドキを転送していたようだ。


 戦闘においても同じような連携を行っている。


 そして、魔物モドキ発生のメカニズムがそれなら。

 『複製』で『増殖』持ちを増やして『増殖』で『複製』持ちを増やす擬似的な『分身』ムーブが可能。


 攻略としては『複製』か『増殖』を落とすこと。


 恐らく『増殖』と『複製』は自分自身を増やせない。『分身』との違いはそこにある。

 どちらかを落とせば技術者と思われる『具現化』増やすことしか出来なくなる。


 援軍が来る可能性は少ない。

 現在進行形で、この拠点内をチャコたちが暴れ散らかしている。

 拠点内の戦闘要員はそちらに向かうしかない。


 つまり優先順位は『複製』『増殖』、どちらか落としたら『具現化』を狙う。


 瞬きの間に、分析と攻略を終えて盾裏から短刀を抜いて身体強化をかけて動き出す。


 一気に間合いを詰める。

 こいつらに近接出来るやつはいない。

 私は大盾使い、近接格闘で後れを取ることはない。


「――っ!」


 私の接近を見て『複製』持ちが『増殖』持ちへと手を伸ばす。


 伸ばした腕を風刃で斬り飛ばす。

 予想通り、これ以上増えさせない。


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