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08人生の半分は打算だけどもう半分は結局は愛

 接近する私に向けて、『増殖』持ちが氷結弾を増殖させて放つ。


 多重魔力導線で、散らして真っ直ぐ接近して『増殖』持ちを大盾で突いて胸骨を砕いて弾き飛ばし『複製』持ちから距離を離す。


 さらに同時に圧縮酸素毒で 『具現化』持ちを包む。これで酸素中毒で機能不全を起こさせつつ、発砲したら酸素が燃焼して爆死する。


 この程度の爆発なら壁に穴が空いたりはしないことをさっきの増殖火球の爆発で確認済み。


 片腕を失った『複製』持ちに連続風刃で、細切れにして殺す。


 これで擬似的な『分身』は行えなくなった。


「ぐぅぁ……かは……っ、がああああ――――――っ、……ぁああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ」


 酸素毒により血涙と鼻血を流しながら『具現化』持ちが雄叫びを上げて私へと発砲を行ない、酸素が燃焼して爆破とともに発火してのたうち回る。


 よし、あと一人。


 一人になった『増殖』持ちは炎槍を大量に増殖させて放つ。


 しかし、私に着弾する前に鎮火して消滅。


 『具現化』持ちに酸素を集めた時に分けた二酸化炭素で斜線を塞いでおいた。

 私に当たりそうなやつだけを魔力導線で散らせることもできるけど、これ以上『転送装置』を壊されても面倒くさすぎる。


 対人戦において、無音無動作不可視の攻撃は最強だ。


 火系統の攻撃魔法が流行ったのは魔物に有効だったからってだけだ。

 光線魔法の威力や着弾速度も凄まじいが、魔力導線や魔力湾曲を用いれば防御は出来てしまう。


 必殺ということだけに重きを置くのなら、風魔法による大気の操作が最強ではある。


 だが、魔力視を出来るある程度の魔法使いには対策されてしまう。

 でも対策を押し付けて行動を制限し誘導することが出来る。


 そこを狙うだけで勝てる。

 まあ、これはパパの受け売りなんだけどね。


 競技じゃ使えないから使えるように応用してたけど、確かにこれは実戦ではかなり有用だ。


 『増殖』持ちは火系統が効かないと判断して、別の魔法を放とうとしたところで接近し大盾で視界を塞いでローキック軌道で三陰交を蹴り抜いて崩し。


 倒れたところに短剣で喉を突き刺して、盾で弾いて引き抜きながら飛ばす。


「………………っふ――――――……。終わった」


 私は戦闘状況の終了を確認して漏らす。


 よし急ごう。

 さっさと脱出する。


 人を殺めてしまった罪悪感や不安で思考が濁る前に、遂行する。


 今は脱出だけを考える。

 チャコが心配とかパパとママが心配とかも今は考えない。


 壁際に並ぶ『転送装置』を調べていく。


 ……ダメか。

 結構ちゃんとぶっ壊されている。


 流石に魔法学校出身とはいえ、こんな複雑で難解な装置の修理は出来ない。


 ん? いやこれは生きてそうだ。

 操作盤の半分が効かないから座標設定ができないけど、元々設定された座標になら跳べる。


 とりあえず転送開始を押す。

 どこだろうと跳ぶしかない。


 これが別の【ワンスモア】拠点とかだと厄介だけど、帝国内であれば『携帯通信結晶』で助けを呼べるからなんとかする。


 転送まで残り六十秒、一応の警戒を――――。


 と考えているところに、

 同時に、背中から腹部へ衝撃が走る。


 振り向くと、黒焦げになりながら拳銃を向ける『具現化』持ちの姿があった。


 私は反射で風刃にて『具現化』持ちの首を跳ねる。


 痛……っ、くっそ撃たれたぁ……。

 完全に油断した、どこまでマヌケ晒してんだ私は……っ……。人を殺し切ることに慣れてなさ過ぎた。


 腹部を押さえながら何とか『転送装置』の中に転がりこむ。


「ぶぇ……っ! ……やば」


 込み上げてきた吐血で、内臓損傷が露見する。


 出血量も多い……まずい……。

 このまま転送が完了しても場所によっては……、くっそ……回復魔法使えないのよ、私。


 怪我しないことをモットーに大盾使いとしてやってきたし、パンドラちゃんやクライスさんって身近なところに名医がいたしチャコもかなり回復魔法を使えるから必要性を感じてなかった。


 回復魔法は医療知識が重要になる……。

 医学は流石に重すぎる、そこにリソースは割けなかった。


 あー……こんなことになるんなら勉強しとけば良かった……、昔一瞬医者って高給取りだしアリかなって思ったことあるけど……クライスさんの技術や仕事の内容聞いてやめた……給与に対して職務が重すぎる。コスパ悪すぎた……。


 もっと私がお金にがめつかったら……、まあお金なんて使うことも込みで稼がないと……。


 あーやべえ、思考がぐだぐだだ。頭が回らない……出血がやばい。


 寒い、ホントに死ぬかも。

 こんなに急なんだ、死ぬって。


 パパもママも……こんなものが身近な状態で生きてたんだ……。


 私には無理だ。


「死にたく……ない……っ」


 ぼろぼろと涙と一緒に言葉が溢れる。


 まだ全帝優勝もしてない。

 まだシロウ・クロスを血祭りに上げてもない。

 普通にチャコと結婚もしたいし。

 もっとエッチなこともしたいし、子供も欲しい。


 まだ二十一歳、まだまだやりたいことが沢山ある。


 こんなわけのわからないことで死んでる場合じゃないのに……っ、くっそ……。


 私の頭の中が、ぐちゃぐちゃに色んなことを考えようとしているけど思考が続かない。断片的に無茶苦茶に頭がぐちゃぐちゃで。


 とにかく悲しい。


 そして、朦朧とする中、私は『転送装置』によってどこかへ跳んだ。


 これで跳んだ先が【ワンスモア】拠点なら死ぬ。

 誰もいない場所でも死ぬ。

 誰か居たところで、出血多量で死ぬ。


 ああ、ごめんチャコ。

 助けられてあげられなくて、私を信じて残ってくれたのに――――。


「な……っ! また【ワンスモア】……いや? 貴様は……ライラ・バル――――」


「退けシロウ‼ 大丈夫かライラちゃん‼ クリア! すぐに治療を! 出血が酷い! チアノーゼが見られる‼」


 跳んだ先に、二つの知ってる声が聞こえる。


 これは…………、


「止血を! 私がバイタル管理するから、パンドラは適切に処置して‼」


 さらに続けてクリアさんの声が聞こえる。


 パンドラちゃんが私の服を切って、傷口に回復魔法を施す。


 うぉぉ……、治ってる感すげえ……。


 ああそっか……なるほど……。

 あの『転送装置』に設定されていたのは『無効化』攫い用の転送座標だったのか……それでパンドラちゃんとクリアさんの元に跳んだんだ……。


 そしてシロウ・クロスは護衛として……、待ってこれマジか。


「…………ラッキー過ぎ……でしょ」


 私は、人生最大の危機を相殺する幸運に思わずそう漏らして。


 そのまま安心して、気を失った。


 次に目を覚ました時には、全てが終わっていたのだけれど。


 まあ当然だけど、今は何も知らない。

 だから私が語れるのはここまで。


 きっと重要なのはチャコの物語だからね。

 果報は寝て待つことにする。


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