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03この物語の主人公はこれしか出来ない

「こんにちはー! 時代の流れに置いていかれた馬鹿共の幻想をぶっ壊しに、スキル大っ嫌いおじさんが来たよー! スキル至上主義反対ー!」


 クロウさんは大きな声で【ワンスモア】を挑発しながら、最深部へと進む。


 ライラちゃんたちの脱出のために、なるべくヘイトをこっちに集めたいけど流石にここまで来るのに暴れすぎて相手も警戒しているようで挑発には乗ってこない。


 というか乗ってくる方がおかしいんだけども。


 それでも【ワンスモア】はこの手の挑発に乗ってきやすいのは事実だ。

 ここまでの道中もクロウさんの挑発に乗って姿を現していた。


 なんか、ちぐはくだ。

 こんな設備や実行力を有したテロ組織なのも事実なのに、どこかで感情やその場のノリを優先して行動している。


 素人のような玄人のような……、まだ僕は【ワンスモア】という存在を掴み切れていない。


「うーん、ゾーラ君。なんか適当に魔法を撃ってみてくれ、なるべく派手な感じで。拠点壊されたら流石に出てくるだろう」


 なかなか挑発に乗らない【ワンスモア】に対して、クロウさんはさらに過激な提案を述べる。


「良いのですか? 拠点自体に損傷を与える段階ではないと思いますが」


 ゾーラさんはやや困りつつ返す。


 うん、まだライラちゃんが脱出してないからここは落とせない。


「ああ、ここはかなり堅牢な作りだから多少暴れても大丈夫だよ。かつてのビリーバーが作った地下二万メートルのシステム管理空間の外壁と同じような造りになってる。システム装置の扉ほど堅牢ではないから消滅魔法では消せるみたいだけど、それ以外の攻撃では損傷に至らない」


 淡々とクロウさんは宇宙拠点の堅牢さを語る。


 ち、地下二万メートル……?


 なんか正直よくわかってないけど、クロウさんやバリィさんの話やナナシが宣っていたことを合わせて推測するにビリーバーってのは異世界から来た人間ってことで……その異世界から来たやつらが大昔に魔物やスキルを作ったみたいな感じっぽいんだよな。


 かつてセブン地域……旧セブン公国で信仰されていた内容では魔物の発生に合わせて神が民にスキルを与えた的な感じだったと思うけど、どっちも異世界人の介入によるもの。


 地下二万メートルにとんでもない量の魔力を使ってスキルや魔物を発生させる装置を造った。


 どんな技術力だ……、でも実際宇宙空間にこんな巨大な基地を建造しているわけだ。

 まあ壁や床がなんか硬くするってくらいは余裕だろう、ビリーバーってのは実質神様みたいなもんなわけだし。


「でもチャコールは抑えろよ。この素材は魔力というより思念伝達に反応する。極論壊せると思いながら触れば壊せるが、形状や強度を維持するために人間の脳を使って思念を送り続けている。基本的に外部からその思念を上回ることはない、上回れるんならあの馬鹿戦士は格子を斬って外に出ていたからな」


 突然クロウさんは僕に向けて語り始める。


 びっくりした、何故に僕だけに……。


「だがチャコールはさっき素手で格子を曲げてライラを救出した。おまえの思念伝達は、この拠点の強度を上回る。必要な時以外は無茶するな、今ここが落ちるとみんな死んじゃうからね」


 さらりと恐ろしいことを言って、クロウさんは僕に注意を促した。


 確かに……あの時なんか僕は格子を素手で曲げてたな。全然硬いとは思わなかったけど、そういう素材だったのか。思念伝達で強度が変わる……、ああソフィアさんがアカカゲさんに使っていたやつもそんな感じだったか。


 あの時は夢中だったから再現性があるかはわからないけど、一回出来てしまっている以上気をつけるか……。ライラちゃんがいるこの拠点を落とすわけにはいかない。


「了解。各員、念の為対魔法防御を」


 話を聞き、そのままゾーラさんは返事をしながら廊下の先に大爆雷撃を放つ。


 凄まじい爆発と共に壁がぶっ飛ぶ。

 いや壊れてんじゃ……っ、いや、外壁や床や天井は無事だ。


 壊れたのは部屋ごとの仕切りと廊下と部屋を分ける壁だ。

 だだっ広くなったけど、拠点自体に大きな損傷はない。


 拠点の堅牢さは確かなようだ。

 結構派手に暴れても大丈夫そうだ。


 なんて考えていたところに。


「貴様らあ……っ‼ 脳髄引き抜いて装置に捩じ込んでやる……‼ これ以上俺たちから奪うなァァァアアアアア――――ッ‼」


 部屋だった場所の瓦礫を弾いて【ワンスモア】が現れて、怒鳴り散らす。


 そりゃあ家をぶっ壊されたら怒るか。

 でも「奪うな」か……、ライラちゃん奪って全帝大会無茶苦茶にして帝国に魔物モドキばらまいて今までも人攫いまくって脳引っこ抜いておいて「奪うな」ね。


 なんかあったのはあったんだろうし、どんだけ大変だったとか嫌だったとかは計り知れないけど。

 こんだけ暴れ散らかして、まだ被害者面すんのはちげえだろう。


 もうこりゃあ喧嘩なんだ。

 善悪も正誤も関係ない、気に入らねえかぶっ飛ばす。

 これはそういう話でしかない。


 なんて考えているところで、だだっ広い部屋だった場所にぞろぞろと続けて【ワンスモア】の連中が集まってくる。

 相手の数は五十人……いやまだまだ増えている。


「何名か拘束しますか?」


 ステリアさんが構えながら訪ねると。


「いや……もう、殲滅で良い。彼らの記憶から必要な情報はもう読み取った。もう彼らの居場所はこの世界にはない。せめて、世界から理を消し去った巨悪との戦いの中で死なせてやろう」


 平らな……いや冷たくクロウさんはそう答えて。


「ハァ――――ハーハーッ‼ 僕が二十年に、ビリーバーが遺したサポートシステムとエネミーシステムを破壊した張本人だ‼ 君たちの人生を一変させ! 世界をつまらなくして! 君たちのような落伍者たちを生み出した!」


 まるで悪役のようにクロウさんは大声で宣い。


「僕は悪だ。さあ来い、全員一瞬で畳んでやるよ」


 不敵に笑みを浮かべて空間魔法から槍……いや棒ヤスリという殺意を形にしたような武器を九本取り出して浮遊で滞空させて構えながらそう言った。


 クロウさんの挑発により、凄まじい圧力を放ちながら【ワンスモア】の連中が一斉に襲いかかってくる。


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