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09この物語の主人公はこれしか出来ない

 ナナシはその隙に目視転移で離脱。


 銃創を『再生』で治し。

 棒立ちのクロウさんをナナシが『具現化』で巨大な棍棒を生み出して。


 力いっぱい『剛力』で打ち抜く。


 クリティカルヒットの衝撃でクロウさんの仮面が砕け。

 髪の色が黒から灰色に変わり。

 身体中の骨が砕けてぐちゃぐちゃになり

 皮膚が裂けて血を吹き出しながら。


 クロウさんはぶっ飛んだ。


 ぶっ飛ぶクロウさんを目視転移で回り込んで、壁に激突する寸前で受け止めて回復魔法を施す。


 だが損傷が大き過ぎる……っ、親父のフルスイング並の威力だ。普通なら即死だぞ、こんなの。

 反射的に防御魔法と回復を行って耐えたみたいだけど……すぐ死ねるというかほぼ死んでるような状態だぞ……。


「……がぁ……っ、一旦……、これで、いい……後は自前で回復……する……。僕としたことが……マヌケを晒した……回復したら……絶対に当たる必殺技を使う……それまで持たせてくれ、必ず……挽回する」


 血反吐を吐きながらクロウさんはそう言って僕の回復を遮る。


 必殺技? 全ての動きが必殺級のクロウさんがわざわざ必殺と位置づけする……マジになにをする気なんだ?


「うわーめっちゃ気になるじゃん……、この展開からの必殺技。熱すぎる……超クライマックスじゃん……見てみたいからそれまで持たせろよ! チャコール君!」


 棍棒を消滅させながら、大きな声でナナシはそう宣って。


 灼熱線、氷結線、毒液線、爆裂弾、岩石弾、風烈斬、光線魔法を一気に展開して一斉掃射する。


 これは『大魔道士』によるとんでもない数の同時魔法発動。

 僕は空間魔法で大盾を取り出して、魔力導線や魔法融解で捌いていく。


 おふくろとスズとの特訓と同じレベルだ……っ、きっちい、捌き切れんのか……これ?


「ハハハハハ――! やるね! まだまだ!」


 調子に乗るナナシは、さらに魔法攻撃を増やして乱射する。


 多彩……物理とか属性とか無秩序に混ぜて押し付けてくる。

 だが、この手の稽古はマジで死ぬほどやって来た。

 家族に弩級魔法使いが二人もいるんだ、僕を舐めるなよ……っ!


 魔力の流れやパターンを分析、魔力変換の隙間を見つけて。

 僕は目視転移で接近し、空間魔法から大斧を手に取る。


 ナナシは『具現化』で馬鹿げた質量の大剣を生み出して『万能武装』で激突。


 空気が震えるほど、とんでもない質量の金属がぶつかり合い火花と共に轟音が響き渡る。


 かなり厳しく大剣を軽々と振って攻め立ててくる……、『万能武装』ってダイルさんが持っていたスキルだ。そんな馬鹿な質量武器で剣技を使えたのか……鍛えなくても振れんのかよ、ふざけんな。


 激しい近接戦闘、剣撃の隙間を狙って僕の螺旋光線がナナシに当たる。


 ナナシは大剣を手放して『手品師』のワープで離脱から『聖域』で回復。


 くっそ、あの『手品師』ワープが転移魔法と違って読み切れねえ。魔力反応も視線での転移先予測も出来ない。

 前にあった時に消えたのと、全帝ベスト4インタビューで姿を消したのもこれを使ってたのか。


「はは、本当にすごいな……遠近両用、まるでメガネみたいだね。じゃあこっちもどっちも出来るようにしようかな!」


 楽しそうに、ナナシはつまんねえことを言って。


 『具現化』で鎧と剣と盾を出して『英雄』を発動。


 消滅魔法と光線魔法で狙いつつ、目視転移や高速剣術と格闘戦で攻められる。

 な……っ、メリッサさんかよこいつ……なんだ? 『英雄』? 『勇者』とは違うのか? こんなのもあったのか……。多分『勇者』の下位互換に当たるんだろうけど、じゃあ『勇者』ってどんだけやばかったんだ。

 魔法も剣も甘くねえ……っ、不自然な動きなのに速くて重い。


 でも、メリッサさんの方が絶対に強かった。


 大斧を投げ捨て、ナナシの剣の刃を握るのと同時に手を部分硬化し砕きながら引き込む。

 引き込んだ勢いのまま、負荷耐性部分硬化で盾をローリングソバットでぶっ壊す。


 ガチ戦闘で負荷耐性部分硬化の練度が上がっていく。

 ラビット・ヒットさんが言っていた思いと想いの重さが事象に影響を及ぼす域に到達しようとしている。


「おお……じゃあ僕もそろそろ第二――――」


 剣と盾を破壊されたナナシが薄ら笑いで何かを言おうとしたのと、同時。


 ナナシの四肢が捻じれ飛び。

 顎と肋を砕かれて身体中を棒ヤスリで貫かれ。

 ぐしゃぐしゃになりながら。

 とんでもない速さで吹っ飛んで壁に張り付く。


 


 まるで、こうなるための過程が抜け落ちたような。

 存在しない一コマの間に全てを終わらせて、結果だけを世界に切り取ったみたいな。


 理不尽すぎる、絶対的な速度差。


「…………、そしてだ…………これがおまえらだけを必ず殺す魔法だ」


 目から真っ黒な炎を揺らし、ボロボロのクロウさんがそう言った。


 無効化再現……スキルの『無効化』を再現したものか……嘘だろ、マジかよこの人。


 クロウさんは【大変革】でスキルが無くなったのにもかかわらず、対スキル持ちを想定して『無効化』を再現していたのか……。マジにこの瞬間でしか意味のない魔法だぞ。


 さらに模造超加速。

 これは同速対決を想定して生み出した、疑似加速や疑似加速改を超える『超加速』を再現した魔法。

 相手が疑似加速を使って逃げられないように、そんな薄い可能性すらも潰す魔法……、これもよく作ったな。疑似加速を使えるのはもれなく帝国軍人だしそもそも使えない相手なら疑似加速で十分必殺だ。


 しかし、その無駄としか思えないクロウさんのスキル再現魔法は無駄にはならなかった。


 無効化再現でナナシの『EX管理者権限』を無効化し、さらに疑似加速を超える『超加速』の再現による確殺攻撃……。完全に、どんぴしゃりでぶっ刺さった。この瞬間における最強の魔法だ。


 疑似加速を見せなかったこの模造超加速に接触発動電撃や消滅纏着などの対策をさせないためでもあるのか……凄まじいな。流石世界最強の奥の手だ。


「……ご……ぷっ、ぉえぇぇ…………はー……っ、は、反動がでけえ……魔力も使いすぎた…………、二度と使わねえ……っ」


 大量の血反吐を吐いて、クロウさんは片膝をつく。


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