「クロウさん! 治療します!」
僕は目視転移で跳んで、治療を申し出るが。
「……僕への治療はある程度でいい……、優先度は特殊任務攻略部隊の回復と脱出だ。脱出時に戦術級消滅の遅延発動を置いていけ……そのために魔力は多少温存しろ……」
クロウさんは虚ろな目でそう返す。
確かに僕の魔力も万全ではない。
ここから回復と拠点落としのための戦術級消滅とかを考えると、魔力は無駄に出来ない。
ここはおいそれ来れる場所ではないが、地上に残った【ワンスモア】残党に悪用されると厄介だ。確実に破壊しておかないと――――。
「おいおいあんまり壊して欲しくないな、このサプライズノアを造るのすげえ大変だったんだから。余裕で十年はかかったんだよ」
突然、会話に挟まる声。
身体中に悪寒が駆け巡る。
嘘だろ……流石にそりゃあねえだろ。
僕は信じられず、声の方向に顔を向ける。
視線の先には、五体満足でへらへらとしたよゆうたっぷりのにやけ顔を向ける。
ナナシ・ムキメイの姿だった。
当たり前のように復活した。
ゾッとする。
流石のクロウさんも驚愕している。
あれで死なないなんてことがあるのか?
「いやーマジに突然、四肢が捻じ取られて身体中に槍が刺さった上に顎も砕かれてたけど……ギリギリで、第二形態が間に合った」
飄々と、慄く僕らを気にも留めずにナナシは語り出す。
「僕の固有スキルは『EX管理者権限』だけど、それともう一つ『携行サポートシステム』によって『潜在解放』を使えるのさ」
あっけらかんと、とんでもない事実を告げた。
『携行サポートシステム』……あの【ワンスモア】のやつらがスキル再現に使っていたものか。
完全に失念していた。
こいつは【ワンスモア】の親玉なわけだから、外付けでなんかしらのスキルを使えることは想定しておくべきだった。
外付けと自前で、二つのスキルを同時使用することを……考えておくべきだったんだ。
「このプレイアブルアバターの基礎スペックは過剰だからね、普段はある程度のリミッターがあるんだけど『潜在解放』を使えばリミッターを外してスペックを余すことなくこの身体を使えるんだ。これが僕の第二形態、やっぱり切札は後出しした方が強いね」
つらつらとナナシは楽しそうに語り続ける。
ああ『潜在解放』って……、親父が昔使ってたスキルか。
潜在的な能力をフルに解放するって感じのスキルだった、身体能力を上げるみたいな。
超筋肉大男の親父にはピッタリなスキルだったらしいが……確かに異世界人が作り出した最強の肉体をフルスペックで使えるようにするスキル……相性抜群だ。
「スペックを解放して耐えて『再生』から『復元』と『聖域』で肉体を戻して『大魔道士』で魔力も回復させた」
淡々とナナシは種明かしのように語り。
「ああ死にかけたよ、マジに。まさか『無効化』を再現出来るなんて……そりゃあ良くないな」
低い声で、笑みを消してぽつりと漏らし。
「それはグリッチ扱いとさせてもらうよ。それが出来てしまうと本物の『無効化』の意味がなくなる。それはシステムの本質から外れているからね」
目からゆらりと黒い炎を揺らし、そう言って。
「こりゃあ緊急アプデだ。君は消しとかなきゃ――」
と、つらつらと語るナナシに筋肉転移で斧を振る。
当然のように反応され、斧を掴まれそうになったのとほぼ同時にラビットさんの運否天賦転移で適当に跳び。
たまたま近くにいたゾーラさんを急速回復。
「あいつは僕が、皆を連れて脱出を」
端的にゾーラさんへと共有。
「――了解」
復活したゾーラさんが一瞬で状況を把握して返し、目視転移で負傷者を回収し『転送装置』へと跳ぶ。
「おっと使わせないって、逃がさないよ」
ナナシはそう言って、『転送装置』を結界と防壁で囲い。
ゾーラさんを狙おうとしたところで僕は再び筋肉転移で斧を振るが。
素手で大斧を止められる。
……は? これを……止める?
完全硬化相手でも、ぶっ飛ばすことが出来る一撃なのに。
「はっはー! 力比べには自身があったかい? でも『潜在解放』と『剛力』相手にこれはナンセンスだよ」
困惑する僕を嘲るようにナナシは言う。
「――っ‼」
僕は掴まれた大斧を武具返還して近距離螺旋光線を乱射。
魔法湾曲で防がれるが、これは目眩ましだ。
一瞬僕へと釘付けにできればそれでいい、光線魔法の閃光で目眩ましも兼ねている。
この一瞬の隙に真っ直ぐ『転送装置』に向かったゾーラさんは消滅魔法で防壁と結界に穴を開けてそのまま突入。
「転送準備完了……、転送完了まで六十八秒!」
『転送装置』を操作して、ゾーラさんは共有する。
一分以上か……それまでなんとかこいつを抑えるしか――。
「僕が……、そんなにゆっくりするわけがないだろう……チャコール! 殿は任せたぞ‼ 畳んで来い‼」
抱えられたクロウさんが僕に向けて檄を飛ばし。
疑似加速付与で『転送装置』を加速し六十八秒を飛ばして転送された。
「あちゃー逃げられた……まあいいか、君を倒してさっさと追いかけるか。あの黒い人は絶対に消しとかないと……。君とはもっとゆっくり遊びたかったんだけどね……仕方ないね」
転送されたのを見て、ナナシは残念そうにそう言って。
「さあ! 最終決戦――」
意気揚々とナナシがなんか宣おうとしたところで。
疑似加速改からの負荷耐性部分硬化右ストレートでぶん殴る。
ナナシの左頬に拳がめり込むのと、同時。
『再生』からの『加速』を使って身体中に電撃を纏わせて、感電した僕は加速した世界から弾き出される。
さらに前蹴りで肋を砕かれながらぶっ飛ばされる。
流石に疑似加速は警戒しているし対策もされている……っ、痛え……重すぎる……内臓にも損傷がいってる。これ結構やべえかも、いきなりミスった……!
「うーんその『加速』みたいなやつ、使ってると会話が出来ないしやめにしないかい? 魔力消費も激しいみたいだしさ」
ナナシは自分の顎を撫でながら、這いつくばる僕に語り出す。