回復魔法で自己治療の時間を稼ぐために話をさせる。
こいつ、異常なほどに会話をしたがる。
戦闘中に言葉なんて不要なものだ。
言葉で解決出来る範囲を逸脱したから、解決に暴力を用いているんだ。
だからこの段階で、言葉には何の力もない。
これは完全にこいつの悪癖で、如実な弱点だ。
「しかしチャコール君……君は本当に強いね。いや予想外だったよ。まあさっきの人は【ワンスモア】狩りとして以前からなんとなく知ってたし、なんかデイドリームのビリーバーからの影響が強そうだし、多分この世界における特異点みたいな存在なんだと思うけど」
悪癖のまま、ナナシは語りを止められない。
僕はその隙に内臓損傷の診察を行って治療を進める。
「君もまた今の世界には似つかわしくない完成度のプレイヤーだ」
ナナシは真摯に語りを続ける。
「色んなストーリーの中で、様々な影響が噛み合って君が完成したんだと思うけど……今の世界には噛み合ってなかったね」
なんか大真面目に話を続ける。
世界に噛み合ってないか……余計なお世話だ馬鹿、絶対に畳む。
「君がその真価を発揮するのは、魔物がいてスキルのある世界だ。わかりやすい悪がいて、ストーリーの中で英雄へと進んでいく…………君は間違いなく
満面の笑みで、ナナシは僕にそう言った。
僕はナナシの言葉に、心は動かさない。
「良かったよ。僕らが君に間に合って……君が無駄にならなくて良かった」
優しい笑みを浮かべて、ナナシは語りかけ続ける。
「どうだい? チャコール君、面白いだろう! 楽しいだろう‼ 僕たちはこの世界を面白くしたいんだ! 刺激とやりがいをもう一度この世界にさあ!」
捲し立てるように、本気でナナシは語り。
「この世界は夢であるべきなのさ! かつての失敗は調整を途中でやめてしまったことにある。こんなテスト段階でほっぽり出した状態で放置したから、この世界は歪んだまま発展してしまったんだ。だからもっとちゃんと調整して、スキルやステータスや魔物のパラメーターなんかももっとプレイヤーとの共存が可能な範囲で――――」
思いと想いを吐き出すように、ナナシが語ったところで。
身体強化を発動。
確かに回復と疑似加速改で魔力を使いすぎた。
疑似加速改でスキルを片方『加速』に強制させてしまうのが有効ではあるが、この後に戦術級消滅魔法を使うのならこれ以上大きく魔力は使いたくない。
近接戦闘、一撃で終わらせる。
メリッサさんよろしく目視転移で接近。
アカカゲさん直伝の躰道で翻弄。
ナナシは『具現化』で刀を出して『万能武装』で対応する。
『潜在解放』によって腕力が親父級になっている状態での剣速や圧力が凄まじい。
こちらもリーチを伸ばすために空間魔法から双剣を抜く。
トーンの町で習ったダイルさん仕込みの双剣術で圧力をかける。
ナナシも『複製』で刀を増やして『万能武装』で双剣同士での戦いになる。
拮抗……いやナナシには余裕がありやや不利だ。
力の流れの終着点に、刃筋を通すのを狙うが単純な腕力と速さで翻弄される。
それでも、スキル補正の不自然な動きには慣れた。
剣技の隙間に消滅魔法を放つ。
ナナシの右腕が消し飛び、空いた右側から斬り込むが『再生』で腕を治し『大魔道士』で完全硬化。
僕の双剣が弾かれ、そのままの勢いで回って負荷耐性部分硬化で旋状蹴りを放つ。
『反発』で打撃を弾いてきたが、根性で『反発』ごと蹴り抜いてナナシがぶっ飛ぶ。
追撃のために接近しようとしたところで『具現化』で出された自動小銃で連射されるのを物理障壁で防ぐ。
防御の裏に『手品師』でワープされ背中を蹴られてぶっ飛ぶ。
ぶっ飛びながら目視転移でナナシに組み付いて合気でぶん投げる。
ぶん投げた先に目視転移で追撃しようとしたところを転移先を読まれてぶん殴られる。
脳震盪を回復魔法で無理矢理戻して、螺旋光線魔法をぶっぱ。
魔法湾曲で防がれたのと同時に前蹴り。
僕の前蹴りに対してナナシは双掌打で相殺し、同時にぶっ飛んでお互い対辺の壁に激突する。
「ハハ! ハハハハハハハハ――――――ッ‼ 楽しいなあ‼ 激熱だ! そうだろう! チャコール君‼」
大笑いしながら、また口を開く。
ふざけた態度で当たり前のようにスキルで回復しながら突っ込んでくる。
継戦能力が高すぎる……、ふざけんな強すぎんだろ。
結構やべえな、このまんまじゃ勝てな――――。
ここで。
ライラちゃんの魔力反応が拠点内から消える。
ずっと、意識をうっすらと傾けていた。
ライラちゃんの魔力だけを追跡していた。
いつでも筋肉転移で助けに行けるようにしようとしていたが、そんな余裕なくて追跡だけし続けてた。
まあライラちゃんがそんじょそこら奴らに後れを取るわけない……でも【ワンスモア】の奴らは結構イカれてるからちょっと心配だったけど。
この消え方は何かあったとかじゃあない、転移かなにかで跳んだ時の消え方だ。
よかった。ライラちゃんは脱出したんだ。
つまり――――。
「――――
そう呟いたところで、目から真っ黒な炎が燃え上がる。