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12この物語の主人公はこれしか出来ない

 不純物が燃えて、消えていく。

 高熱で鉄が鍛えられて炭素結合が強まっていくように。

 僕の力の流れが一つに重なり束ねられて、ひっかりがなくなるように身体の中を流れる。


 僕は身体強化を発動。

 突っ込んでくるナナシに、アカカゲさん直伝の半月当てで引き込みながら肋を蹴り砕く。


 そのまま蹴り飛ばした方向に目視転移して、消滅魔法。

 消滅は魔法融解で防がれたので、そのまま散らばる棒ヤスリを一本拾って突く。


 ナナシはスキルを『反発』に切り替えたのを見て、突き出した棒ヤスリごと螺旋光線で貫いて脳天を狙う。


 魔力湾曲で逸らされたので消滅魔法を展開して『反射』を引き出そうとしたが『英雄』で重力魔法と同時に目視転移で離脱される。


 重力魔法を根性で抜け出そうとしたが、重力魔法を魔力変換で磁力魔法へと変化される。

 僕に宿った磁力に導かれて、撒かれた棒ヤスリが一斉引き寄せられる。


 目視転移で迫る棒ヤスリを躱して、一度棒ヤスリを消滅魔法で迎撃しようとしたところで。


 ナナシの『手品師』によるワープで先回りされて『八極拳士』による鉄山靠をモロに食らう。


 凄まじい発勁が僕の中身をぐしゃぐしゃに掻き混ぜて、勢いで壁に叩きつけられたのと同時に。

 磁力によって引き寄せられた棒ヤスリが身体を貫いて磔にされる。


 ナナシは『具現化』でヒロイックなデザインの長剣を創造し『剣豪』を用いて磔の僕に踏み込みと同時に、刃筋を通す。


 が、振り抜かれた刃は音もなく消える。


 

 僕が知る限り、この世界で最もイカれた魔法だ。


 流石にこのまま消滅魔法を纏って動くなんてことは出来ない。しかしこれで、壁に刺さった棒ヤスリは切断され動けるようになってナナシの剣も消した。


 切札は後出しした方が強いんだったよな。


 ここで僕は疑似加速改を発動。

 同時にナナシは『加速』を発動。


 消滅纏着を見て、接触式の電撃魔法による対策は不可能と踏んで『加速』で同速対決に乗ってきた。


 魔力に余裕はない、ここで畳む。


 身体強化を重ね掛け、居着きを嫌い流れるように。

 もう負荷耐性部分硬化は無意識に僕の生理反応のように全ての動きへと動作する。

 刺さったままの棒ヤスリが砕いた骨や裂いた筋繊維は、無理矢理回復させ続けて身体強化で動かす。

 身体能力は余すことなく出力され、僕は加速した世界を駆け抜ける。

 床や壁は当然のように砕けて捲れる、気にしなくていい。もうライラちゃんはここから出た。


 何も気にしないでいい。

 何をぶっ壊してもいい、相手を殺してもいい。


 僕は全力を出していい。


 おふくろのように、二百の光球から螺旋光線を乱射。

 そして親父のように、大斧を喚び出して構える。


 魔法融解で螺旋光線を防ぐナナシに向けて。

 地面を蹴って捲り上げて、真っ直ぐに、正面。


 疑似加速改に付き合ったことによりスキルは現在『加速』と『潜在解放』に固定。

 武器はなく、光線魔法の嵐を防ぐため魔法融解を展開して足を止めた。


 余韻も残らない、これは一撃だ。


 疑似加速改から身体強化の重ね掛けの反動を受け止める負荷耐性部分硬化を用いた大斧による一撃必殺。

 結局僕にはこれしかできない。


 衝撃で空間ごと歪み。

 瞬きにも満たないほどの速さで。


 ナナシは拠点最深部から外壁を砕いて貫きながら、ぶっ飛ぶ。


 その瞬間。

 大斧で打ち抜かれて、ぶっ飛ぶその一点。


 穏やかに、とても優しく、嬉しそうに、満足げに。


 ナナシは穏やかに、微笑んだ。


 そして第二宇宙速度を超える速さで、ぐしゃぐしゃのナナシが宇宙空間へと投げ出された。


 達成感も余韻も感じる間もなく即、材質変化で最深部の壁の穴を塞いで。


「……っ、はぁ――――――――――……っ、はぁ――――――――――……っ」


 僕はとてつもない疲労と魔力枯渇と身体に残った棒ヤスリの重さと損傷で、膝を付いて大きく息をする。


 勝った……。

 これ以上なく全力だった、こんなに本気で戦ったのは初めてだ。


 なんて余韻に浸ろうとするも、一息つく間もなく。

 めちゃくちゃ拠点が揺れて、一気に傾く。


「隔壁閉鎖、隔壁閉鎖――損傷甚大、地球表面軌道ノ維持ハ不可。サプライズノア墜落確定、総員タダチニ離脱セヨ――――」


 けたたましいアラートと共に、なんか人っぽくない声のアナウンスが響き渡る。


 墜落確定か……今の一撃で相当ダメージがいったみたいだ。

 どこに堕ちるかは知らんが、下は大体海だし大丈夫だろ……大気圏でほとんど焼けてなくなるだろうし。


 つーか、疲れすぎてやべえ。


 最深部のクロウさんたちが使った『転送装置』は今の戦いで壊れていたため、ライラちゃんたちが脱出に使った『転送装置』を目指すことにした。流石に修理とかはできない、複雑すぎる。


 場所はライラちゃんを魔力感知していたのでわかる……、何とか移動しよう。


 最低限の回復は出来たが、身体には棒ヤスリが突き刺さったままで出血も止めきれてない。

 抜いた方が動けるか? いや流石に出血の方が上回るか……。

 やべえ……アドレナリンとかが収まってきて痛みが駆け巡っている。力も入らないし頭も回らねえ、壁伝いに何とか歩く。


 隔壁をなけなしの魔力で壊しながら、なんとか『転送装置』の部屋へと辿り着くも……なんかめっちゃぶっ壊れてる。


 部屋には【ワンスモア】のものと思われる四人の死体。

 戦闘があったのか……、でも四人の他に死体はない。全員脱出は出来ているみたいだ。


 でも、ライラちゃんが使ったであろう『転送装置』もぶっ壊れていた。


 おいおい……、マジかよ脱出できないじゃんか……これ。


 さらに大きく拠点揺れる。


 どうにも星の引力に引かれているようだ。

 転移魔法で跳ぶにしては慣性が乗りすぎている。

 これだと超長距離転移しても、落下速度でぺしゃんこだしそもそも超長距離転移が出来る魔力も残ってない。


 わりと絶体絶命、意識も朦朧としてきた……。

 僕は膝から崩れるように倒れ込む。


 あーくっそ……これは死ぬな。


 悔しい……くっそ、マジにめちゃくちゃ悔しいな。

 いやライラちゃんを救出して、攫ったやつはぶっ殺したからやり遂げてはいるんだけど。


 認めざる得ない。

 あいつの言った通りだ。


「畜生……面白かった、楽しかったな……実際」


 僕は心からそう呟いた。


 ああ、面白かったんだ。

 ナナシの言っていたことは、僕の慢性的な不満そのものだった。


 非日常的なスキルや、魔物と戦ったり。


 大切なものを守り、そのために戦うという明確な目的があって。

 今まで積んできた鍛錬、修練、訓練、経験を余すことなく吐き出して。


 己の命を燃やして、最強の敵と対峙する。


 ああ……。

 僕は今日、最高に冒険者だった。


 ずっと憧れていたんだ。

 本当に、ずっと、夢にまで見た。


 これが僕の思い描いた、冒険者だ。


 そんな不謹慎な満足感の中。

 バランスを崩した宇宙拠点は星の引力に引かれて。


 大気圏に突入した。


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