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エピローグ

01エピローグ

 この世界について少々聞いておくれ。


 とりあえず。

 歴史の話とかじゃあなくて、これはわりと最近の話だ。


 この世界には昔、スキルって超常的な力を使える力とか人の力を数値化するステータスウィンドウやらってのを用いて魔物なんていうわけのわからない害獣と戦いを繰り広げていた。


 これは大昔に魔法がない異世界から来た異世界人が

魔物やスキルやらを生み出す装置を造って放置したことによるものだったらしい。


 まあもう二十年前にはなかった、僕が生まれる前の話だ。


 全然知らないし、昔のこと。

 過去形、いずれおとぎ話になることだ。


 でも最近、ほんの数ヶ月前まで本気でおとぎ話の世界に戻そうしていたやつらがいた。


 昔は良かった。楽しかった、面白かった。

 そんな昔にしか生きられなかった人たちが、情熱のまま狂気に燃えて世界を元に戻そうとした。


 人も国も世界も、何も顧みず。

 ただ自分たちの理想のために、青春のためだけに動いたやつらがいた。


 この世界は、無いなら無いなりに安定していたしスキルやら魔物が無くなったおかげで魔力との親和率も上がって人類全体の魔法習熟度や魔道具や魔動機械も飛躍的に発展して別に不自由はなかった。


 ただ、うっすらとした懐かしさだったり……なんだろう、ノスタルジックな感傷のようなものが大人たちには残り続けた。


 でもそれはいずれ無くなるもの。

 もう五十年も経てば当事者は居なくなり百年も経てばおとぎ話となるようなものだ。


 そうなる前に、忘れ去られる前に、もう一度かつての世界を取り戻そうと動いた。


 その結果、帝国史上最悪の同時多発テロ。

 人造魔物や再現スキルにより、帝国各地で民間人を巻き込む大規模な襲撃。

 人的被害は重軽傷者は三万人以上、死者は一万人を超える。

 さらに、過去の拉致被害者や襲撃事件も含めると被害を把握しきれない域まで膨れ上がるらしい。


 それでも、これは最小限の被害だ。


 帝国軍や前時代を駆け抜けた生き残りの大人たちによって帝都襲撃も迅速に鎮圧され、大型人造魔物による大氾濫は阻止された。


 これが阻止できてなかったら被害は……というか帝国はほぼ壊滅状態で、人造魔物に対抗するために人々はまたスキルを求めていただろう。


 でも阻止できた。

 まあ、だからこれも過去の話。


 既に本拠地は壊され、構成員のほとんどは検挙ならびに死亡。

 人造魔物を生み出す機構も、再現スキルの生み出し方も消滅し。

 首謀者である男も、宇宙空間へと消えた。


 もういない。

 いや、もしかするとまだ同じ思想を持つ残党がいるかもしれないけど同規模の活動は不可能だろう。


 だからこれも、そのうち歴史の話になる。

 しかし、何も残らなかったわけではない。


 このつまらない世界を面白くしてやろうという狂気は、ライト帝国に凄まじい傷痕を残したし。


 潜在的な、昔への憧れの増長も招いた。


 それと同時に、不謹慎な達成感。

 一部の、かつてそれに生きていた者たちが感じてしまった不謹慎な高揚と情熱。


 世界はつまらなかった。


 そして、世界は面白くなりかけた。


 それでもまた、世界は続いていく。


 そんな最近の、世界の話。


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