いつも真面目に授業を受けているアンジェリカだったが、今日だけは違った。
セラヴィとローズマリーの話が気がかりで、とてもでは無いが授業に集中出来なかった。
その為、何度か先生から注意を受けてしまう羽目になるのだった……。
――昼休み
今日は天気が良かったので、アンジェリカはアナと一緒にカフェテラスで食事をしていた。
「それにしても、ヴェロニカさんは酷い人だわ。何も教室であんな話をする必要は無いじゃない」
「そうね……」
上の空で返事をするアンジェリカ。
「ねぇ、大丈夫? 顔色が悪いわ。今日は早退したらどう?」
アナは心配そうに顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫。平気よ」
チャールズは勉強に対して厳しい。もう同じ屋敷に住んでいないとはいえ、万一早退したことがバレたりすれば、タダではすまないだろう。
「……ねぇ、アンジェリカ。さっきのヴェロニカさんの話だけど……セラヴィが他の女性と一緒に演奏会に行ったって話は本当なの?」
アナが躊躇いがちに尋ねてきた。
「ええ、本当よ」
コクリと小さく頷く。
「そんな……どうして? だって、あなた達は親が決めた婚約者同士だったけど、相思相愛だったじゃない!」
「……私もそう思っていたわ。セラヴィは子供の時に決められた婚約者だったけど、彼のことが大好き。セラヴィも同じ気持ちだと信じたいけど……」
でも、その自信が揺らぎそうになっている。
「そうよ! 絶対に何か理由があるはずよ! だって本当にセラヴィはアンジェリカのことを大切にしてくれているじゃない。ねぇ、何か心当たるんじゃないの? 教えてよ、私達親友でしょう? あなたの力になりたいのよ」
真剣な眼差しで見つめてくるアナ。
「アナ……分かったわ。聞いてくれる?」
「ええ、教えてちょうだい」
そこでアンジェリカは全てを語ることにした。
異母妹のローズマリーがアンジェリカの部屋を欲しがったこと。けれど、この部屋は亡くなった母が自分の為に用意してくれた部屋だから渡せないと断ると、父親に叩かれて意識を失ったこと。
その翌日、学校から帰って来ると自分の部屋の家具が運び出されて離れにある古い屋敷に追い出されてしまい、今はそこで暮らしていることを。
初めのうち、アナは驚きの表情を浮かべていたが、最後の方は泣きそうな顔になっていた。
「……それで私は今、離れの屋敷に住んでいるのよ。セラヴィはそのことを知らずに、いつものように屋敷に来てくれたのよ。私は父から二度と屋敷に入るなと言われていたから様子を見に行くことも出来なかったの。誰かセラヴィを連れて来てくれるだろうと思って待っていたけど……」
そこでアンジェリカは涙ぐむ。するとアナが突然抱きしめてきた。
「もういいわ! それ以上話さなくて!」
「ア、 アナ……?」
「可哀そうなアンジェリカ……部屋を奪われたばかりか、追い出されてしまったなんて酷すぎるわ……!」
アナは涙声だった。
「アンジェリカをこんな目に遭わせるなんて許せないわ! きっとセラヴィに都合の良いことを言って、無理やり演奏会に連れて行かせたに違いないわ。あんな人達でもアンジェリカの家族だから、セラヴィは断れなかったに決まっているわよ!」
「アナ……ありがとう……」
アンジェリカはアナの腕の中で、暫くの間すすり泣いた――