ひとしきり泣いた後――
「どう? アンジェリカ。少しは落ち着いた?」
アナがアンジェリカの髪を撫でる。
「え、ええ。落ち着いたわ、ありがとうアナ」
目元の涙を拭いながら笑みを浮かべた。
「ねぇ、アンジェリカ。気分転換も兼ねて、暫くの間私の家に来ない? 両親もきっと歓迎してくれると思うわ」
「ありがとう、でも気持ちだけで充分よ。離れには私の為にわざわざついてきてくれた使用人達がいるの。その人達の為にもいないといけないわ。それに万一お父様が様子を見に来て、私がいなかったらヘレナ達に迷惑をかけてしまうかもしれないもの」
自分に無関心な父親が様子を見に来るとは思えなかったが、アナの家に迷惑をかけたくは無かったのだ。
「そう……? それなら仕方ないわね。でも本当に辛くなったら、遠慮なく言うのよ? いつでも私は待っているから」
アナが手を取り、握りしめてきた。
「ええ、分かったわ。その時はよろしくね?」
アンジェリカはアナの手を強く握り返すのだった――
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――放課後
「アナ。それじゃ、また明日ね。日直の仕事、頑張ってね」
帰り支度を終えたアンジェリカは、黒板の文字を消しているアナに声をかけた。
「ええ。また明日。帰りにセラヴィの家に寄るのよね? 頑張ってね」
「分かったわ、頑張るから」
何をどう頑張れば良いのか分からないが、親友がかけてくれた心強い言葉に頷く。
「明日、どんな話し合いになったのかちゃんと教えてよ?」
「勿論よ。私も色々アナに話を聞いて貰いたいし」
「フフ、そうね。楽しみに待っているわ」
2人は笑顔で言葉を交わし、アンジェリカは教室を出て行った。
**
「アンジェリカ様!」
学校内の馬繋場へ来てみると、アンジェリカを迎えに来た馬車の前でヘレナが手を振っている。
「え? ヘレナ? どうしてここに?」
アンジェリカが駆け寄るとヘレナは笑顔で迎えた。
「お帰りなさいませ、アンジェリカ様。本日はセラヴィ様の屋敷に行かれるのですよね? 私も御一緒させて下さい」
「本当? ありがとう。実は1人で行くのが少し不安だったのよ」
自分の素直な気持ちを打ち明ける。
「恐らくそうだと思っておりました。なのでお迎えに伺ったのです」
「フフ。ヘレナには何でもお見通しね」
「はい、私はアンジェリカ様が赤ちゃんの頃からお世話させて頂いていますから。では馬車に乗りましょう」
「ええ」
アンジェリカは頷いた――
「ヘレナ。お父様は離れに来たかしら?」
馬車が走り出すと、早速アンジェリカは尋ねた。
「……いえ、いらしていません」
「そう。やっぱり、お父様は私に何の関心も無いのね」
「アンジェリカ様……」
ヘレナの目に同情が宿る。
「それより聞いて頂戴。今日、私学校でね……」
アンジェリカは自分の不安な気持ちを隠す為、馬車がセラヴィの屋敷に到着するまでの間、ヘレナと会話をし続けた。
(大丈夫、セラヴィがローズマリーと2人で演奏会へ行ったのは些細なことよ。セラヴィを信じるのよ……
アンジェリカは自分の心に、言い聞かせるのだった――