馬車がブライトン家の裏門に到着した。
「アンジェリカ様、到着したようですね。急ぎましょう」
「ええ、そうね」
アンジェリカとヘレナは馬車から降りると、急いで離れの屋敷に向かった――
「おや? お帰りなさいませ、アンジェリカ様」
離れに到着すると、壁の修繕をしていたフットマンのロキが挨拶してきた。
「ただいま、ロキ」
小走りでここまで来たので、アンジェリカは息を切らせながら返事をした。
ヘレナは息が上がって、話すことも出来ずにいる。
「そんなに慌ててお帰りになるとは。お2人とも、一体どうなさったのです?」
不思議そうに首を傾げるロキに、アンジェリカは尋ねた。
「ねぇ、ロキ。私にお客様が来ていないかしら?」
「お客様ですか? いいえ、いらしておりませんが」
途端にアンジェリカの顔が青ざめる。
「そ、そんな……」
あまりのショックに足がよろめく。
「アンジェリカ様! しっかりなさって下さい!」
咄嗟にヘレナは支えるも、アンジェリカは返事をしない。あまりのショックで意識を失ってしまったのだ。
「大変……気を失っているわ! ロキ! アンジェリカ様をお部屋に運んでちょうだい!」
「分かりました、アンジェリカ様。失礼いたします」
気を失っているンジェリカをロキは軽々と抱き上げると屋敷の中へ入り、その後をヘレナが追った。
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「え!? アンジェリカ様!?」
アンジェリカの部屋ではニアが掃除をしていたが、ロキに運ばれてきた姿に驚いて駆け寄ってきた。
「アンジェリカ様が気を失ってしまったので、運んで来たんだよ」
ロキは2人の見ている前でアンジェリカをベッドにそっと寝かせると、仕事の続きがあるのでと言って部屋を出て行った。
「ヘレナ様。アンジェリカ様は一体どうなさったのですか? 今日は学校の帰りにセラヴィ様のお宅へ行かれたはずですよね?」
ニアは意識を失っているアンジェリカを見つめながら尋ねた。
「ええ、そうよ。アンジェリカ様と一緒にヴァレンシア家を訪ねたわ。でも、セラヴィ様はいらっしゃらなかったのよ」
ヘレナは重い口調で説明する。
「いらっしゃらなかったって……ひょっとして何処かへ出掛けているのですか?」
「そうなの。出迎えてくれたフットマンが教えてくれたわ。セラヴィ様はブライトン家に行ってるって」
その話にニアの顔が青ざめる。
「え? でもセラヴィ様はこちらにはいらしていませんよ? あ……。もしかしてセラヴィ様は……本宅へ行かれているのでしょうか?」
「ニアもそう思うのね。誰も私たちに知らせてくれないと言う事は……アンジェリカ様に会わせないつもりなのよ。多分ローズマリー様がお相手しているはずよ」
何しろ、昨日も2人は一緒に出掛けているのだ。
「そんな……酷い。セラヴィ様はアンジェリカ様の婚約者なのですよ? それにお2人は本当に愛し合っていらっしゃるはずなのに……あんまりです!」
悔しそうに唇を噛むニア。
「でももしかしたら何か行き違いがあるかもしれないわ」
ヘレナはセラヴィの裏切りを信じたくはなかった。
「確かに、ヘレナ様の言う通りかもしれませんね。セラヴィ様から話を聞くまでは疑うのは良くないですよね?」
「ええ。元はと言えば、旦那様がアンジェリカ様を屋敷から追い払ったのが全ての原因ですから」
その時。
「う~ん……」
アンジェリカが小さく呻き、目を覚ました――