「アンジェリカ様、気づかれましたか?」
ニアはアンジェリカを覗き込んで、声をかけた。
「ニア……? ここは……私の部屋よね?」
ベッドに横たわったまま、アンジェリカは視線を動かす。
「はい、そうですよ。アンジェリカ様が気を失ってしまったので、ロキがお部屋まで運んで来たのです。お加減はいかがですか?」
優しい声で尋ねるヘレナ。
「そうだったの……。後でロキにお礼を言わなくちゃ。ありがとう、もう大丈夫だから」
アンジェリカはゆっくりベッドから起き上がり……途端に悲し気な顔になる。
「セラヴィ……どうして……?」
「アンジェリカ様……」
ヘレナはアンジェリカを抱きしめた。
「セラヴィに会いたいわ……私、ひょっとして彼に嫌われるようなことをしてしまったのかしら……?」
ヘレナの腕の中で、アンジェリカはすすり泣く。そんなアンジェリカを抱きしめながら、ヘレナはきっぱり言った。
「いいえ! アンジェリカ様のように、お優しい方が誰かに嫌われるようなことをするはずがありません! このヘレナが保証いたします!」
「だけど……」
涙で濡れた顔を上げるアンジェリカ。するとニアが立ち上がった。
「もう我慢できません! 私、もう一度本宅へ行ってきます! そしてセラヴィ様をこちらへ連れて参ります!」
「え!? 一体どうやって連れてくるつもりなの!?」
「そんなことは決まっています。昨日のように私だとバレないように変装して屋敷へ入りこむのです。セラヴィ様を見つけたら、アンジェリカ様がここにいることを伝えるのです」
ヘレナの問いかけに答えるニア。
「ニアの気持ちは嬉しいけれど……それは危険じゃないかしら。正体がばれたらどうするの? 私の為にニアを危ない目に遭わせたくは無いわ」
「御心配していただき、ありがとうございます。アンジェリカ様。ですが例え、私の正体がバレたとしても大丈夫です」
ニアは笑顔になる。
「え? ニア、それはどういう意味なの?」
ヘレナが首を傾げた。
「確かに、旦那様はアンジェリカ様に二度と屋敷に足を踏み入れるなと仰いましたが、私たちには言っておりません」
「あ……言われて見れば……」
「確かにそうね」
アンジェリカとヘレナがその事に気付く。
「なので、大丈夫です。何も心配するようなことは起こりませんから。私にお任せ下さい」
「それではニア。セラヴィのことをお願い」
「はい、でアンジェリカ様。口頭で伝えられなかった場合を考えて、セラヴィ様にメモを書いていただけますか? セラヴィ様はアンジェリカ様の筆跡を御存知なのですよね?」
「ええ、知っているわ。何度か手紙を書いたことがあるから」
「成程……確かに、私達のメモよりもアンジェリカ様が御自身で書けば信ぴょう性があるわね。ではアンジェリカ様、すぐにセラヴィ様に宛ててメモを書きましょう」
「分かったわ。ヘレナ」
アンジェリカは早速セラヴィにメモを書き、その間にニアは昨日同様、眼鏡を掛けて髪型を変えた。
「……書けたわ。それじゃ、ニア。お願い出来る?」
「ええ、お預かりします。必ずセラヴィ様にアンジェリカ様がこちらにいらっしゃることを伝えて参りますね」
ニアはアンジェリカからメモを預かると、2人に見送らながら屋敷へ向かった――