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6章 2 セラヴィの訪問 2

 アンジェリカは離れに戻るとリビングの扉から中を覗き込んだ。


すると背中を向けてソファに座るセラヴィの姿がそこにあった。


(セラヴィ……一体何をしに来たのかしら……会いたくは無かったのに)


けれど家にあげてしまった以上、会わないわけにはいかない。

何しろ今も名目上、セラヴィは婚約者だからだ。


「どうされますか? アンジェリカ様」


ヘレナが小声で尋ねてくる。


「会うわ。会って……用件を聞いたら、すぐに帰ってもらうわ」


アンジェリカは意を決すると、声をかけながらリビングに入っていった。


「お待たせしました」


「遅いじゃないか」


セラヴィは振り向き……眉を顰めた。


「何だ? その貧相な姿は。しかもエプロンまでしているなんて」


「外で畑仕事をしていたので、エプロンをしていました」


「畑仕事だって? そんなことしていたのか?」


アンジェリカは向かい側の椅子に座り、その背後にヘレナとロキがつくとセラヴィは2人に声をかけた。


「使用人は出て行けよ、俺はアンジェリカに用事があってきたんだ」


「いいえ。出て行くわけにはまいりません」

「私たちはアンジェリカ様を見守る立場にありますので」


ヘレナとロキが返事をする。


「ったく……生意気な奴らめ」


忌々し気に2人を睨みつけると、セラヴィは膝を組む。その姿はとても横柄で、アンジェリカはいやな気分になった。


(知らなかったわ……セラヴィはこんなに横柄な人だったのね。8年も一緒にいたのに、私はその事に気付けなかったなんて……)


するとアンジェリカの視線に気付いたいのか、セラヴィは視線を向けてきた。


「何だよ。その顔は。何か言いたげだな」


「いいえ、別に何もありません」


「ふん、そうか。それにしても、酷い場所だ。よくもこんな場所に住んでいられるな。俺だったら絶対に無理だな」


「今日、こちらへいらした理由を教えていただけますか?」


何処までも馬鹿にしたような態度を取るセラヴィだったが、アンジェリカは冷静に対応した。


「その様子だと、本当に何も知らされていないようだな」


「一体なんのことでしょうか?」


「昨日、ローズマリーが子供を産んだ。生まれた子供は女の子だった」


「! そう……ですか」


これには流石のアンジェリカも驚いた。勿論ヘレナもロキも同様に。

「子供を産んだのはローズマリーだが……表向きはアンジェリカ、お前が産んだことになる。どうだ? 未婚で、しかも自分が産んだわけでもないのに母親にさせられる気分は」


もうこれ以上、ヘレナは聞いていられなくなった。


「セラヴィ様! あまりにも言葉が過ぎるとは思わないのですか!?」


「黙れ! 使用人の分際で生意気な口を叩くな!」


「私はアンジェリカ様の使用人であり、セラヴィ様の使用人ではありません!」


ヘレナは尚も言い返す。するとセラヴィは口角を上げた。


「ふ~ん……いいのか? 俺がお前の態度が悪いと伯爵に報告しても」


「! そ、それは……」


言葉に詰まると、アンジェリカが素早く反応した。


「ヘレナ、セラヴィに歯向かわないで」


「アンジェリカ様……ですが……」


「お願いよ、ヘレナ。あなたにまでもしものことがあったら……」


「分かりました……」


不本意だが、ヘレナは頷く。すると調子に乗ったのかセラヴィがさらに要求してきた。


「よし、なら2人とも。部屋を出て行け、アンジェリカと2人だけにさせろ」


「「!!」」


この言葉に、ヘレナとロキは息を飲んだ――




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