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6章 3 セラヴィの訪問 3


「何故私たちが部屋を出て行かなければならないのですか!?」


「そうです! そんなのは間違えています!」


ヘレナとロキが交互に訴える。


「うるさい! 俺はまだ名目上はアンジェリカの婚約者だ! 婚約者と2人きりになって何が問題だって言うんだよ!」


怒鳴りつけるセラヴィ。


(このままではいけないわ……! セラヴィがお父様にヘレナとロキの態度が悪いと訴えたら、どんな目に遭うか分からないわ……)


そこでアンジェリカは声を上げた。


「2人とも! お願い、部屋を出て!」


「アンジェリカ様……」

「そんな……」


ヘレナとロキが青ざめた表情でアンジェリカを見つめた。


「私とセラヴィ様の2人にさせて。お願い」


アンジェリカに言われてしまえば、2人は従うしかなかった。


「わ、分かりました……けれど、その代わり部屋の扉は開けさせておいていただきます」


ヘレナが言うと、セラヴィは手で追い払う仕草を見せた。


「フン、勝手にしろ。早く出て行け」


まるで追い払われるように2人が部屋を出て行くと、セラヴィは腕組みしてアンジェリカに話しかけた。


「……これで、やっと2人きりになれたな」


「……」


けれど、アンジェリカは返事をしない。かつては愛した相手だったが、今では父親と同等。恐怖の存在でしかなかった。


「何だ、返事も無しか。本当に可愛げのない女だ。ローズマリーとは大違いだな」


ローズマリーの名前を出され、アンジェリカの肩はピクリと動き……口を開いた。


「まだ……他に、私に何か御用でしょうか?」


するとセラヴィは舌打ちした。


「チッ! 何だ、その言い方は。気に入らないな」


「申し訳ございません。ただ、ローズマリーの出産以外……他にどのようなお話があるか、見当がつかなかったものですから」


なるべく静かな声で返事をする。


「分からないのか? いいか? 世間ではローズマリーは妊娠、出産したことにはなっていない。お前が出産したことになるんだぞ? そうなると必然的に相手は婚約者である俺になってしまうだろう?」


「そうです……ね」


けれどセラヴィとの間に子を成すことなど、アンジェリカには到底考えられない……あり得ない話だった。

想像するだけで鳥肌が立つ。


「だが結婚前に出産したとなると、俺の世間での評判が落ちてしまう。それだけは絶対に避けなくてはならないんだよ。だからお前が浮気して、子を成したことにしたのだろう? この話、覚えていないとは言わせないぞ」


何処までも身勝手な発言を口にするセラヴィ。


(セラヴィは、本当に自分の身の保身しか考えていないのね。ローズマリーも……私の方が余程世間から白い目で見られるに決まっているのに)


「はい……覚えています……」


セラヴィが怖くて、頷いた。


「そこで、お前の相手を見つけてきたぞ。相手は俺たちより2歳年上だ。覚えているか? 卒業式の日、お前とパートナーを組もうとした時に妨害してきた相手さ。あの現場を目撃した学生たちが大勢いてな。だから、丁度いいから噂を流してやったのさ。アンジェリカはあの男と浮気して子供を産んだって」


「え!?」


(ま、まさか……その人って、私が川に入って死のうとしたところを助けてくれた人のことじゃ……)


「だけど、噂って本当に面白いよな。簡単に広がっていくんだから。そのお陰で、男の身元が判明したのさ。男の名前はライアス・ウォーレン。不愛想な男で、『冷血伯爵』っていうあだ名までついている。どうだ? お前にぴったりの相手だと思わないか?」


そしてセラヴィは意地悪そうな笑みを浮かべた――


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