「酷い……勝手に噂を流して関係ない人を巻き込むなんて……!」
「は? 何が悪いって言うんだ。大体、無関係なくせに俺とお前の間に割って入ったのはあいつだろう? そのせいで、俺は恥を欠かされた。あの日、パートナーも無しでパーティー会場に入った俺の惨めな気持ちがお前に分かるか!? やり返して何が悪い!」
あの日のことを思い出したのか、セラヴィは声を荒げた。あまりにも身勝手な言い分に、アンジェリカは言葉を失う。
「伯爵から、町に出ないように命じられているお前には分からないだろう? 今、町ではお前とライアスという男の話で盛り上がっているぞ。お前は俺という婚約者がいながら、ライアスと浮気をして、子供を産んだってな! 婚約者のいる女に手を出したと、もっぱらな噂だ。あいつも、もうお終いだな!」
「そ、そんな……!」
2度も助けてくれた相手が、自分のせいで追い詰められている……。その事実を知り、アンジェリカは目の前が真っ暗になった。
(どうすればいいの……会って謝罪したいけれど、その人が何処にいるかも分からない。それに謝罪したところで、もう取り返しもつかないわ……)
余りのことに打ちひしがれていると、セラヴィの顔が険しくなる。
「何だよ、その態度。随分気落ちしているようだが……もしかして、お前……本当にあの男と知り合いだったのか?」
「え……?」
(セラヴィは何を言っているの? 私がその男性と知り合いなんて……そんなはずないのに)
「そうか……否定しないってことはやっぱり、そういうことだったんだな? お前、あの男と知り合いだったんだろう? だから俺を拒絶していたっていうのか?」
ガタッ!
セラヴィは椅子から立ち上がった。
「セ、セラヴィ……?」
鋭い目で睨みつけられ、恐怖で身体が動かない。
「俺たちは婚約者だっただろう? なのにキスはさせても身体を許さなかったのは、あいつがいたからなんだろう? だから俺はローズマリーに誘惑されてこんなことになってしまった。……全てお前のせいだ」
震えているアンジェリカに近付くと、セラヴィはアンジェリカの両肩を力強く掴んできた。
「っ!」
その力はとても強かったが、今は痛みよりも恐怖の方が混ざっていた。
「許さないぞ……この俺を裏切るなんて……!」
「そんな! 裏切ってなんか無いわ! 裏切ったのはセラ……んんっ!」
突然の乱暴なキスで、アンジェリカの言葉は塞がれる。
「んんーっ!!」
恐怖と嫌悪感でアンジェリカは必死で首を振って逃れようとしても、男の力に適うはずが無い。
(いやあぁぁっ!! やめてっ!! だ、誰か助けて!!)
暴れるアンジェリカにセラヴィはのしかかり、キスしながら言う。
「そうだ……最初からこうしていれば良かったんだな……アンジェリカ……」
セラヴィの舌が無理やりアンジェリカの口をこじ開け、侵入してくる。
「んんっ!! んんーっ!!」
(いやっ!! 気持ち悪い……やめてっ!!)
恐怖と嫌悪感でアンジェリカの目に涙が浮かんだその時――
「何をしている!!」
部屋をビリビリと震わせるような怒声が響き渡り、セラヴィは慌ててアンジェリカから離れた。
(誰……?)
ボンヤリした頭でアンジェリカは顔を上げ……驚きで目を見開く。
(お……父様……?)
部屋に現れたのは、怒りの表情を浮かべたチャールズだったのだ――