緑道を走り抜けた馬車は、大きく開閉された門を潜り抜けるとウォーレン邸宅の全貌が見えてきた。
真っ白で2階建ての邸宅。
門から屋敷迄真っすぐに伸びた幅広の馬車道を挟むように作られた芝生の美しい庭園。左側には噴水が設置され、勢いよく水を噴き上げている。右側の芝生には美しい花壇が並んでいる。
「すごい……ブライトン家より、ずっと大きいわ……それに何て奇麗な庭なのかしら」
アジェリカが感嘆の言葉を口にすると、ニアも同調する。
「ええ、本当ですね。私もそう思います」
2人の会話を聞いていたライアスが声をかけてきた。
「ウォーレン家を気にいってくれたか?」
「はい、とても気に入りました。特に花壇が素敵です」
笑顔で答えるアンジェリカ。
「それは良かった。この庭は……」
そのとき。
「フウェエエエエン……」
眠っていたエルマーが再び弱々しく泣き出した。
「いけない。又泣き出してしまったわ。よしよし……」
アンジェリカは再びエルマーをあやす。
「メイド達には赤子が来ることを伝えてある。屋敷に着いたら、すぐに用意した部屋へ案内させることにしよう」
「ありがとうございます」
アンジェリカとライアスの様子を見つめながらヘレナは思った。
2人は、もう既に夫婦の様だ――と。
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馬車が屋敷の前に到着した。
3人が馬車を降りるとすぐに扉が開かれ、10人前後の使用人達が出迎えに現れた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
初老の男性がアンジェリカたちの前に進み出てくると会釈をした。
「ああ、帰って来た。彼女がアンジェリカ・ブライトン。そして侍女のヘレナだ。赤子が泣いている。すぐに部屋の用意をしてくれ!」
「はい、ライアス様。どうぞこちらへお越しください」
ライアスの言葉に年配の女性がアンジェリカに近付いて声をかけてきた。
「初めまして、アンジェリカ様。私はこの屋敷のメイド長を務めております。まずはすぐにお子様のお世話を致しましょう」
「はい、お願いします」
泣いているエルマーを抱きながらアンジェリカが礼を述べると、ヘレナが言った。
「アンジェリカ様、私も御一緒させて下さい」
「ええ、勿論よ。一緒に行きましょう」
「では、こちらへいらして下さい」
メイド長の案内で、アンジェリカとヘレナは用意された部屋へと向かった――
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連れて来られた部屋は日当たりが良く、とても広々とした部屋だった。
部屋の中央にはベビーベッドが置かれ、メリーが取り付けられている。床の上には木馬やおもちゃが並べられていた。
「まぁ、この部屋は……」
「素敵なお部屋ですね!」
部屋の様子を見たアンジェリカとヘレナは驚きで目を見張る。
「このお部屋はライアス様に命じられて用意させていただきました」
「ライアス様が?」
「はい。そうです」
頷くメイド長。
「アンジェリカ様。すぐにエルマー様のオムツとミルクを用意いたしましょう」
「ええ、そうね」
ヘレナの言葉にアンジェリカは頷き、泣きじゃくるエルマーをベッドに下ろすと、オムツ交換を始めることにした――