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第123話 お土産のお餅に狂喜乱舞する


「はい、胡麻好きかな?」


フェンネルは、念願のお餅でしょ?とつきたてのお餅を乗せたお皿を渡してきた。

 上にはたっぷりのごま餡がかかっていて、香ばしい香りがする。


 実は、酒をこよなく愛する芽依は、胡麻も好きなのだ。

 ごま餡はもちろん、胡麻風味のあんまんも大好物で冬の寒い中ハフハフして食べたいのは肉まんよりあんまんである。

 面倒くさがりで料理が苦手な芽依は、何故か胡麻のペーストジャムや、手作りの胡麻あんまん等を上手に作る。

 好きこそ物の上手なれ、を地で行くタイプなのだ。


「胡麻っ!!」


「駄目だった……?」


「最高のチョイス!」


 そういえば、こちらに来て初めての胡麻だ!!とつきたての餅を口に入れた。

 アツアツの餅はよく伸びて、1口端を食べるとにょーーーーん!と伸びる。

 切れずに悪戦苦闘すると、横からふはっ!と笑い声が聞こえ、餅を伸ばしながら見ると、涙を流し笑うフェンネルがいた。

 上品に人差し指で涙を拭い、モチモチと口を動かす芽依を見ている。


「お………………おいしい?」


 口に入って返事が出来ないから、頷いて答えると、また笑うフェンネルはハンカチを取りだしてちぎれた餅を食べる芽依の口端を拭った。


「よかった」


 胡麻が口に付いていて、それを取るフェンネルをおばあちゃん達が頬を染めて見ている。


「もう少し若かったら私もらぶらぶしたかったわぁ」


「あらやだ!あんた旦那いるじゃないの!」


「ヨボヨボの爺さんじゃないのー。あの綺麗な妖精さんに熱く抱かれたい人生だったわぁ」


 そういうおばあちゃんの旦那さんなおじいちゃんは、声を張り上げ杵を振るっている。

 決してヨボヨボじゃなく、むしろそこらの青年よりもガタイがいい。

 鍛え方が違うのは一目瞭然だ。

 それをヨボヨボと言う百戦錬磨のおばあちゃん。

 やはり、どの世界も女性は強かった。



 沢山のお餅を食べた芽依は、ニコニコと差し出すおばあちゃん達の好意を断れなかった。

 最後は困ったように笑う芽依の食べ残しをフェンネルが受け持ってくれたくらいである。

 でも、久々の餅に感動した芽依を見て、今度はおじいちゃん達が張り切って杵をつき餅を作るスピードが早まった。

 すごい速さで出来上がる金塊サイズの餅の塊が高く高く積み重なり、呆然と見上げてしまう。


「お土産に持っていかんかね?」


「いいんですか?」


「勿論!ワシらは食べ飽きたわい。こんなにいらんいらん」


 笑い飛ばしながら言うおばあちゃん達。

 食べるのも楽しいが、みんなで集まって餅つきをして騒ぐこの雰囲気が楽しいらしい。

 そして毎年大量に余る餅を保存して1年を通して食べ切るらしいのだが、食べ飽きるので困りものらしい。

 他の領地では食べ慣れない餅なので、流通もしていなくシャリダンの年寄り達の非常食としても置いてあるのだとか。


「是非!沢山頂きたいです!…………私の故郷にお餅があって久しぶりに食べたので」


「あらやだよ!!沢山詰めなきゃ!ほら!みんなー!!」


「どうする?もう全部いる!?去年のまだあるからいらんのよね!」


「あらいいじゃない!!時間停止しちゃいましょ!ほらいくわよー!」


「え……全部!?」


 まだまだ作られていく餅をどんどん包んでいくおばあちゃんに、張り切り出来上がっているのは時間停止の魔術を一気に掛けているおばあちゃん。すかさず袋に入れて持たせてくれる。


「…………あ、あのお礼に」


 箱庭にしまう途中、芽依は様々な野菜や肉を出しシャリダンの人達の目をギラつかせた。

 小さな街の為、大きな市場のような場所が1箇所あるだけで物珍しい物が無いため、芽依のブリブリに太った野菜達に主婦のおばあちゃん達がキラキラとしているのだ。


「餅より断然こっちだわー!!」


 結果的に大喜びされ、大量の餅を持たされた。

 街の人1年分以上の餅の量である。

 箱庭の餅×∞な表記に乾いた笑いを出しつつ、胡麻の産地らしいので、胡麻も大量購入。


「あ……あの、お米はありますか?」


「米?あるにはあるけど誰も食べないから買い付けしてないんだよ。いる?買っておこうか?」


「是非に!是非にお願いいたします!!主食なんです!!」


「あらまぁ!それは大変じゃないか!!すぐに手配したげるから待ってな!どれくらい居る!?1年分で足りるかい!?」


「3年分ください!私一人じゃないので!!」


「よしきた!!」


「待って待って!箱庭持ちよこの子!なら一緒に稲も頼んだら!?米作る?」


「きゃぁぁぁぁぁあああ!!お米作るぅぅ」


 一斉にバタバタと走り出したおばあちゃん達を見送った芽依は、フェンネルを振り返り首に手を回して抱き着いた。

 ぴょん!とジャンプした事で芽依全身を支えるフェンネルの鼻腔にベールで遮られているはずの芽依の甘い香りが漂い目を細めた。


「うわぁぁ!お米だぁ!連れてきてくれてありがとうフェンネルさん!!」


「…………いいんだよ、メイちゃんが喜んでくれて良かった」




 こうして、異世界でパンを中心に食べていた芽依の食事事情がまた1歩前進した。

 あまりにも幸せな主食の入手という内容にホクホクしてしまい、フェンネルの目付きが少しずつ変わっていってることに芽依は気付いていなかった。














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