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第126話 じゃがいも2年熟成


「………………そんな、そんな酷い事ってないよねぇぇぇぇ」


「ええ、そうですね」


「ううぅぅぅ、植えていた時からな無いなとは思っていましたけど、まさかサツマイモがないなんて……サツマイモが無かったら芋焼酎がない……スイートポテトも、焼き芋もない…………」


「それはどのような食べ物なのですか?」


「…………見た目とか違いますけど、1番近いのはじゃがいもでしょうか……ただ、甘くてデザートなんかの材料にもなります。かなり甘いんです」


「………………甘い芋…………ですか」


 ふむ……と考え込むシャルドネを芽依は見上げていた。


 昨日の夜、芽依はセルジオの部屋に押し掛け酒の相手をさせた。

 その時にたまたま飲んでいた焼酎に興味を持ち聞いたら、まさかの麦焼酎しかなく芋焼酎がこの世界に存在しないというではないか。


 芽依は絶望した。

 スイートポテトは大好きだし、焼き芋は空腹を沈めてくれる優秀な食べ物である。


 なにより、芋焼酎。

 この一言に尽きるのだ。

 そんな原料であるサツマイモがないだなんて。




「……もう、生きていけない……」


 そんな絶望を背負ったまま朝を迎えて庭を手入れをした。

 テンションの低い芽依を心配したハストゥーレはぶどうを手入れしながらチラチラと芽依を見ている。

 最初は親身に声を掛けたメディトークも、原因は酒だと分かり深い息を吐き出して、また酒か!と声を大にした。文字だが。

 しかし、知らない野菜は気になるらしく、後で話すぞ!とだけ言って走り去る鶏を追いかけ、ハストゥーレは、自作らしい杏のお酒を手渡してくれた。


「ご主人様、こちらをどうぞ」


「ん?ありがとう……果実水?」


「いえ、杏酒です」


「ん!?んまっ!!」


 マジマジとグラスに入ったお酒を見る芽依にほんわか笑うハストゥーレ。

 良かった……と零した可愛らしさに酒ではなぃよろめきを感じる。


 あまりの美味しさに困惑し、メディトーク様に叱られます……と緩く首を振るハストゥーレをなだめすかして杏の木をすぐに買いに行く芽依。

 涎を垂らす勢いで楽しみすぎる……と呟き購入終了したと同時にメディトークにばれて2人で仲良くお説教を受けた。


「…………ごめんハス君、巻き込んで」


「光栄です」


 正座させれ一緒に怒られるのが嬉しいのだろうか、ハストゥーレはメディトークの目を盗んで芽依のスカートの端をチマッと摘んでいた。


 そして、しっかり怒られヘロヘロの芽依は仕事を終わらせ悲しそうに領主館に戻って来た。

 今度は情報収集の為に美しい森の妖精探しにあっちへウロウロこっちへウロウロである。


「…………ん?メイ!おいメイ!!あの白の奴隷を…………」


「やめてくださいね」


 丁度正面から来たパーシヴァルに見つかり声を掛けられたが、その場には目的のシャルドネの姿があった。

 芽依は一目散に走りより、がばっ!と腰に抱きつく。


 あの酒を飲み交わし、醜態を晒した事によって芽依のシャルドネへの対応に少し砕かれた雰囲気があるのだ。

 目を丸くしたシャルドネが芽依を見下ろす。


「………………おや?如何しましたか?」


「シャルドネさーん!教えて下さい!」


「はい、どうしましたか?」


「どうしても欲しい野菜があるんですが、この世界にはないんです……なにか類似する物がないか相談させて下さいぃぃぃ」


「類似するやさい、ですか………………報酬、頂いてしまいますよ?」


「応相談でいいですかぁ……」


「ふ……ふふ、ええ、勿論」


 クスリ、と笑ったシャルドネだったが、勿論仕事中で周りには人が往来している。

 ハッ!と思い出し、慌てて離れる芽依を優しく見つめているシャルドネから夜のお部屋訪問を約束してくれて、この場は解散となった。


「おーい!なぁ!!あの奴隷!!」


「いい加減にしてくださいね」


「うわぁ!シャルドネ!やめろ!俺は殿下なんだぞ!!」


 グイッと襟首を掴み遠慮なく引っ張るシャルドネ。

 細い肢体から、自分よりも筋肉が付いているパーシヴァルを引き摺るシャルドネに、人外者は見た目だけじゃない……と頷いた。


「はいはい、分かっておりますよ去勢殿下」 


「きょ……去勢!?」


「…………いえ、間違えました」


「どうやったら間違えるって言うんだ!聞いているのか!? 」


「はいはい聞いていますよ、五月蝿いですね。その口縫い付けますよ」


「おまっ……お前優しくないぞ!」


「………………貴方に優しくして何かいい事ありますか?」


「ま、真顔で言うなシャルドネー!!」


 芽依にしつこくハストゥーレを寄越せと言うパーシヴァルをしっかり抑えてくれるシャルドネに感謝しながら芽依は部屋へと戻って行った。

 あの人どうにかならないのか、と言うかいつ帰るんだ。


 そして夜、シャルドネ訪問までのあいだ少しだけと飲み始めたフェンネルから貰ったお酒が美味しすぎて止まらなかった芽依は、ほろ酔い所かベロベロになるまで飲んでいた。

 わざわざシャルドネが尋ねてくれたのに酔っ払いのまま室内に招き入れ、冒頭に戻るのだ。


 酔っ払いな芽依は、まるで定位置とでも言うようにベッドに連れて行き座させたシャルドネの膝に頭を乗せて足を撫でている。

 真っ白なツルスベの足をさらけ出しているシャルドネの足を見つめて触れ、口に含む。

 今日は止める人がいない、芽依無双である。


「んふふ……ツルスベ……おいもさんは一体何処にいるんだろう……あむあむ」


「……そうですね、甘い芋……」


 ふむ……と悩んでいるシャルドネの足をあむあむ。

 フェンネルの甘い風味とはまた違った旨みの強い味わいらしく、美味しいとあむあむしている。

 不思議とシャルドネはじんわりと感じる美味さや程よい肉の弾力にやさしくあむあむしたくなる。

 その感触が擽ったいらしく、たまに首をすくめて笑っている美しい妖精を見上げて、また更に足を撫でる悪循環だ。


 ちなみに、フェンネルについては思いっきり齧り付きたいらしい。

 甘いお菓子か、お餅かの2択なフェンネルらしくがっつり食べたくなるようだ。

 撫で回すのではなく、押さえ付けて齧りたい。

 馬乗りになり、心ゆくまで齧りたい衝動に身を任せたくなる。

 この世は弱肉強食……らしい。


「………………そうですね、確か2年熟成するととても甘くなる芋が有ると聞いた事がありますよ」


「あるの…………?」


「偶然に出来上がったもので、栽培は上手くいかなかったようです。1回限りのだったらしいですので……作った本人もよく分からずあまり情報はありませんね」


「そっかぁ」


「調べますか?」


「…………出来るの?」


 むくっと起き上がりシャルドネを見ると、優しく微笑んでいる。


「私は森と叡智の妖精ですから。知りえない情報も調べられますよ」


「シャルドネさんかっこいい……」


「おや、それは嬉しいですね」


 また、だっこーとしがみつき肩の服をずらしてあむあむする芽依を抱き締めぽふりと布団に横になる。

 ふわりと広がる緑の髪を芽依は掴んで、顔を上げた。


「……………………報酬は?」


「今貰っていますから、いいですよ」


「…………これは私のご褒美では?」


「私にもご褒美ですよ…………貴方はとても甘いですね……メイさん」


 幸せそうに笑うシャルドネを見て、それでいいなら良いのか……と頷く芽依はぶっ壊れた思考のまま頷いた。











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