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第155話 闇市 3


 店に行くな、と手を振って爽やかに別れたオルフェーヴルにさよならをした芽依は、またメディトークの肩に乗って進み出した。


「びっくりした、こんな所で以前会った人に出会うとは」


『ここは全国から人や人外者が集まるから、ある種の出会いの場でもあんだよ。契約や制約を結ぶために秘密裏に合流したり、他国の情報を持ち込む情報屋に会ったり……まあ、色んなヤツらがいる……彼奴も今は騎士として働いてるが土の最上位精霊だぞ』


「えぇ!?…………セルジオさんといい、ドラムストって強い人多いね?それとも何処もこんな感じ?」


『いや、それはドラムストの土地が人外者を呼ぶのと、あとはアリステアの人柄や強さに惹かれてだな。こうも最上位が集まるのは珍しいぞ』


「………………ちょっと難しそうだから、また今度聞く」


『おう、そうしろ。今は買い物すんだろ?』


「する」


 芽依はひとまず話を終わらせ店へと視線を向ける。

 この闇市は店だけでなく飲食店や休憩スペースなども充実している。

 闇市と聞いて暗く危ないイメージだったが、かなり健全なようだ。


 勿論、人買いや人攫いもいて安全とはかけ離れているが。








『……………………やっぱねぇな』


「ないねぇ」


 2人が探しているのは勿論さつまいもである。

 世界は広い、この世界のどこかにあるのでは無いか?

 この闇市ならあるのでは?と小さな希望を持って来たのだが、やはり安易に見つけられると思うのは甘かったようだ。

 見た事ない品種の野菜は沢山あったが、やはりさつまいもは無かった。


 ぐるりと見て回っている2人だが、勿論何も買っていない訳では無い。

 大量の酒を買ってはメディトークに叱られ、様々なおつまみを買ってはため息をつかれながら芽依なりに闇市を楽しんでいる。


「…………ん?あれなに?」


 少し離れた広場に人集りがあり、芽依は控えめに指を指す。

 それに気付いたメディトークはあぁ……と呟いた。


『ありゃ、オークションだな。登りの色は……茶か……奴隷売買のオークションだ。見るか?』


「…………奴隷のオークション?」


『ああ、闇市では時間によってオークションの内容が変わんのよ。1日5回、そのうちの1回茶色の登りの時は奴隷だな。目玉商品から売れ残りまで様々だ』


「人身売買っ」


『奴隷を買うんだ、そりゃそうだろ』


 ノシノシと歩き出したメディトーク。

 やはり大きいだけあってかなり目立つのだが、後ろからでもよく見える。


「はい、お次は水の精霊!水の精霊だよ!!まだ若く働き盛り!性格も穏やかで反抗心もほとんどない!どうだい!どうだい!!」


「オレが貰う!」


「いや、わたしが!!」


 つり上がっていく金額に司会者はテンションを上げ、その熱気はこの広場全体に広がっている。

 ただ見学の予定が気付いたら買っている人もかなり居て、隣に佇む奴隷にハッ!としている人もいた。


「……凄いね、本当にオークションだ」


『奴隷のオークションはあまり気分の良いもんじゃねぇけどなぁ』


「らくさぁぁぁつ!!!」


 カァァァン!!と鐘を鳴らした司会者に周りの客たちの盛り上がりは激しく、落札した男性は雄叫びを上げている。


 青い髪の女性形の精霊は手に手錠を付けられ足には鎖がついている。

 落札した男性は走り壇上に登って、今しがた手に入れた水の精霊を見て満足そうに頷いていた。


 光の無い眼差しで男性を見上げた女性は、ここに来るまで酷い仕打ちを受けたのだろうか、あまり綺麗な服を与えられなかったのだろう。

 薄汚れたまま新しい主人と奥に連れ立って消えていった。


 それから同じように2人……いや、1人と一匹が買われていった。

 分かったのは、妖精や精霊より幻獣の価格設定がとても低く大安売りのワゴンセールの様な扱いの猫族が売られたのが衝撃だった。


「………………可愛い黒猫だったのに」


『買わねぇなら、変な同情はすんな。お前がしんどいだけだぞ』


「……………………うん」


 ポン、と頭を撫でられ頷く。

 そして、最後の商品!と叫んだ司会者から目を離して離れようとした時だった。


「最後は目玉商品だよ!!オークションにはめったに来ない上玉!特別な白の奴隷だ!!前の主人は老衰だから、この白は綺麗な綺麗な混じり気ない白だ!どうだ!!欲しいか!!」


「まじ……白だ……白だぁぁぁ!!」


「金は惜しまない!!白をくれ!!」


 顔を背けていた芽依は弾かれたように顔を上げた。

 淡く微笑むピンク色をした豊かな髪を持つ妖精のようだ。

 首には白の奴隷紋があり、見えるように首筋は何も覆われていなかった。

 微笑んでいる様に見せかけて目は笑っていないその女性。


『………………まさか、買おうとしてねぇよな』


「………………してないよ。うちの子はハス君だけ。うちの白を私たちは大事にする……ただ、あの表情を見るのは胸に来るね」


『最初のハストゥーレと同じ顔してんな』


 自分は道具で、主人の物。

 それ以上でも以下でもない存在だから、白に自我はいらない、言われた通りに微笑む人形。

 綺麗に着飾った白の奴隷は、沢山上がる手をただ黙って見つめていた。


「うちのハス君はさぁ、この世界での白の奴隷としての価値は無くなったのかもしれない」


『そうだなぁ』


「でも、私達にはあの無表情な白の奴隷が欲しい訳じゃなくて、あの可愛くて甘え下手なハス君だからいいんだよね」


『甘え上手じゃねぇ?』


「………………そうかも。最近のお強請りとか可愛すぎて鼻血でそう」


『やめとけよ』


 うちの子万歳を再認識した芽依は、売られた白の奴隷の女性が幸せに生きれますように、と願いながら広場を後にした。






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