目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第157話 今回の暫定食は骨が折れる


「……なるほど今度は久しぶりのスイーツか」


 青空の中に浮かぶ気球を見上げて息を吐く。

 最近はあまり大変では無い暫定食が続いていたのだが、さて、困ったぞと芽依は腕を組む。


 芽依がいる場所はカシュベルの街中である。

 肥料に混ぜる栄養剤を少し変える為に街にある農作物関係の店にやって来たのだ。

 セイシルリードの所で聞いた所、発注が多く入って在庫不足らしいのだ。

 前回の害獣被害に対応し庭の復興もほぼ終わらせた後、今度は品質向上の為の土に関する物が爆売れ中なようだ。


「………………団子?」


「団子ですね」


「甘味か?」


「あれ、団子知りません?」


「ああ…………そうか、異世界の食べ物か」


 ふむ……と眉を顰めるセルジオを芽依は見上げた。



 今日は休日らしいセルジオが相変わらず朝から芽依の部屋に現れまだ寝ている芽依の布団を剥ぎ取り起こした。

 キャミソールにショートパンツで寝ていた芽依は微睡んでいた時に突如布団を剥がされ飛び起き、まだ働かない頭でセルジオを呆然と見上げた。


「……………………おはようございます?」


「…………………………はぁ」


 寝起きに美しい精霊が勝手に入室して布団を剥がされようが、すでに日常の一コマとなっている為芽依の驚きは半減である。

 これがシャルドネだったら寝ぼけたまま足にロックオンしそうなものだが、セルジオはもうお母さんだ。

 剥がした布団を綺麗に伸ばし足元のベッドに畳んで置いている姿を黙って見ている。

 珍しく丸襟の半袖シャツにチノパン姿で髪も緩く結っている姿に何度か瞬きをした。


「…………ラフな服装も似合いますね」


「一日の始まりの言葉がそれか」


 何故か朝から叩き起され買い物に行くぞ、と準備をさせられた芽依は頭にクエスチョンマークを沢山出しながらもセルジオについて行った。

 珍しくカシュベルに来ていカテリーデンとは違う大型ショッピングモールのような建物、ガーディナーで物色する。

 普段見ない店構えに、高級店が立ち並び芽依はほわぁぁぁ……と眺めていた。

 そんな時だ、店の壁全体に嵌め込まれたガラスから外を見た芽依は、ふと空を見上げると何度もみた気球が浮いているではないか。


「………………あ、暫定食」


「なに?」


 滑らかな手触りの手袋を見ていたセルジオは同じく空を見上げる。

 そして、手袋を置き店から直接外に出れる扉へと向かう為、芽依も着いていく。

 チラリと見ていた女性用の手袋に視線をやってから。



「………………団子とはなんだ?」


「うーん、穀物の粉を水で練って…………蒸す?茹でる?モチモチした食感の団子にタレや餡子とか色々付けて食べるんです」


「…………餅か?」


「似てるけど違うんです」


「………………移民の民の定例会議にでも聞くか」


 今回のようにたまに異世界、つまり芽依やその他の国や星の料理が指定される場合もある。

 食を増やす為に役に立ってはいるのだが、セルジオ達にしてみればまるで知らない料理なのだ。

 困惑する以外にない。

 こんな料理の場合は、気球がいつもより早く上がりリサーチの時間を1週間くれる。

 暫定食まであと2週間、セルジオ達は移民の民から団子を教えて貰う必要があるのだった。




 それから2日後の事、月末にでも始まるはずだった定例会議は急遽早まり部屋に総勢39名の人が集まった。

 芽依が来てから月日がたち、ミカが居なくなっているが、追加花嫁と花婿が来ている。

 今回初参加の人もいて、美しい人外者に目をキラキラとしていたのだが、芽依の隣にいるフェンネルを見て吸い寄せられるようにフラフラと近付いてきた。

 やはり、フェンネルは人間ホイホイなのだろう。

 すぐに気付き今は隠すことなく眉を寄せるようになったフェンネルを見上げる。


「……わ。綺麗……見たことないくらい綺麗」


「触らないでね」


 手を伸ばしてきた花嫁の前に立ちガードする芽依に、ハッ!と目を見開かせている。

 犯罪奴隷の奴隷紋があり、花嫁の伴侶は眉を寄せたが相手が花雪だとわかりなんとも言えない顔をした。

 花雪は人たらしなのである。

 しかし、そんな花雪フェンネルは移民の民を嫌っているので芽依が上手に手を躱す。


「あ…………すいません。綺麗で……綺麗過ぎて……」


「知ってます知ってます。でも私のだから触らないでね」


 笑ってガッツリ牽制する芽依にフェンネルは幸せそうに笑ったから、芽依はこれで合ってると1人で納得する。

 そんな2人に新しい花嫁は不満そうにしたが、この世界をまだ理解していないようで伴侶が軽く頭を下げた。


「……悪かった、うちのが迷惑をかけた」


「フェンネルさんが綺麗なのは本当だから良いですよ。ただ、何度もは許しませんからね。間違えないで欲しいから言っときますけど、フェンネルさんももう1人いるハス君も、彼らは私の家族ですから。家族、ですから。わかってもらえます?」


「あ、ああ……」


 うっすら怒っているの芽依。

 カテリーデンにしてもただの外出中にしても、フェンネルへ向けた色を含む言動は全く減らず、むしろ犯罪奴隷だからと遠慮もない。

 そろそろブチ切れそうな芽依はフェンネルに話しかける他人にピリピリしていた。


「…………メイちゃん?」


「…………うん。重くない?ハス君ももう来ると思うんだけど」


「大丈夫だよ……ああ、来たね」


 入口を見ると、来る予定ではなかったメディトークも居る。

 フェンネルもだが3人は箱を持っていて、それを中央にある丸テーブルに置いた。

 中を覗き込むと大量のタッパが入っている。


『ギリギリになっちまったが、これで大丈夫か?』


「うん!わざわざメディさんも来てくれたんだね、ありがとう」


『ああ…………お前最近機嫌悪りぃからな』


「………………そう?」


『ああ、ハストゥーレとフェンネルにちょっかいかけるヤツらにイラついてるだろ』


「そりゃイラつくよ。誰の許しを得て2人に触ろうとしてんだ、まったく。勝手に見るな触るな近づくな、ぶちのめすぞ」


 いつもよりも数段声が低くなり唸り声をあげそうな芽依に苦笑するメディトークは芽依の頭を撫でてヒョイと抱えあげた。

 ガルガルと誰かに噛みつきそうなのだが、奴隷2人は周りに花が飛びそうな程ほわほわと笑っている。

 いや、実際に花がポンポン出ているがフェンネルは完全無視で芽依だけ見ている。


「おーおー、荒れてるねぇ」


「あら、お花が凄いことに」


 ユキヒラとメロディアが近付いてくると、芽依は2人を見てメディトークから飛び降りた。

 そして、初めて身内以外の人に飛びついたのだ。


「メロディアさん!!大丈夫!?大丈夫だった!?面会ダメって言われてたから心配してた!怪我は治った?跡残ってない?位…………は、なおった?ユキヒラさんは大丈夫?」


「………………うふ、なんだか嬉しいわ、こんなに心配してくれるなんて…………なんで撫で回されているのかしら」


「だってしんぱ…………いったぁぁぁぁぁぁい!」


 しがみついた後、手をワサワサと動かし背中やら腕やら腰やら触りだした芽依の頭をスパァァァン!!と叩いたのはちょうど入ってきたセルジオ。

 青筋が浮かんでいてお怒りである。

 その後ろには苦笑するアリステアと、眉を下げるシャルドネに、あらあらと笑うブランシェット。


「何をしている、お前は」


「怪我が心配だったからつい……」


「ついで人外者を撫で回すな」


「……………………はぁい。フェンネルさん、後で齧っていい?」


「え……齧るの!?」


「……ちょっとだけ、軽くだけ、痛くしない。大丈夫、優しくする」


「や…………優しく……」


「ご主人様…………」


 いきなり矛先を向けられたフェンネルは思わず自分を抱きしめるが、芽依はじっとりと見つめていた。

 早急にメディトークに回収されるが、現在食料認定されはじめているフェンネルはそばに居ることが多い為、シラフでも美味しいのだろうか、酔ってる時限定だろうかと芽依の欲望を刺激している。

 可哀想に、一途に思っているフェンネルは常に身の危険に晒されているのだ。


 しかし、ここの奴隷達は上手にMっ子に育ってきているのかフェンネルは満更でもない顔をして頬を赤らめ、ハストゥーレはフェンネルばかりと拗ね始めた事でメディトークの疲れが最近倍増していてため息を吐き出した。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?