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第158話 団子とは


 暫定食の内容が決まり、その日まで2週間を切っていた。

 集められた移民の民と人外者、そしてアリステア達がその団子について話をするため定例会議がかなり早い段階で開始となる。


 あの怪我の後一切定例会議に出てこなかったメロディアとユキヒラの元気な姿を見てホッと息を吐き出した芽依は、用意された椅子に座る。

 少し高い椅子に手をかけた時、メディトークが後ろからヒョイと抱き上げ椅子に座らせた。


「ありがとう、メディさん」


『気にすんな』


 そんな様子をチラチラと見る新人花嫁と花婿。

 パートナー以外とふれあい楽しそうにしている芽依を見て、なんだ気にしなくてもいいんじゃないか、と考えを改めている。

 そんは伴侶2人も芽依とは初対面で、今もハストゥーレの外れかけている髪飾りを直している芽依に眉を寄せていた。


「………………さて、今回の暫定食についてなんだが。我々の知る限り団子……と呼ばれるものは知らない。そこで、移民の民である君たちの誰かが知っているのではないか、作り方はどうだろうと聞くために今回早めに定例会議を開始したしだいだ。すまないが、団子について教えてくれるか?」


 以前にも異世界の食事が暫定食として現れることは度々あったのだという。

 今回のようにその度定例会議をするが、抑圧されていた移民の民が口を開く事は一切なかったのだと言う話だ。

 しかし、今は柔軟に考えてくれる人達が増え定例会議にも移民の民から発言する事が増えてきた。

 だから、今回は協力して貰えるのではないかと期待している。


「……………………何か知ってるか?」


「団子…………?わからない」


 1人の人外者が聞くが、移民の民は本当に分からないのか首を傾げている。

 見た目はまるっきり日本人に近い。


「……………………団子を知らない?」


 ユキヒラはポツリと声を漏らすと、静まり変えていた室内の人達の視線を集めた。

 芽依は、あーやっぱり、と頷いた。


「………………あの、貴方はお団子を知らないの?」


「え?貴方は知ってるの?」


「………………………………どうなってるんだ」


 会話に入ってきたのはミチル。

 不思議そうに聞くが、相手も不思議そうに首を傾げている。

 芽依はそんな2人を見てから、丸テーブルに置い袋を触った。

 静かに出そうとしたが、ザカザカと音がなりピタリと止まった。だが今止まった所で今更鳴ってしまった音は隠しようもなく芽依に視線を集める。


「………………ご、ごめんなさい」


 えへ、と笑うとセルジオが隣に来て中を見る。


「………………これはなんだ」


「団子もどき」


「これが団子……?」


 袋から出したのはパックに入った団子の山だった。

 串に刺さった3個の団子の上にはみたらし餡がかかっていて、別のパックには餡子が乗っている。


「多分だけど、ここに来る移民の民って全員同じ世界から来てないんじゃないですか?それか、時間が違うとか…………前にニ……少年が時間が違うか平行世界かって言ってたから、私達も当てはまるのかなって……色々同じのも有るみたいだけど……例えばお節とか」


 カコカコと音を立てながら他のタッパも出していく芽依の後ろから覆い被さる様にメディトークがタッパを取り出し始めた。

 お?と上を見ると、黒光り腹部ボディしか見えない。


「メディさん?」


『…………ちょい黙っとけ』


「………………うん」


 何か警戒し始めたメディトークと同じようにフェンネルとハストゥーレも眼差しを鋭くさせている。


「えっと………………じゃあもしかしてハジビキから来たんじゃ……ないんですか?」


 さっきフェンネルに触れようとした花嫁が聞いてくるが、全員がハジビキ?と首を傾げている。

 明らかに違う場所から来たようだ。

 ボソボソと話し出した移民の民達の話からして数人同じ場所から集まっている人もいれば、全く知らない場所から来ている人もいるようだ。

 芽依の同郷はユキヒラ、ハルカ、そしてミカである。


 伴侶である人外者もそれは初めて知ったようだが、ふーん……くらいの反応だった。

 伴侶を持つ人外者にとって、そこまで重要視するものではないようだ。

 しかし移民の民にとっては違っていて、まるで知らない場所にきて移民の民という自国から来た存在だと思っていたから動揺しているようだ。

 長くこの世界にいるユキヒラも、いままで交流が無かった為、沢山の世界があるなど考えた事も無かったようだ。


「…………別の異世界か……それで能力の差があるのかな」


 自分の花嫁を見て呟いた人外者の言葉に全員が自分の伴侶を眺めた。

 フェンネルもおのずと芽依を見る。

 首を傾げてフェンネルを見ると、何故かハストゥーレと共にメディトークの中に入ってきて芽依をギュッと抱きしめた。


「……………………あれ、天国かな」


「なに馬鹿なことをしてるんだ」


 沢山の移民の民がいて、性格や性質は個別に違う。

 能力も勿論違うのだが、フェンネルとハストゥーレは自分の主人が芽依で良かったとしみじみ感じていた。


「……………………なにあれ」


 そんなほんわか家族満喫中の芽依を新しく来た移民の民数人は逆ハー……?と鋭い眼差しを送ってきたのだが、メディトークから威圧を受けてクラリと頭を揺らしている。

 なんとなくミカと似た視線だと警戒していたメディトーク。

 やはり、フェンネルとハストゥーレの存在は大きく、特に花雪のフェンネルは無自覚に魅了する。

 アウローラの意識して魅了を発動するのでは無く、常時発動でどうする事も出来ないのだが、フェンネルは芽依しか見てない為、他はどうでもいいを貫いている。

 だからこそ、メディトークは初期の2人だけの頃よりも常に警戒していた。


「……………………で、そうそうアリステア様、これが私の知ってる団子に近付けたブツです。ただ、私作った事がないので作り方が合ってるかが……ちょっと微妙といいますか」


「そうか」


「ちょっといいですか?」


 アリステアに手を上げながらミチルが言うと、アリステアはうなずく。


「私、和菓子好きなので作り方はわかるわ。まずは見てもいいですか?」


「ああ、もちろんだ」


 コツコツと足音を立てて近付いてくるミチル。

 その後ろには伴侶のレニアスが着いてきて、声を掛けてから団子のパックを開けた。


「…………………………ああ……お団子……」


 うっとりと串に刺さったツヤツヤのみたらし餡が掛かった団子を頬に手を当てて見てから指先で串を掴む。


「………………食べてもいいかしら?」


「どうぞどうぞ」


 ツヤツヤの団子を持ち上げぐるりと回して団子を眺めるミチルはうっとりと見てから、小さく口を開いてみたらし団子を食べた。

 全員の視線を向けられる中、目を閉じたまま食べるミチルは喉を鳴らして飲み込んだ。


「どう……?」


「…………美味しいけれど……少し硬いのと粉っぽいわね」


 うーん……とミチルは頬に手を当てて言うと芽依は眉を下げた。


「………………やっぱり?私和菓子の作り方はさっぱりでざっくりこうだったかな?しか覚えてない」


「十分美味しいけれど……」


「買ってまでは買わない味だよね」


「……………………そうですね、これしかないけれどどうしても食べたいってなったら買うかしら……って感じよね」


「だよねー…………メディさんが作ってくれたから味は最高なのに私の頭残念すぎるわ」


「…………弾力がやべぇ」


「だよねぇ」


 日本組の3人が集まりモッチモッチと食べていると、フェンネルも近付いてきた。

 ユキヒラが新しい団子を渡そうとする前に食べかけの団子を差し出した芽依を見て人外者たちが目を丸くする。

 差し出された団子をそのまま1口食べるフェンネルは口を動かし眉を寄せる。


「………………硬いよねぇ」


「うーん、正解がわからないけど餅みたいな感じ?」


「うん、近いよ。あんなにみょーんってならないけど」


「………………そうなんだ」


『……………………メイ』


「はい、メディさん。あーん」


『ぐっ…………突っ込んでくんじゃねぇ。俺は作る過程で食ってるから知ってる』


 串が刺さる勢いでメディトークの口に入れる、全然あーんじゃない。


「ああ、そっか…………ん?なに」


 テーブルに並んでいる団子を見てから顔を上げると全員が芽依を見ていた。

 アリステアは苦笑し、セルジオは青筋が浮かんでいる。

 シャルドネもどちらかと言ったら苦笑、ブランシェットは相変わらずあらあらと笑っている。

 そして、メロディア以外の移民の民を持つ人外者達は目を見開いて芽依を見ていた。





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