目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第164話 不穏な足音


 メディトークの呪いは3日で消えた。

 その間にチビチビしたメディトークの可愛さに悶絶していた芽依も、今では通常運転である。

 呪いを受けたながらも作ってくれた麻薬卵は美味すぎてフェンネルと一緒に悶絶して、ちいちゃなメディトークは呆れながらも嬉しそうにしてくれた。

 卵の呪いには掛かりたくないが、2人が喜ぶならと定期的に作られる麻薬卵を心待ちにするのだった。


 そんな平穏な日が続く中、巨大蟻に戻ったメディトークが土を気にしていた。

 何度も触っては険しい顔をして、場所を移動してはまた土を触る。


 それは野菜を植えている場所だけじゃなくて、ガガディたちのいる場所も細かくチェックしているようだ。


「…………どうしたんだろう、土がなんかあるのかな?」


「うーん……」


 フェンネルは自分の場所の土を触るが特に変わりは無さそうだと首を傾げた。

 いつもと同じ冷たい土である。


「僕の所は特に変わりないけど……」


「ご主人様……メディトーク様は如何されたのでしょうか?果樹園の方で何度も土の確認をされていたのですが……」


 困惑気味に芽依を見ながら聞くハストゥーレに芽依も分からず首を振る。


「分からないの、何したんだろうね」


 その日1日何かを調べていたメディトークはずっと険しい表情をしていた。

 結局芽依は分からなっかったのだが、フェンネルは静かに芽依の庭の土を確認して考え込んでいる。

 特に変わりが無さそうだから余計に困惑してしまうのだ。

 メディトークが気にしているのだから、絶対に何かありそうなのだ。


 翌日も、その翌日もメディトークは土の状態を確認している。

 同時にフェンネルの庭の土の確認を怠らない。

 流石に顔を見合わせる三人も異変を感じ土を良く観察するようになった。

 土の色は変わらないが、質感が少しずつ質感がサラサラしている様な感じがしていて、あれ?と首を傾げた。


「あれ……なんかサラサラしてない?」


 朝に水やりをしたのに、そのわりには土が乾いている。

 何度か触り、他の場所も確認する。

 程度は違うがやはり乾いている様子があるのだ。


「メディさん、なんか土が乾いてるんだけど……今ってそうなる時期だったりする?」


『乾いてるか……あれは栄養が抜け落ちてるんだ』


「え、栄養が!?大丈夫……じゃないよね」


『嫌な予感がすんな……アリステアに話した方がいい』


 隣にいたハストゥーレや、フェンネルの何とも言えない表情をしていて、あまり良い状態じゃ無さそうだと、こくりと喉を鳴らした。





「アリステア様、少しお話いいですか」


「ん?どうしたのだ?」


 夕食が始まる前、早めに来た芽依は、アリステアが来た瞬間に話し始めた。

 早い時間に仕事が終わったのか、肩を揉みながら入ってきたアリステアは直ぐに芽依の話を聞こうと顔を見てくれる。

 アリステアだけでなく、セルジオやシャルドネ、ブランシェットも椅子に座りなら芽依を見た。


「メディさんからなんですけど、数日前から土の状態をずっと気にしていたみたいなんです。それで、今日になって土の栄養が抜け落ちているって言っていまして」


「栄養が……?」


「勿論いつも使用している栄養剤は定期的に使っていますよ。それでも栄養が無くなっているみたいです。私も庭の土がサラサラになったのは初めて見ました」


 眉を寄せて、メディさんに報告してと言われた旨を伝えると、初耳だったのか考えこんでいる。


「備蓄場所の土はどうですか?」


「私が見る感じではあまり変わりは無いように思うのですが……私じゃ違いがいまいちわからないんです」


 シャルドネに聞かれ素直に分からないと伝えると、頷かれた。


「明日にでも確認した方がいいな」


「誰が行きましょうか」


「俺が行こう」


 こうして翌日の庭訪問が決定したのだが、土の変化は庭に行く前に他数人から報告があった。


 やはり、栄養が枯渇している、このままでは庭の存続が難しくなるから調べてくれないか、との事のようだ。


 最初はセルジオだけが行く筈だった芽依の庭には急遽アリステアやシャルドネ、ブランシェットも行くことになったのだった。


「……………………これは」


 他の庭よりも収穫量の多い芽依の庭ですら、土は痩せ細りいつものようにスクスク育っていた野菜たちはへにゃりとしなびていた。


「…………うそ、たった1日で?」


 芽依はすぐさまレタスを見るが、へにゃりと地面に葉を垂らしていてカサカサしている。

 触るとハラリと葉が落ちた。

 土は栄養不足でカラカラになってきているのに、じんわりと暖かい奇妙な手触りをしている。


「…………これは……思っていたよりも酷いものだな」


「昨日は、こんなんじゃなかったんです」


 振り向きアリステアに言うと、メディトークがノシノシとやってきた。

 その表情はとても険しいく不安を煽る。


「メディさん……」


『不味いことになってんぞ……これはシロアリだ』


「なんだと!?それは本当か!!」


「シロアリ……?」


 硬い口調で話すメディトークに芽依は眉を寄せるが、その他の人達は驚き目を見開いていた。


「……マズイぞ、それが本当ならこれからの食料危機は天災級になる」


 アリステアの呆然と呟く言葉に全員が悩み困惑する様子に隣にいるセルジオの袖を引いた。


「あの……シロアリってなんです?たぶん私の知ってるシロアリと違いますよね」


「あ……ああ、シロアリとは二月に訪れる害獣の一種で、庭に壊滅的な被害を与える真っ白な蟻だ」


「メディさんの親戚的な蟻ですか……」


『てめぇ……ナメたこと言ってんなよ?』


「いたたたたた!!ごめん!」


 頭をグリグリと押されヒィヒィと泣きそうになってシャルドネに苦笑されながら救出された。


「メディトークの親戚などでは無いが、シロアリは植物などよりも栄養豊富な土を好むのだ。だが、シロアリが出たら庭全体に多大な被害が出る。女王蟻はそれなりの大きさだが、兵隊蟻は大きくて6センチ程だ。それが大群で押し寄せるのだ」


「………………大群で」


 ぞわりと体を震わせた芽依は腕を摩ると同時に足元を見た。


 (前に、似たような感覚を体験したような……)


 それは、年末の戻り呪の事。

 封筒からあふれてくる白い何か。

 ゾロゾロと地面を多い尽くし喰らいついてくるのは、土の栄養を奪っていたのではないだろうか。

 ゾクリと体が震えると、フェンネルが芽依の肩に触れた。


「大丈夫?」


「フェン……私年末の戻り呪で似た様なのを見たんだけど……封筒から小さな白いのがゾロゾロ出てきて地面を覆って……私にもゾロゾロ登って齧り付いてた。封筒の中にはまだ光る眼が沢山あって……」


「………………多分、シロアリだな。お前の呪は随分未来に起こる現象が具現化するな」


 セルジオが悩むように言うのを不安そうに見上げると、そんな芽依に気付いたのかセルジオは大丈夫だ、と小さく笑った。


 皺が寄る程眉を寄せ険しい表情をするアリステア。


「緊急事態宣言を発令しなくては」


「緊急事態宣言……そんな大事なんですね」


「これから…………大飢饉がおきる」



 アリステアがすぐさま領主館に戻っていくのをセルジオ達も追いかけて行った。

 これからしなくてはいけないことが沢山あるぞ、とセルジオに言われたが困惑する芽依は曖昧に返事をするだけとなった。





















この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?