「そういえば、コウ」
「……ん?」
「ゴールデンウィークが終わるね~」
「……そうだね」
「えへへ」
「……ふふ」
「イチャついてんじゃねーぞ!」
俺が怒号を飛ばす。
しかし轟未来と木崎甲は動じることなく、和んでいた。
「もう~、津田ん怒り過ぎだよ~」
「……タラタラしてんじゃねーよ。みたいな突っ込みだね」
「あ、コウそれ面白―い」
「……ありがとう」
「えへへ」
「……ふふ」
ダメだこのカップル早く何とかしないと。
よくまぁ、人んち来てそのイチャイチャできるな、おい。
「コウ、津田んがなんか不機嫌だね」
「……きっとトイレが上手くできなかったんだね」
「ああ、なるほど」
「なるほどじゃないわ! トイレから帰ってきたらイチャついてたからイラっと来たんだわ!」
「えー。だってもう考えるの疲れたんだもん」
そういって轟ちゃんはコウの肩に頭を預ける。
再び言うがここ俺んち。よくそんなことできるな、おい。
俺はそう思いつつ、床に座る。
テーブルをはさんでイチャついている二人を睨む。
「……まぁまぁ、話さないといけないことはだいたい片付いたんだし、良いだろ」
「そうだそうだー」
宥めるコウと、それに乗っかる轟ちゃん。
三度言うけど、ここ俺の部屋。そして大事な部活の話をしていたでしょ。
「肝心な事。話してないだろ」
「…………」
「…………」
おい、目そらすふりして二人で見つめ合うな。
本題はこっからだろ。
俺は臆さずに聞く。
「次の部長について。どうすんの?」
「あー!」
急に轟ちゃんが叫び、寝そべった。
コウはその様子を困ったように見てから俺に視線を送る。
もう頭パンクだって。
そう言われた気がした。
「はぁ……分かった。ちょっと休憩な」
「わーい! モン狩るやろうぜ! モン狩る!」
そう言って轟ちゃんは上半身を起こし、ゲーム機を持ち出した。
馬鹿め! かかったな!
俺はゲーム機を取り上げる。
「なんて言うと思ったか! 決まるまでゲームはしません!」
「コウ! 津田んがまるでお母さんだよ! キャラ崩壊だよ!」
「……今回ばかりはコウジが正しいよ」
「ううっ! コウまで……!」
轟ちゃんから取り上げたゲームを床に置き、俺は話を進める。
流石にコウもこっち側のようだし。
「歓迎会を踏まえて、そろそろ決めないとじゃん」
「……そうだね。本格的に考えないとね」
「うー! 二人とも鬼! 悪魔! イケメン!」
「だー! もう話が進まん!」
俺は嘆くのだが、コウは「……イケメン」と喜んでいた。
このバカップルは……!
そんな俺の怒りをいい加減に察したのか、轟ちゃんが「だってだって」と言い訳を始める。
「そりゃ、候補は三月の時点で絞ったけどさ……部長副部長の関係性とか集団としてのバランスとかみんなの性格とか考えるとさ…………もう何が良いのやらで……」
「だから話し合うために集まったんじゃん」
「……まぁ、そんなことを三月からずっとしているんだけどね」
こらコウ。水を差さない。
とはいえ、そうなんだよなぁ。
もうすでに部長副部長のペアを候補者間で全通り試したりした。
なのに、どう転んでも心配事しかなく議論は停滞した。
「だから面談やったり歓迎会で観察したりしたんでしょ」
「そうだけど! コウ! ヘルプ!」
「……実際問題。椎名、増倉、樫田が部長候補だったけど、歓迎会を見る限り杉野でも悪くないんじゃないかってなったし、それでいうなら副部長に夏村もありって言いだしたりして、ぐちゃぐちゃになったからね。こないだ出した有力なペアって何組だっけ?」
「五組だな」
「……やっぱりそこから選ぶのが良いじゃない?」
ようやく本題の話になった。
だが、轟ちゃんも俺もコウの問いに答えられずにいた。
まぁそれが妥当であるのは分かるんだが……。
「「う~ん」」
どうもこれってやつがないんだよなぁ。
そんな俺たちを見てか、コウが話を少し変える。
「……今までは二年生たちだけで見ていたからね。一年生達のことも考えると別パターンでもいいけど」
「「そうなんだよ!」」
轟ちゃんと俺の声が揃う。
「あの一年生たちは一年生たちで一癖あるぞ! 絶対!」
「分かるよ津田ん! しかも二年生たちとの相性とかがまだ分からない! 現状で判断するのは難しい!」
「……ああ、うん。そうだね」
なんかコウが引いた気がするが関係ない。
演劇部の問題であり、二年生だけの問題ということもでもない。
「やっぱり春大会で決めるしかないかなぁ」
「そう言って決められないオチが見えてるな」
「……そうだね」
三人してへこむ俺達。
しばらくして、轟ちゃんが呟く。
「もう一年私が部長やろうかなぁー」
コウと俺は思わず、顔を合わせる。
「っく、ははは」
「……ふふ」
そして俺達が笑いだすと轟ちゃんが驚いた顔になる。
「なになに!? 二人してどうしたん!?」
「いや、だってなぁコウ」
「……そうだね。まさか未来からそんな言葉が出るなんてね」
「まったくだ! 人は変わるもんだな!」
俺達がそう言って笑い続けると、轟ちゃんが顔を真っ赤にして猛抗議した。
「なんだいなんだい二人して! 二人だって変わったくせに!」
「そうか?」
「……どうだろ」
「いいや変わったね! 津田んは始め新島先輩目当てで引退したら辞めるって言ってたくせに! それにコウだって前よりかっこよくなって!」
「……未来」
「おい」
イチャつくんじゃない。
この流れでそれはズルいだろ。
「てか、懐かしいな新島先輩。全然会ってないな」
「……春大会来るかな?」
「どうだろ。なんやかんや森本先輩とかは来そう」
「……確かに」
「新島先輩は、大学忙しくて分からないって言ってたよ」
さらっと轟ちゃんが言った。
そうか。大学生もたいへ――。
「え、轟ちゃん新島先輩と連絡とってんの!?」
「そだよ。津田ん知らなかったっけ?」
「初耳だわ」
いや、だからどうしたってことはないけどさ。
へー、そうなんだ。
「コウ、コウ。あれ絶対引きずっているよね」
「……しー。言わぬが花だよ」
聞こえてんぞバカップル。
こういう時はいじられる前に話を戻そう。
「先輩たちの話なったけど、本題の部長決めはそれでいいのか?」
「私としては、その方が良いと思う。後輩が出来たことで化ける人も出てくるかもだし」
「……それは一理あるね。実際、歓迎会で杉野の評価は上がった」
二人の言う通りだ。
今までの後輩としての動きとは違う、先輩としての動きができるか。
その点においては確かに歓迎会での杉野は後輩たちから高評価だった。
ただ――。
「それでいうなら、後輩たちかはおそらく樫田が集団の中心人物だと思われているぞ」
「だろうね」
「……違いない」
二人とも、知っていると言わんばかりに肯定した。
けれども顔は少し困った様子だった。
「樫田んは、もうちょっと欲を出してくれるならねー」
「……良くも悪くも自分の役割を全うしているね」
「だな」
優秀ではあるが、同時にそれが弱点にもなっている。
まぁ、そのおかげでまとまっている部分は大きいが。
俺は最終確認をする。
「それらが分かった上でアレ、やるんだな?」
「……」
俺とコウが二人して轟ちゃんの顔を見る。
俺達の不安を分かっているのだろうが、それでも笑顔で彼女は言う。
「うん。だって私たちがみんなに託せるモノはなんであれ託したいから」
その言葉を聞き、俺は覚悟を決めるのであった。