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第4章 悩める部活と猛練習

第76話 ゴールデンウィーク明け

 ゴールデンウィークが終わり日常へ。

 はっきり言おう。連休明けの授業眠すぎんだろ。

 もうこの一週間で授業の上手なサボり方忘れたわ。

 あー。眠かった。ようやくホームルーム終わった。


「じゃあな、杉野」


「おう、また明日」


 俺は友人の飯塚と別れ、部活へと向かう。

 五月も中旬を迎えた今日この頃。

 学校に一年生たちが慣れ始めたのか、廊下は四月の頃より騒がしく感じられた。

 その中を歩いていると、見知った顔と出会った。


「お」


「よ」


 タイミングよく、樫田が教室から出たところだった。


「じゃ、俺部活行くから」


「おう、また明日―」


「樫田君、じゃあねー」


 教室の中にいる友達たちに別れを告げる樫田。

 そして俺の横に並び一緒に歩く。

 樫田が前を向きながら話しかけてくる。


「今日から本格的に春大会に向けて動くだろうな」


「だな。楽しみだ」


「……なんか、元気だな」


「そういう樫田はどうした? お疲れか?」


「まぁ、な」


 意味深だな。と思いながらも気にせず話を進める。


「今日は読み稽古かな?」


「あー、どうだろ。一年生たちにある程度説明する必要あるだろうし、そこまで行くかどうか」


「確かに。樫田は今回も照明希望か?」


「一応な。ただ今後のこと考えると、裏方マジでどうすんだろって感じだ」


「あー」


 言われて気づく。

 俺達の代で裏方メインなのは樫田だけだ。


 けれど演劇の裏方には音響、照明。更に言えば大道具、小道具、衣装、制作と本来は役者より多い場合がほとんどだ(高校演劇では音響と照明を除き、兼用でやることが多い)。

 最低、音響と照明が一人ずつは必要となる(できれば二、三人ずつほしいところではある)。


 なるほど、それで元気なかったのか。

 裏方の樫田にとっては死活問題だもんな。

 てか、演劇部にとって重要な問題だった。


「そうだな。一年生たちはどうなんだ?」


「さぁな。あの感じだと田島と池本は役者希望で間違いないだろうな。金子はどうだろうな。歓迎会の時、裏方に興味はあるとは言っていたが、役者も興味あるだろうし」


「でも一年生たちが誰も裏方知らないのはマズいだろ」


「そうなんだよなぁ」


 樫田が珍しく、本気で困った様子だった。

 俺はそんな樫田を見て、思う。


 ああ、本当に俺たちが主軸となる時が来たのか。

 もう新年度になって一ヶ月も過ぎたというのに、その当たり前を実感する。

 先輩たちの引退、後輩たちの課題。

 そんな当然を、悩ましく感じてしまう。


「ま、そこら辺も含めて今日ある程度の動きが決まるだろうな」


 まもなく第二校舎の二階奥。いつも演劇部で使っている空き教室。

 そのためか、樫田はまとめるようにそう言った。

 確かに考えていても仕方がない。

 俺は樫田に同意した。


「……ああ、そうだな」


 そこで会話は止まり、空き教室の扉を開ける。

 すでに中には何人かいて、机を後ろへ片していた(掃除をするときのように)。

 扉が開いたことに気づいて、みんながこっちを見る。


「「おはようございます」」


「「「「おはようございます」」」」


 中にいた増倉、夏村、池本、金子が挨拶を返してくれた。

 先輩たちはいないみたいだ。

 ちなみに、うちの演劇は何時であってもこの挨拶を言うことになっていた。

 入った時からなので理由は知らない。

 俺と樫田も荷物を黒板下に置いて、みんなと一緒に机やイスを片づける。


「先輩たちはいないん?」


「うん。遅れるから先に準備運動しといてって鍵貰った」


「最近多い」


「まぁ、この時期だからな。もう俺たちがどこまで主体で動けるのか試しているのかもな」


 どうやら教室を開けたのは増倉らしい。

 夏村の意見に樫田が憶測で答える。

 ありえるな。


「今日何やるかは増倉聞いてないか?」


「轟先輩なら、『ふふふ、今日は重大な発表があるから楽しみにしていてねベイビー♪』って言ってたよ」


「似てる」


 真似をする増倉がツボったのか、夏村が満足そうな顔をした。

 どゆこと?

 春大会について何か発表があるって解釈でいいのか?


「あの人らしいが、全く情報がないな」


 これには樫田も良く分からんと言った感じだった。


「先輩、終わりました」


「次何したらいいっすか?」


 机とイスを片づけ終わったところで、池本と金子が聞いてきた。

 素早く樫田が答える。


「とりあえず着替えといてくれ。時間になったらストレッチと発声練習するから」


「分かりました」


「っす!」


 二人は着替えるためにトイレに向かった。

 そして入れ替わりように、椎名と田島が教室に入ってきた。


「おはようございます。遅れたかしら」


「おはようございまーす!」


「おはようございます。珍しい組み合わせだな」


「飲み物ほしくて購買行ったらたまたま椎名先輩と会ったんですよ!」


 俺が聞くと、田島が嬉しそうに言った。

 何か楽しい会話でもしたのだろうか。

 対して、椎名は教室内を確認して、樫田へと視線を送った。


「先輩たちはいないのかしら?」


「残念ながら。増倉が鍵を渡されたようで準備運動を先にしとけって。あと重大発表があるらしい」


「重大発表?」


「私も分からない。そうとしか言われてない」


「そうなのね……」


 増倉が両手を肩らへんまで上げてお手上げのポーズで答えると、椎名は考え出した。

 それを見た樫田は、田島の方を向いた。


「田島、池本と金子なら着替えに行ったから」


「さっきすれ違いました! 私も着替えてきます!」


 元気よく返事をして田島は教室を後にした。

 そして、今度は大槻と山路が入ってきた。


「おはようございまーす。ん? どういう状況?」


「おはようございます。あれ先輩たちはー?」


「ああ、実はな――」


 樫田は再度椎名にしたのと同じ説明を二人にした。

 二人とも「重大発表?」みたいな反応だった。


「十中八九、春大会のことでしょうね」


 椎名の意見にみんな頷く。

 まぁ、それはまず間違いないだろう。


「それはそうだろうけど、重大発表って具体的になんだ?」


「なんか、特別なことがあるってことでしょ。台本を変えるとか」


「ありそう」


「確かにそれなら台本を印刷する関係で遅れるってことかなー」


「どうだろうな。憶測で考えても仕方ないし、とりあえず着替えよう」


「だな」


 こうして、今日も部活が始まる。


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