ゴールデンウィークが終わり日常へ。
はっきり言おう。連休明けの授業眠すぎんだろ。
もうこの一週間で授業の上手なサボり方忘れたわ。
あー。眠かった。ようやくホームルーム終わった。
「じゃあな、杉野」
「おう、また明日」
俺は友人の飯塚と別れ、部活へと向かう。
五月も中旬を迎えた今日この頃。
学校に一年生たちが慣れ始めたのか、廊下は四月の頃より騒がしく感じられた。
その中を歩いていると、見知った顔と出会った。
「お」
「よ」
タイミングよく、樫田が教室から出たところだった。
「じゃ、俺部活行くから」
「おう、また明日―」
「樫田君、じゃあねー」
教室の中にいる友達たちに別れを告げる樫田。
そして俺の横に並び一緒に歩く。
樫田が前を向きながら話しかけてくる。
「今日から本格的に春大会に向けて動くだろうな」
「だな。楽しみだ」
「……なんか、元気だな」
「そういう樫田はどうした? お疲れか?」
「まぁ、な」
意味深だな。と思いながらも気にせず話を進める。
「今日は読み稽古かな?」
「あー、どうだろ。一年生たちにある程度説明する必要あるだろうし、そこまで行くかどうか」
「確かに。樫田は今回も照明希望か?」
「一応な。ただ今後のこと考えると、裏方マジでどうすんだろって感じだ」
「あー」
言われて気づく。
俺達の代で裏方メインなのは樫田だけだ。
けれど演劇の裏方には音響、照明。更に言えば大道具、小道具、衣装、制作と本来は役者より多い場合がほとんどだ(高校演劇では音響と照明を除き、兼用でやることが多い)。
最低、音響と照明が一人ずつは必要となる(できれば二、三人ずつほしいところではある)。
なるほど、それで元気なかったのか。
裏方の樫田にとっては死活問題だもんな。
てか、演劇部にとって重要な問題だった。
「そうだな。一年生たちはどうなんだ?」
「さぁな。あの感じだと田島と池本は役者希望で間違いないだろうな。金子はどうだろうな。歓迎会の時、裏方に興味はあるとは言っていたが、役者も興味あるだろうし」
「でも一年生たちが誰も裏方知らないのはマズいだろ」
「そうなんだよなぁ」
樫田が珍しく、本気で困った様子だった。
俺はそんな樫田を見て、思う。
ああ、本当に俺たちが主軸となる時が来たのか。
もう新年度になって一ヶ月も過ぎたというのに、その当たり前を実感する。
先輩たちの引退、後輩たちの課題。
そんな当然を、悩ましく感じてしまう。
「ま、そこら辺も含めて今日ある程度の動きが決まるだろうな」
まもなく第二校舎の二階奥。いつも演劇部で使っている空き教室。
そのためか、樫田はまとめるようにそう言った。
確かに考えていても仕方がない。
俺は樫田に同意した。
「……ああ、そうだな」
そこで会話は止まり、空き教室の扉を開ける。
すでに中には何人かいて、机を後ろへ片していた(掃除をするときのように)。
扉が開いたことに気づいて、みんながこっちを見る。
「「おはようございます」」
「「「「おはようございます」」」」
中にいた増倉、夏村、池本、金子が挨拶を返してくれた。
先輩たちはいないみたいだ。
ちなみに、うちの演劇は何時であってもこの挨拶を言うことになっていた。
入った時からなので理由は知らない。
俺と樫田も荷物を黒板下に置いて、みんなと一緒に机やイスを片づける。
「先輩たちはいないん?」
「うん。遅れるから先に準備運動しといてって鍵貰った」
「最近多い」
「まぁ、この時期だからな。もう俺たちがどこまで主体で動けるのか試しているのかもな」
どうやら教室を開けたのは増倉らしい。
夏村の意見に樫田が憶測で答える。
ありえるな。
「今日何やるかは増倉聞いてないか?」
「轟先輩なら、『ふふふ、今日は重大な発表があるから楽しみにしていてねベイビー♪』って言ってたよ」
「似てる」
真似をする増倉がツボったのか、夏村が満足そうな顔をした。
どゆこと?
春大会について何か発表があるって解釈でいいのか?
「あの人らしいが、全く情報がないな」
これには樫田も良く分からんと言った感じだった。
「先輩、終わりました」
「次何したらいいっすか?」
机とイスを片づけ終わったところで、池本と金子が聞いてきた。
素早く樫田が答える。
「とりあえず着替えといてくれ。時間になったらストレッチと発声練習するから」
「分かりました」
「っす!」
二人は着替えるためにトイレに向かった。
そして入れ替わりように、椎名と田島が教室に入ってきた。
「おはようございます。遅れたかしら」
「おはようございまーす!」
「おはようございます。珍しい組み合わせだな」
「飲み物ほしくて購買行ったらたまたま椎名先輩と会ったんですよ!」
俺が聞くと、田島が嬉しそうに言った。
何か楽しい会話でもしたのだろうか。
対して、椎名は教室内を確認して、樫田へと視線を送った。
「先輩たちはいないのかしら?」
「残念ながら。増倉が鍵を渡されたようで準備運動を先にしとけって。あと重大発表があるらしい」
「重大発表?」
「私も分からない。そうとしか言われてない」
「そうなのね……」
増倉が両手を肩らへんまで上げてお手上げのポーズで答えると、椎名は考え出した。
それを見た樫田は、田島の方を向いた。
「田島、池本と金子なら着替えに行ったから」
「さっきすれ違いました! 私も着替えてきます!」
元気よく返事をして田島は教室を後にした。
そして、今度は大槻と山路が入ってきた。
「おはようございまーす。ん? どういう状況?」
「おはようございます。あれ先輩たちはー?」
「ああ、実はな――」
樫田は再度椎名にしたのと同じ説明を二人にした。
二人とも「重大発表?」みたいな反応だった。
「十中八九、春大会のことでしょうね」
椎名の意見にみんな頷く。
まぁ、それはまず間違いないだろう。
「それはそうだろうけど、重大発表って具体的になんだ?」
「なんか、特別なことがあるってことでしょ。台本を変えるとか」
「ありそう」
「確かにそれなら台本を印刷する関係で遅れるってことかなー」
「どうだろうな。憶測で考えても仕方ないし、とりあえず着替えよう」
「だな」
こうして、今日も部活が始まる。